5 / 6
第5話 美しい背中
ベッドの上に座る雨宮の背中を凝視する。まるでこれからコンサートでも始まるような心持ちで、正座して。
雨宮の指は白い。というか、もともと日に焼けていなくて色白な肌が、あちこちにある黒い模様のコントラストで余計に白く見える。その白黒の指が背中の布をつかみ、引っ張り上げ、引き締まった腰があらわになる。服の裾をつかみとると頭からすっぽりとぬきとり、広い背中の全容が明らかになった。
「わぁ……」
そして、俺は言葉を失う。
雨宮の背中には、羽が生えていた。黒々とした両翼は濡れていて、肩甲骨がうごめくたびにおおきく羽ばたきだしそうな、躍動感にあふれている。つやつやとした翼の先からしたたっているのは、雨粒だろうか。その水滴は腰のさらに奥へと落ちている。
そっと、指先で触れた。
なめらかで、弾力のある手触り。当たり前だが生きている温度を感じる。
翼の付け根は力強く、そこにたくましい筋肉がおさめられている。内側の羽根はコンパクトで柔らかそうで、外へ向かうほど大きくかたくなる。腰まで伸びたその羽根先に指を這わせると、雨宮が小さく跳ねた。
「すみませんっ、また勝手に触っちゃった」
慌てて手を引っ込めたが、「いいよ、触って」と言われ、再び背中を手でなぞった。
「この羽はなんで濡れてるんですか?」
「鳥って、羽が濡れたら飛べないっていうけど、本当はけっこうな雨の量でも飛べるんだよ。必要なら、どんな嵐の中だって飛んでいく。そういう強さにあやかろうと思って」
この翼で、雨宮さんはどこへ飛んでいきたかったのだろう。行きたい場所へたどりつけたのだろうか。それはあまりにも踏み込んだ質問だと思い、代わりに前から気になっていたことを聞いた。
「これ入れたとき、もう温泉入れないなって思いました?」
「ははっ」
彼の肩が揺れて、羽も揺れた。
「温泉かあ。まあ温泉だけじゃなくて、プールとか海水浴とかでもあまり人に見せて怖がらせたくはないから、着る服選ぶなあとは思ったよ。温泉好きなの?」
「はい、好きです。湯船があると冷たくなるまで浸かっちゃうから、スマホでタイマーかけて風呂入ってます」
「そうなんだ。じゃあ今度一緒に温泉行こうよ。貸し切り風呂あるとこ」
「いいですね」
他のみんなも一緒に、とはどちらも言わない。
雪見温泉がいい。真っ白な雪を背景に、雨宮がしなやかに背中を伸ばすところを想像してみる。湯気の中で広げる翼はきっと、どんな鳥よりきれいだ。
ともだちにシェアしよう!

