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第4話
相手は母国から連れてきた馬の調教師で、甚だ身分違いながらふたりは愛し合ってきた。お転婆な姫君は子供の頃から乗馬が好きで、厩舎に通ううちに親しくなったのだという。
レザンへの輿入れが決まった際、調教師は関係を終わらせることを申し出た。
だが生まれてはじめての恋に夢中だった姫君はそれを許さず、大勢の侍女たちとともに恋人を伴って嫁入りした。
こんなことが明るみに出たらただでは済まない。王太子妃の不義密通など、同盟関係を揺るがす大事件というだけでなく、庇護を受ける側のグローラムはレザンに見捨てられ、たちまち敵国ダリントンの餌食にされてしまう。
それでも姫君は事の重大さが理解できていなかった。
遅くにできた一人娘で、ちやほや甘やかされて育った彼女は叱られた経験がなかった。年のわりに幼く我が儘で、グローラムでは常に我を通してきた。
それゆえ政略結婚の道具にされ、隣国に嫁ぐことになった瞬間、彼女の中で防衛本能が剥き出しになった。せめて愛する人とは引き離されまいと意固地になったのだ。かくして姫君は王太子と夫婦になった後も、調教師と秘密の関係を続けているのだった。
王太子の結婚は完遂されず、第二王子は策を弄し、王太子妃も不義を働いている―――そんな不穏な宮廷である時、さらに良くないことが起こった。
かねてより持病に悩んでいた王の体調が悪化したのだ。
王は生まれつき胸の病を患っていたが、最近頻繁に発作が出るようになった。そのため療養が必要と診断され、王太子が名代を務めることになった。
これに反発したのが第二王子だ。
ますます兄への嫉妬を強めた彼は、八つ当たりとして、弟のものを取り上げてやろうと矛先を変えた。弟の相続分を我がものにするためには、たとえ弟が結婚したとしても妻に子供を産ませてはならないと考えた第二王子は「男を配偶者にすればいい」と思いつき、冷静な判断ができない病床の王を丸め込む。
結果として、第三王子の婚約者に侯爵家の悪役令息が選ばれた。
当の本人たちは「男同士で結婚だなんて」「よりにもよってこんな相手と」と猛反発し、再考を強く願い出たものの、国王の命令であり、しきたりも絶対であることから、決定が覆ることはなかった。
これに怒ったのは敵国ダリントンだ。
自分たちの申し出を断るため、無理やり男同士で婚約したレザンに「侮辱を受けた」と感じたダリントンは態度を硬化させ、グローラムだけでなく、レザンをも討つべき相手と狙いを定めるようになる。
一方、婚約が嫌で嫌でたまらない悪役令息は密かに第二王子と接触する。
「王子との婚約を破棄したい」「自分の相続分を増やしたい」という利害が一致した結果、ふたりは第三王子を亡き者にすべく手を組むのだった―――。
† † †
「……あらためて考えてもドロドロだなぁ」
連れてこられた部屋でひとり、ユキはドラマを思い出しながら嘆息した。
これが第3話までのあらすじだ。
怒濤の展開に次ぐ展開で、いつも最後に「えっ?」となることが起こり、「これからどうなるんだろう」と視聴の手が止まらなくなる。タイトルに『背徳』とあるのを見た時から何かあるとは思ったけれど、予想以上に権力と愛憎でドロドロだ。
「でも、そこがいいんだよね。海外ドラマのファミリーヒストリーって感じで」
登場人物ひとりひとりに表の顔があり、裏の顔がある。誰ひとり一筋縄ではいかない。仲間だと思っていたものに裏切られ、敵だと思ってきた相手が味方になる話だ。
「アーサー殿下とルカ様って、これからどうなるのかなぁ」
本人たちは嫌がっていたので申し訳ないけれど、見ている側はふたりが並んだシーンで胸が高鳴った。今思い出してもドキドキする。
この世に生を受けて十七年、ゲイとして肩身の狭い思いをしてきた。同性が好きなんて『普通』ではないし、己の性的嗜好は言ってはいけないことだと思って生きてきた。
それがどうだ。
作品の中では同性カップルが当たり前に存在している。たとえそれが本人たちの望んだことではなくとも、ふたりの会話や駆け引きをこの目に焼きつけたいに決まっている。
「しかも、相手はあのアーサー殿下だもんね」
瞼の裏に浮かぶ美青年の面差しに、ついついだらしなく頬がゆるんだ。
すらりとした長身で逞しく、聡明でありながら愁いを帯びた眼差しがたまらなく美しい。特に、青空を映したような水色の瞳はきれいで、目を伏せた時に胡桃色の睫毛が頬に影を落とす様まで絵になる、またとない美貌の持ち主だ。
王宮にいれば彼にも会えるかもしれない。それ自体はうれしいのだけれど。
「ただ、なぁ……」
問題はここからだ。
全6話からなる『レザン―背徳の王冠―』の後半はまだ視聴していないものの、各話のあらすじだけは読んで知っている。それによると、この先目を覆いたくなるような展開が待っているのだ。
† † †
第4話は雷鳴轟く中、悪役令息が人目を忍んで武器商人のところへ出向き、第三王子を殺すための短剣を手に入れるところからはじまる。不穏な幕開けだ。
王宮の中では、第二王子の愛妾たちがお互いを出し抜こうと宮廷内の秘密を探ることに躍起になっていた。ふたりとも第二王子の婚約者の侍女だ。本来であれば主のために心を砕き、忠誠を誓う立場である。
にもかかわらず、第二王子の権力と甘言にコロリと騙され、主人を裏切り、彼女の夫となる人と不貞を重ねては、どちらがより寵愛を得るか、どちらがより重宝されるかと醜い争いをくり広げているのだった。
そんな愛妾たちによって、ある時ついに王太子妃の秘密が暴かれてしまう。
第二王子はそれをネタに、王太子妃の恋人である馬の調教師を強請って仲間に引き込む。「言うことを聞かなければ関係をバラす」と脅された調教師は命じられるまま第三王子を殺そうとするが、異変を察知した第二王子の婚約者に阻まれて計画は失敗に終わる。
調教師は深い自責の念に駆られ、逃げるように王宮を出ていくのだった。
愛する人を失った王太子妃は半狂乱になる。
同時に、「王太子妃は不貞を働いていた」と密告された王太子も精神的に病んでしまう。潔癖で曲がったことが大嫌いな性格だけに、妻の裏切りが許せなかったのだ。
さらに、そんなタイミングで王太子妃の妊娠が判明し、宮廷はさらなる混乱に陥る。
焦ったのは第二王子だ。生まれた子供が男児だった場合、その子が王位継承権第二位となり、自分の順位が下がってしまう。
第二王子はまたも「結婚自体がうやむや」の件を持ち出して騒ごうとして、病床の王にきつく灸を据えられた。これを聞きつけた第三王子は、身重の王太子妃が襲われないよう第二王子の婚約者と協力して守りを固める。
一方、王太子妃の妊娠をきっかけに、共闘するはずだった第二王子が第三王子に興味をなくしたことに悪役令息は焦っていた。「こうなったら自分ひとりでやってやる」と暗殺を計画するものの邪魔が入って失敗してしまい、ますます苛立ちを募らせていく。
男児出産を是が非でも阻止したい第二王子は、王太子妃を流産させるべく、愛妾たちに毒を盛るよう指示する。だが、これが彼の最大の失策だった。
暗殺失敗の腹癒せと、勝手に共同戦線を離れたことへの恨みを込めて、悪役令息が第二王子本人に毒入りのワインを飲ませたのだ。
第二王子は死亡し、調査の過程で悪役令息が第三王子の暗殺を企てた件も露呈する。
結果、悪役令息は処刑され、婚約は解消された。衝撃的な事件に宮廷には動揺が広がり、中にはしきたりの見直しを口にするものまで現れはじめる。
そんなところへ、今が好機とばかりに敵国ダリントンから開戦通告が届いた。
恥をかかされた仕返しにレザンを蹂躙し、あわよくばその庇護下にあるグローラムまで奪ってやろうという魂胆だ。王は病に倒れ、王太子は心を病み、第二王子は亡くなったという最悪の状況下、レザン王国は絶体絶命のピンチに晒される。
ここで立ち上がったのが第三王子だった。
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