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第二章 仕組まれた婚姻-2

 客間に戻ると、部屋には女の召し使いが数人控えていた。 「湯浴みの用意をさせていただきます」  どうやら身を清めろということらしい。彼女らは長炉のそばで手際よく大桶に熱い湯を張り、石鹸(せっけん)や何枚もの乾布を準備していった。 「あの、僕、自分で入るから」  服を脱ぐのを手伝おうとするので、慌ててとめる。この人たちは腐り手(フォル・ハント)が怖くないのだろうか。ヨルクの拒否に、女たちはきょとんとした。 「よろしいのですか」 「はい」  女たちがさがったので、ヨルクはひとりで全裸に手袋だけの格好になって大桶に浸かった。魔法のかかった手袋は()れてもすぐに乾くので問題はない。温かな湯で身体を隅々まできれいにして、隣室で待機するエルミナールが用意したゆったりした長衣を身につけ、布でできたやわらかい靴をはいた。これからもうひとつの儀式が待っている。  そうしていたらヘンリクがやってきた。 「王の寝室へご案内いたします」  と言われて、侍従と見届け人、そしてヨルクの三人は通路を進み、初めて訪れる大きな館に入った。ここが王の居館らしい。海竜族の城は基本的に一階のみで、建物は横に広がった形をしている。それを屋根つきの通路がつないでいた。  王が暮らす館は、居間と続きの寝室、いくつかの小部屋らしきものと召し使いの控えの間がついた造りになっていた。組んだ石と木でできているのは他の館と同じで、壁には何枚ものタペストリーがかけられ、長椅子には毛皮が敷かれていた。そこかしこにおかれた蝋燭が、部屋をやわらかく照らしている。 「ヨルク王子がいらっしゃいました」  ヨルクら三人が奥にある寝室に入ると、ベッドの近くに簡素な羊毛の服を着た王が立っていた。 「こちらに」  ヘンリクが三人をベッドの前まで連れていく。彼の仕事はそこまでのようで、王に目礼して部屋を出ていった。何が始まるのかわからないヨルクが立ち尽くしていると、王が見届け人に話しかけた。 「床入りの儀は、振りだけでいいな」  確認を取るように言う。それに小人族は首を振った。 「いいえ。男女と同じようにしていただきたいかと」  王は眉を持ちあげた。 「どういうことだ?」 「実際に行為を行っていただきます」  小人族の小男が、目を逸らし気味に答える。 「だが、我らは男同士だぞ。意味があるのか」 「両国の友好関係の証として、確実に床入りを実行していただかねばなりません。それで婚姻の契りがなされるのですから」  見届け人が平坦に告げると、王の表情がみるみる険しくなった。 「この痩せて小さな青年と私が、身体をつなぐことができると思うのか?」  王の言葉にヨルクは目を瞬かせた。身体をつなぐとはどういうことなのだろう。 「床入りの儀とはそういうものです。どの国も初夜には身体をつなげていただき、見届け人はそれを確認してきました。今回、男同士の婚姻は初めて連盟が認めるところとなりましたが、それには床入りの儀をすますことも含まれております」  王が眉根をきつくよせた。 「無理だろう」  断言すると、見届け人は顎をあげて続けた。 「では、この婚姻は無効となります。ヨルク王子はジェマールに連れて帰ることになるでしょう」  見届け人の横で、エルミナールがいささか焦った顔になる。何か言いたげにしたが見届け人はそれを無視した。  王が小男を(にら)みつける。 「男同士の行為に意味はない。子がなせるわけでもないのに」 「子ではなく、行為をすること自体に意味があるのです。国家同士の婚姻です。結束をこの目で確認するために、私は同盟から派遣されてきました。なされなければ、それを白大陸同盟各国に報告するまでです」 「なせば、王子は命を落とすかもしれないぞ」  その言葉に、ヨルクはビックリした。  ──床入りの儀は命の危険があるのか。 「私のモノが挿入(はい)ると思うか」  言うなり、王は服を脱ぎ始めた。皆が見ている前で一糸纏わぬ姿になる。あらわになった屈強な躯体(くたい)に、ヨルクの目は(くぎ)づけになった。  王の身体には、魔族の証である濃紺の文様が至るところにあらわれていた。肩から腕にかけて、さらに脇腹から足の先まで、隆々とした筋肉の上に鮮やかな模様が浮かんでいる。そして足の間に存在するのは、ヨルクのものより数段立派な男性器だった。  いきなり裸をさらした王に、見届け人も驚いて怯んだが、それでも主張を覆しはしなかった。 「……同盟の、決まりです」  小男が譲ることなく念押しすれば、王も怒りもあらわに続けた。 「この婚姻を台無しにするつもりか」 「王は、過去、我が小人国の姫君が、巨人族の国に嫁いだことをご存じでしょうか」  ふいに話題を変えた小男に、王が(いぶか)しげにする。 「そのときも、床入りの儀はなされました」 「だがそれで姫は絶命したはずだ」  絶命。ヨルクは背筋が凍った。 「はい。姫は、勇敢にことをなされ、命を落とされました。しかしそれにより婚姻が台無しになることはありませんでした。両国の友好関係は以前にも増して強固になり、ふたつの国は今でも良好な関係にあります」  見届け人の言葉をヨルクが()みしめる。小人姫の犠牲によって婚姻は成立した。ということは、床入りの儀はそれほど重要な事柄なのだろう。もしも王が儀式を拒否したら、一体どうなるのか。国家間の大きな問題に発展するのだろうか。自分のせいでまた故郷の両親や兄姉が困ることになるのか。事態がうまく飲みこめないヨルクは焦るばかりだ。  王はいっとき考えるようにした。難しい顔つきになって、ヨルクのほうに目を向ける。細い身体を上から下まで確認するように睨みつけ、無理だというように首を振った。 「男など抱いたこともない」 「ではなぜ王子を娶ろうなどと思われたのですか」  見届け人がいささか呆れ顔で問う。 「床入りの儀を強要されるなど考えてもみなかったからだ」  王は吐き捨てるようにして答えると、声を荒らげて続けた。 「別段、我らはこの婚姻に関して同盟の了承を得る必要はないのだぞ。床入りの儀をせずとも誓いは立てたのだから婚姻は成立だ。王子はここに据えおく。お前たちはさっさと荷物をまとめて帰るがいい」  王が話は終わりだとばかりに大きく手を振る。見届け人はそれに抗った。 「それでは、王は、白大陸の白魔族全てを蔑ろにするつもりですか。同盟の決まりを守るつもりがないのならば、海竜族は白魔族と認められませぬ。黒魔族と同等の扱いになりますぞ」 「何だとッ」  黒魔族と同等、という言葉に、海竜王がいきなり怒りの牙を()く。王の背後から蒼銀色の(ほのお)が揺らめき立ち、それが部屋の空気を震わせた。ビリビリと振動が伝わり三人が怖じ気づく。 「海竜族を黒魔族扱いする気か」  今にも剣を取りにいき、見届け人を斬りつけるのではないかという形相に、ヨルクは思わず口をひらいていた。 「あのっ……」  一歩踏み出し、震えながら訴える。 「僕は構いません。床入りの儀式を受けます」  その言葉は考える前に出ていた。ただ、この場を平穏におさめたいがためだけに勝手に口が動いていた。  王が厳しい目つきのまま、こちらに顔を向けてくる。爛々(らんらん)と青く燃える瞳に、ヨルクは不思議な感慨を覚えた。  この人はどうして、ヨルクの死を回避しようと懸命になっているのだろう。そんな価値が自分にあるとは到底思えないのに。  誰もがヨルクの死を願っている。生まれてこの方、誰かに大事にされたことなどない。  けれどこの人は、そうじゃない。  ヨルクの腐り手(フォル・ハント)を見て『面白い、気に入った』と言い、婚礼の儀を笑みを浮かべて執り行った。  それだけで、今までの苦しみが報われる気がした。だったらここで死んでもいいという気持ちにもなる。  見届け人の話の内容からすると、婚姻に大切なのは友好関係らしい。ならば王が自分との婚姻を望むのも、きっとそのためなのだろう。ヒルドスキルフはジェマールとの友好関係を欲している。だとしたら自分だって小人姫のようにこの身を犠牲にして然るべきなのではないか。  ただ死ぬよりも、そのほうが格段に意味がある。誰かの役に立てるのだ。  ヨルクは隣のエルミナールにたずねた。 「僕はどうすればいい?」  それにエルミナールが我に返ったように目を瞬かせた。 「あ、ああ。ええと、……その、服を脱いで、……床に入っていただければ……」 「わかった」  手早く着ていたものを脱ぎ捨て、手袋だけ残して全裸になる。すると、その場にいた三人がヨルクの裸体を見て一様に表情を変えた。見届け人は痛ましそうに目を逸らし、王はこめかみに怒りの青筋を浮かべた。ヨルクの裸を見慣れているはずのエルミナールでさえも顔を背けた。 「本気で、私と床入りする気か」  王が聞いてくる。ヨルクはこっくりとうなずいた。 「何をするのかわかっているのか」  それにはうまく答えられない。普通だったら知っていてあたり前のことなのだろうか。小さく首を振ると、王はさらに表情を険しくした。 「それでもするというのか」 「はい」  覚悟はできていた。何をされてもこの人なら構わないと思えた。  王はヨルクに目を据え、心のうちにあるものをじっと見定めるようにしてきた。群青色の瞳は鋭く、鋭利な刃物のようにヨルクを貫いてきたが怖さはなかった。むしろ、不可解なことにある種の喜びが生じていた。胸の奥からゾクゾクとした熱がせりあがり、それが喉元を焼いてくる。こんな感情は、生まれて初めてだった。  海竜王は、ヨルクを見つめたまま大きな声を出した。 「ヘンリク!」  皆がビクリと肩を震わす呼びかけに、「はい、ただいま」と応えてヘンリクが控えの間から姿をあらわす。全裸の王とヨルクを見て、目を剥いたのも一瞬で、すぐに表情を引き締めた。 「お前の配下に、男同士の情事に詳しい者がいたはずだな」  問われた内容にいささかの戸惑いを見せる。 「は、はい。……確か、ひとり、いたはずですが」 「その者をここに連れてこい」   ヘンリクはその場の状況を理解するのに少し時間を要したようだった。目を泳がせて皆を見渡し、けれどすぐに全てを察したらしく、「わかりました」と告げて部屋を出ていった。  残されたヨルクは肌寒さを感じて身を震わせた。部屋には石で組まれた長炉があり、そこでは薪が赤々と燃えていたが温かさは足りていなかった。  それを見た王が、ヨルクに命じる。 「床の中に入って待ちなさい」  ベッドを示されて、ヨルクは素直に従った。  毛皮の敷かれた寝床にもぐって、羊毛の上がけを肩までかける。裸のせいか毛先が肌をこするたびに、森の獣に撫でられているようで落ち着かなさを感じた。  やがて大きな足音を響かせてヘンリクが戻ってきた。寝室に姿をあらわした彼は、後ろにひとりの青年を伴っていた。 「大斧(おおおの)使いオデクの息子、ヤーンです」  ヤーンと呼ばれた若者が、おずおずと前に出る。金髪で肉づきのいい大柄な青年は、こちらを見てギョッと顔を強張らせた。  全裸で立つ王と、同じく裸で寝床にいる王子、そしてそれを見物する小人族と人間。異様な雰囲気が漂う室内に目を彷徨(さまよ)わせた若者は、ヨルクと同じほどの年齢に見えた。  王が困惑するヤーンに話しかける。 「お前は男同士の情事に詳しいと聞いたが」  いきなり自分の性指向を人前で明らかにされて、ヤーンは蒼白になった。言葉を失い固まっていると、王がヤーンに重ねて聞いた。 「答えろ。私のものは、王子の身体に入ると思うか?」 「……」  全身を包み隠さずさらす王に、ヤーンが目を見はる。 「私と王子が身体をつなげなければ、婚姻が成立しないと見届け人が言う。だが私も王子も男同士のやり方を知らないので行為が可能かどうかわからない。どうだ? 私たちはできそうか?」  王の説明に、ヤーンは自分がここに呼ばれた理由を察したらしい。しかし、ベッドの中で縮こまる痩せた妖精族(エルフ)には戸惑いを隠せなかった。 「……王子様は、とても小柄で痩せて、いらっしゃる」  それにヘンリクが横から小声で言った。 「王子は覚悟を決めておられる。床入りは強制ではない。しかしできることならば身体を傷つけることなく王を迎え入れていただきたい。でなければ我が国にとってまずいことになる」  ヘンリクの脅しのような台詞に、ヤーンは自分に課せられた責任の重さを認識したようだった。真剣な顔になってヨルクの身体を見定める。 「……できないことは、ないと思います。……その、王の大きさならば、時間をかけてゆっくり行えば」 「お前はそのやり方を心得ているのか」  まだ幼さが残る青年は、大人たちの前で頬を赤らめながら答えた。 「ええ、……まあ」 「では手伝え」 「……えっ」  ヤーンが当惑顔になる。しかし断れる状況でないのは明白で、哀れな補佐役は青白い顔のままうなずくしかなかった。 「……できる限りのことはいたします」  その返事に、小人族とエルミナールが緊張した面持ちで顔を見あわせた。  準備のための道具が必要だというヤーンの申し出で本人がいったん席を外す。しばらくして戻ってきた青年の手には布袋があった。彼はヨルクのそばにやってくると、ベッドに乗りあげて、布袋を枕元においた。 「王子様の身体に触らせていただきますが、よろしいですか」  振り返って王に問えば、無言のまま王が首肯する。ヤーンはヨルクに向き直った。 「王子様、無礼をお許しください」  丁寧な断りに、ヨルクの警戒心が少しゆるむ。無礼ばかりされてきた身に、その言葉は温かかった。了解のしるしに自ら上がけをそっと外すと、あらわれた痩躯(そうく)にヤーンがきつく眉をよせた。きっと思った以上に痩せ細っていたのだろう。  ヨルクは急に自分の裸体が恥ずかしくなった。こんな貧相な身体でなければ、皆を困らせることはなかっただろうに。 「僕は、……何をすれば」  小声でたずねれば、ヤーンはヨルクを安心させるためか、ゆっくりと丁寧な話し方で答えた。 「どうか、身体の力を抜いていてください。これから無体なことをしてしまうかもしれませんが、少しでも楽にことをなすためです。私に御身を委ねてください」  ヤーンは心の優しい若者のようだった。同情を含んだ眼差しや労りのこもった口調に、ヨルクは彼を信じて全てを任せることにした。  ヤーンが布袋から何かを取り出す。小瓶や見たこともない楔形(くさびがた)の木の棒が中からあらわれて、ヨルクが目を瞬かせていると、ヤーンは小瓶をあけて手のひらにとろりとした液体を垂らした。匂いをつけた油らしく、花のような香りがあたりに漂った。 「王子様……、足を、ひらいてください」  壁を背中に足を投げ出して座っていたヨルクは、両足を立てて外側にひらいた。ヤーンが身を進ませて、ヨルクの足の間に座り直す。そして液体を指先で(すく)うと、驚いたことに濡れた指を性器の下に入れてきた。目を見はるヨルクの前で遠慮がちに指先を後ろの孔に挿入する。 「…………ぇ」  声も出せずに驚愕し、思わず腰を引くと、追いかけるようにして指がさらに奥へ入ってきた。 「……ひっ」 「王子様、腰をあげてください。大丈夫です。動かないで、そのままで」 「……っ、うッ」  一連の様子を見守る皆の眼差しに羞恥で死にそうになる。なぜこんな真似をするのか。そして、それをどうして他人に見られなければならないのか。  知識のないヨルクは戸惑うしかない。逃げ場もなく、ただされるがままに身体の奥をいじられ、目に涙が浮かんできた。 「ひくっ……、もぅ……」  もうやめて欲しい。こんな恥ずかしい思いをするなど予想外だ。いっそ早く殺してもらいたい。 「ヘンリク様、王子様に、気持ちを落ち着けるために、少し気つけの酒を差しあげてください」 「あ、ああ。わかった」  ヘンリクが急いで酒を用意する。ばたばたと行き来した後、口元に持ってこられた酒はきつい酒精の匂いがしたが、この状況から意識を逃がすことができるならと、飲み慣れない酒を一気にあおった。喉の奥が焼け、腹が熱くなる。同時に下半身の違和感が熱に分散されていく気がした。  ヤーンが指を増やして、ヨルクの内側をかき混ぜる。痛くはないが、ゆるい刺激に頭がグラグラした。瞳を彷徨わせれば王と目があう。王は群青色の瞳を蝋燭の灯に煌めかせ、ヨルクの表情をじっと観察していた。 「うう……」  ()だるような羞恥に、両腕で顔を覆う。見られたくなかった。  ヤーンにいじられている場所が、ヌチヌチと音を立てる。するとどういうわけか、こそばゆい感覚がそこから生じてきた。内側がひくついて、肉が(とろ)けていくような感じがやってくる。指の動きに慣れてくると、段々とむず(がゆ)さが強くなっていった。 「ん……っ」  先ほどとは違う(うめ)きが喉からもれる。不思議な刺激に酔い始めたそのとき、ヤーンはいきなり指を抜いた。 「ァ、んぁ……っ」  おいていかれた孔と肉が、情けない声をあげさせる。ヨルクは口を手で塞いだ。  それでもやっと終わったのかと、ホッと息をつくと、次にヤーンは楔形の道具を手に取った。もしやと身を強張らせたヨルクの下半身に、道具が向けられる。  それはヨルクの孔よりずっと太かった。先端は入るかもしれないが、根元まで全ておさめるなら身体は裂けてしまうだろう。思わず足をとじると、ヤーンが膝を押さえて言い聞かせるようにささやいた。 「王子様、これを使って、あなたの身体を広げていきます。王のものを受け入れるためにです。これをしなければ、身体をつなげるのは不可能でしょうから」  ヨルクは恐怖に身をわななかせた。王のものとは一体何か。それはこの道具のように太くて長いのか。知らず嫌々をするように首を振ると、ヤーンが困り顔になった。 「足をひらいてください。お願いします」  ヨルクは惨めな気持ちになって、仕方なく足をひらいた。自分のせいで他人を困らせることには慣れていない。怒りを買えば王やヘンリクに撲たれるかもしれない。体罰を覚えてしまっている頭は抵抗を捨てた。  ヤーンはヨルクの後孔に、道具の先端を差し入れた。けれどやはり怖くて足をとじてしまう。 「王子様」  言われてまたひらくも、道具が身体の中を進めば条件反射で勝手に内腿(うちもも)同士がひたりとくっつく。弱り果てたヤーンがヘンリクを振り返ると、彼は思いがけないことを言った。 「手伝おう」  やめるという選択肢はないらしい。ヘンリクはベッドに乗りあげると、ヨルクの横にきた。 「私が足を押さえている」  片方の膝頭に手をあてて、グッと引っ張る。 「ひ……っ」 「こらえてください」  非情な言葉に、ヨルクはすがるような目をヘンリクに向けた。けれど彼は中断を許さなかった。 「ヤーン、王子様をもっと感じさせろ。そうすれば身体も自ずとひらいていく」  ヘンリクの言葉に、ヤーンは難しい顔のままうなずいた。 「確かに、そうですね。そのほうが王子様の負担も少なくてすみます。苦しむよりずっといい」 「…………」  ヨルクが驚愕する前で、ヤーンが布袋から別の小瓶を取り出す。 「こちらの香油にしましょう。初めての方には刺激が強いですが、よく効くので」  一度抜いた楔形の道具に小瓶の液体を垂らすと、甘い匂いが漂った。  ふたりのやりとりにただ怯えていると、ヤーンが楔をふたたび後孔に挿入してくる。道具が体内にずっくりと入りこんできたとき、そこから痺れるような心地よさが広がっていくのを感じた。 「あ……」  喉を反らせて甘い声をもらすと、こちらを見つめる王と視線がかちあう。王はヨルクの変化を凝視していた。  睨むような瞳に胸の奥がゾクゾクする。 「はぅ……ぁ……」  左足はヘンリクが押さえているが、自由になる右足が勝手に暴れて身悶(みもだ)えた。 「王子様、あまり動かないで」  頼まれても、自分でもどうにもならない。なぜか腹の中が熱くなって、そこから見知らぬ快楽が次々わいてくる。 「香油が効きすぎたのか」 「かもしれません」  人間らしさが消えて、獣に落ちていく気がした。理性では抑えきれない魔物のような思考が頭の中を覆っていく。  ──ああ、これは、何……。  腹の中が、すごく気持ちいい。このままではどうにかなってしまう。けど、どうしていいのかわからない。  王の瞳に、魔法でもかけられてしまったようだった。恥ずかしい痴態を見つめられると、そこからジンジンと快楽が渦巻いて、拒否よりも、もっとという望みのほうが勝ってしまう。 「……やぁ」  手足をばたつかせてヘンリクとヤーンから逃げようとする。決して嫌なわけではなく感じすぎて辛いだけなのだが自分ではどうにもできない。そうしていたら、右側からもう一本の手が伸びてきた。暴れる手足を(つか)まれ、動きを封じこまれる。 「王」  その言葉に右を振り返れば、そこには王がいた。 「私が押さえている。続けろ」  のたうつ妖精族(エルフ)に手を焼くふたりに焦れたのか、海竜王自ら手助けをしようとする。  王の大きくて力強い手が自分の皮膚に触れていると思うだけで、ヨルクはそこから痺れるような快感を生んでしまいそうになった。 「……ぁ」  ブルブルとわなないて羞恥に死にたくなる。  三人の男に手足を押さえこまれ、足をひらかれて太く長い楔を後孔から入れられているという現実に目眩(めまい)がして、けれど股間を襲う快感にそのうち何も考えられなくなった。  ヤーンが楔を抜き差ししながら次第に奥へと進ませる。香油のせいか引き延ばされる皮膚に痛みはない。固い道具がグリグリと内側を(えぐ)るたびに、見知らぬ刺激が脳天を駆け抜けた。 「はぁ……あぅ……ぁぁ……」  自分の痴態が皆の目にどのように映っているのか。  乱れているのはヨルクだけで、三人の男たちは至って冷静な様子だ。それが泣きたいほどいたたまれない。 「感じていらっしゃる。よい兆候です。王よ、王子様のものを手で触ってあげてくださいませんか」  ヤーンが王に進言する。王は片眉をあげた。 「王が触れられてから、王子様の身体が従順になられました。あなた様を受け入れていらっしゃるのです」 「私を?」 「ええ。きっと喜ばれます」  剥き出しになっている性器が、少し勃ちあがっている。三人の視線にさらされた哀れな肉茎は、先端から(しずく)をこぼしていた。 「ご無理なら私が」  ヘンリクが横から提案する。 「いや」  王はヘンリクを遮り、大きな手を伸ばして、そっとヨルクの性器を包みこんだ。 「──あッ」  瞬間、きつい快感が薄い皮膚を駆け抜ける。触れられただけなのに、ビリビリとそこが痺れた。 「あ……あッ、やっ、やあッ、──そこ、お願い、触らないでえっ」  気持ちよすぎて身も世もなく泣き叫ぶ。こんな感覚は経験したことがない。 「あ、や、もっ、もう、もうッ、はァッ、ダメッ──」  王の指が先端をいじると、目の前に星が弾けるようだった。 「王、()かせてはなりません」  ヤーンが王を(いさ)める。 「なぜ」 「達ってしまっては、後が苦しくなります。達かせず、極限を保たせてください」 「なるほど」  ふたりの会話に、横からヘンリクが苦く呟く。 「何という酷な」 「達くのは、最後に、王の身体によってです。それが一番、王子様にとって負担が少ない」 「……確かに」  ヘンリクは、それ以上何も言わなかった。  皆の前でゆるゆると扱かれて、ヨルクは気を失いそうになった。王の手が、自分の信じられない場所をもてあそんでいる。 「アッ、はうっ、うう、うううッ」  楔はすでに十分ヨルクの中に沈み、後孔は引き()れるほどに拡張されているのだろう、力を入れようにも道具に阻まれて全くそれができなかった。 「普通ならば数日かけてゆるめるところですが」  ヤーンの指が後孔の周囲を撫でる。 「王子様の身体は素直でいらっしゃる。これなら王を迎え入れることも可能かもしれません」 「ではもう挿入できるのか」 「十分とは言えませんが、ゆっくり気遣って挿れていただければ。耐えられるでしょう」  ヤーンが楔をヨルクから慎重に抜いた。自分を犯していた道具が去ると、ヨルクは四肢から力が抜けてぐったりとなった。  王が背後を振り返り、部屋の隅に控える見届け人を呼ぶ。 「床入りの儀だ。確認せよ」  それに小人族と侍従がおずおずと近づいてきた。  蝋燭の灯に照らされたベッドの上で、王とヤーンが場所を入れかわる。ヨルクは熱に浮かされた目で、ぼんやりと屈強な王を見あげた。橙色(だいだいいろ)の光を浴びたなめらかな肢体は、威圧感に満ちている。筋肉を走る文様は、ときおり色を揺らめかせ天藍石のように輝いていた。  海竜王の分身はまだ頭を床に向けていた。皆が見つめる中、王は小瓶を手にして香油を手のひらに垂らし、自身を握りこんだ。上下に扱けば、それはすぐに天井を向く。太くて長い海竜の証は楔よりも(かさ)があるように思えた。ヨルクはこれが自分の中に入るのだなと、そのとき初めて理解した。  身体をつなぐというのは、そういうことなのだ。  ヘンリクとヤーンが、両側からヨルクの膝を持ちあげる。もう抵抗する気力もないヨルクはされるがままに身を任せた。  王が足の間で、身を進ませてくる。見守る四人の男が固唾を呑む。 「ヒルドスキルフのために」  王の言葉と共に、道具とは違う熱くねっとりとした塊が、皮膚と粘膜の境を割りひらいた。 「……は……っ……」  大きな衝撃が、体内を浸食し、奥までずるりと擦りあげる。 「ああ……ぅ……っ」  激しい愉悦と痛みが、身を切り裂いた。硬い楔とは異なる圧迫感は、神経を壊してしまいそうなくらい激烈だった。  怖い。苦しい。つらい──。  つながった場所が焼けただれていくようだ。

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