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第3話 俺じゃなくても
合同合宿初日の体育館には、知らないシューズ音が響いていた。
複数の大学から集められた選手が、赤と青の練習着に分かれている。
迅は赤。
律は青。
ネットを挟んだ反対側で、律が青いシャツの裾を整えていた。
目が合う。
迅が軽く顎を上げると、律も同じように返した。
それだけだった。
朝、宿舎から体育館へ来るまでは隣を歩いていた。
昨夜もメッセージを送り合った。
離れていると言っても、コート一枚分しかない。
それなのに、別の色を着ている律は妙に遠く見えた。
「霧島」
呼ばれて振り向く。
赤チームのセッターが、ボールを脇へ抱えて立っていた。
三年生だと紹介された男だった。落ち着いた声で、話す速度も一定している。
「普段、速い球と高い球、どっちが多い?」
「どっちでも打てます」
迅が答えると、相手は小さく笑った。
「頼もしいな。最初は標準くらいで上げる。合わなければ言ってくれ」
「分かりました」
「助走だけ見せてもらっていい?」
迅は頷き、ネットから距離を取った。
床を蹴る。
いつもの歩幅で助走へ入る。
跳ばずに振り抜くところまで見せると、セッターはボールを一度床へ弾ませた。
「もう一回。今度は上げる」
迅は構えた。
投げ入れられたボールがセッターの指へ収まる。
トスが上がる。
律の球より、わずかに高い。
回転が少なく、空中で静かに待っているようなトスだった。
迅は最後の一歩を伸ばし、跳んだ。
打点へ入る。
腕を振り抜くと、ボールはクロスへ鋭く落ちた。
「ナイス」
赤チームから声が飛ぶ。
迅は着地し、床を踏みしめた。
打てた。
律のトスではなかった。
高さも、指を離れたあとの伸びも違った。
それでも迷わず跳び、いつもどおり決められた。
「少し高かったか?」
セッターが尋ねる。
「いや、打ちやすかったです」
迅は答えた。
嘘ではなかった。
「次、もう少し中へ寄せる」
二本目も決まった。
三本目はブロックを想定し、ストレートへ打ち分けた。
四本目は助走が詰まったが、空中で身体を捻ってブロックアウトを取った。
「合わせるの早いな」
近くにいた指導者が言った。
「霧島は多少ずれても自分で処理できる。セッターも無理に普段の形へ寄せなくていい」
「はい」
迅は返事をした。
胸の奥が、わずかにざらついた。
褒められている。
自分が優秀だと認められている。
普段なら嬉しいはずだった。
ネットの向こうで、律が別のエースと話している。
青チームのエースは、迅より少し背が高かった。
素直そうな男で、律の説明を聞くたび大きく頷いている。
「もう少し助走を外から入れ」
律が床を指す。
「ブロックが一枚ならクロス。二枚揃ったら、俺が少し短くする」
「分かった。鈴谷の合図を見ればいい?」
「指だけ見てたら遅れる。相手の肩も見ろ」
「やってみる」
律がボールを受け取る。
青のエースが助走へ入った。
律のトスは、迅へ上げるときより少し高かった。
打ち手の跳ぶ位置を確かめるように、一本目を丁寧に置く。
エースは真っすぐ跳び、強く打ち込んだ。
ボールがコートへ弾む。
「今の高さ、打ちやすい」
「次は半分速くする。遅れるなよ」
「任せろ」
二本目。
律は宣言どおり、わずかに速い球を上げた。
エースは助走を合わせ、ブロックの脇へ打ち抜いた。
律が笑う。
迅が決めたときにも見せる笑い方だった。
口元を上げ、満足そうに目を細める。
迅の腹の奥が熱くなる。
面白くなかった。
昨夜、律は迅の腕の中で言った。
お前が決めるところが好きだと。
迅のトスを打つ瞬間が、一番格好いいと思うと。
今は別の男が律のトスを決め、律が嬉しそうにしている。
「霧島、次いくぞ」
呼ばれ、迅は前を向いた。
トスが上がる。
強く床を蹴った。
さっきより高く跳べた。
相手コートの奥へ、叩きつけるように決める。
着地した迅は、すぐネットの向こうを見た。
律もこちらを見ていた。
迅の一本を見ていたらしい。
目が合った瞬間、律の眉がわずかに上がる。
格好よかった。
そう言われたような気がした。
迅は口元を上げた。
律も笑い返す。
その直後、青のエースが律へ声を掛けた。
律はそちらを向いた。
迅の笑みが消えた。
午前の練習が終わる頃には、赤チームのセッターとの呼吸はかなり合っていた。
迅が助走へ入れば、欲しい位置へ球が上がる。
多少違っていても、空中で処理できる。
一方の律も、新しいエースの長所をすぐに掴んでいた。
高さを生かす球。
ブロックを一枚に絞らせる組み立て。
フェイントを混ぜるタイミング。
青チームの攻撃は、律が中心になって動き始めていた。
****
昼休憩。
迅は壁際に座り、弁当の蓋を開けた。
少し遅れて、律が隣へ来る。
青いシャツが視界に入る。
「そっち、どう?」
迅が尋ねた。
「悪くない」
律は箸を割った。
「素直だから動かしやすい。言ったことをすぐ試す」
「俺は素直じゃないって?」
「お前は言わなくても勝手にやる」
「そっちの方が楽だろ」
「予想を外すから面倒だ」
律はそう言いながら、少し笑った。
迅は弁当へ視線を落とす。
「お前も普通に上げられてんじゃん」
「当然だろ」
「俺じゃなくても」
律の箸が止まった。
迅は続けるつもりではなかった。
口から勝手に出た。
律が迅を見る。
「お前も、俺じゃなくても打ててる」
「まあな」
「打ちやすそうだった」
「実際、打ちやすい」
「ふうん」
律が卵焼きを口へ入れる。
迅は横顔を見た。
「何その返事」
「別に」
「むかついてんの?」
「お前が嬉しそうだから」
「嬉しそうに見えた?」
「決めるたび笑ってた」
「お前もだろ」
「俺はセッターだから、打ってもらえたら嬉しい」
迅は箸を置いた。
「俺のときだけじゃないんだ」
律の眉間に皺が寄る。
「当たり前だろ。誰に上げても、決めたら嬉しい」
「知ってる」
「じゃあ何だよ」
「何でもねぇ」
迅は弁当を食べ始めた。
律も黙った。
二人の肩は触れていた。
いつもと同じ距離なのに、妙に落ち着かなかった。
****
午後は、赤と青に分かれて実戦形式の練習になった。
迅は後衛から助走へ入る。
セッターが相手ブロックを見て、バックアタックを選んだ。
律なら同じ判断をしただろう。
トスが上がる。
迅は強く踏み切った。
ブロックの指先を狙い、コート外へ弾き出す。
赤チームが沸いた。
セッターが迅の肩を叩く。
「助かった」
「今の球、よかったです」
「霧島なら決めると思った」
その言葉に、迅の足が止まった。
律も、よく同じようなことを言う。
お前なら決めると思った。
多少無茶でも、お前なら打てる。
それを聞くたび、自分だけに向けられた特別な信頼だと思っていた。
目の前のセッターも、まだ組んで半日しか経っていない迅を信じて上げた。
迅もその期待へ応えた。
特別だと思っていた感覚が、簡単に再現されている。
ネット越しに律を見る。
律は青のエースへ短いトスを上げた。
相手ブロックが遅れる。
エースは空いたコースへ打ち込んだ。
「いい判断」
律がエースの背中を叩く。
「鈴谷のトスがよかった」
「次も決めろ」
「任せろ」
迅の胸が沈んだ。
別の男も、律の期待へ応えている。
律も、その男の強さを引き出している。
何も壊れていない。
自分たちは、別々でも十分に強い。
練習が終わると、指導者が全員を集めた。
「初日としては悪くない。普段と違う相手でも、上位の選手は修正が早い」
迅と律の名前も挙げられた。
「霧島はトスの違いへ対応できている。鈴谷は打ち手に合わせて攻撃を組み立てられている。二人とも、特定の相手に頼らず結果を出せるのが強みだ」
周囲から納得するような声が上がった。
迅は黙って聞いていた。
特定の相手に頼らない。
競技者としては、最高の評価だった。
隣の列にいる律を見る。
律も指導者を見ている。
横顔からは何も読み取れなかった。
****
宿舎へ戻る道で、二人は並ばなかった。
赤チームと青チームで、少し離れて歩いた。
離れていると言っても、数人分の距離しかない。
迅は何度も律を見た。
律は青のエースと今日のトスについて話している。
楽しそうというほどではない。
普段どおり、真剣にバレーの話をしている。
それだけで胸が痛んだ。
宿舎へ着き、夕食を済ませる。
消灯までは自由時間だった。
迅は部屋のベッドに座り、スマートフォンを握った。
律とのやり取りを開く。
今日、どこで調整する。
そう送ろうとして、指が止まる。
昨日までは当然だった。
身体を重ねた翌日に、二人の調子が戻った。
好きだと認め合ったあと、さらに噛み合った。
だから行為には意味があると思った。
互いを深く知ることで、コートでも一つになれる。
好きな相手だから、最高のプレイができる。
そう信じていた。
今日、律は迅と一度も組んでいない。
それでも最高のトスを上げた。
迅も律の球を一本も打っていない。
それでも何本も決めた。
行為のおかげではなかった。
恋人になったから強くなったわけでもなかった。
なら、最初の不調が戻ったのも、ただの偶然だったのかもしれない。
迅は打ちかけた文章を消した。
その直後、律からメッセージが届いた。
――今日、どうする。
迅の胸が鳴った。
律も同じことを考えていた。
すぐに返事を打つ。
――話したい。
送ると、律から部屋番号が返ってきた。
律の部屋は一人だった。
同室になる予定の選手が、都合で遅れて来るらしい。
迅が入ると、律はベッドの縁に座っていた。
青い練習着から部屋着へ着替えている。
迅は扉を閉めた。
「今日も調整する?」
律が先に言った。
迅は答えなかった。
律も笑わない。
「お前、普通に打ててたな」
「ああ」
「俺も普通に上げられた」
「ああ」
「指導者も言ってた。俺らは特定の相手に頼らず結果を出せるって」
「聞いてた」
「よかったじゃん」
律が言う。
声に力がなかった。
迅は壁へ背を預ける。
「全然嬉しそうじゃねぇな」
「お前も」
しばらく沈黙が続いた。
廊下を歩く足音が、扉の向こうを通り過ぎる。
律が自分の指を見ながら言った。
「最初に合わなくなったのも、疲れてただけだったのかもな」
「たぶん」
「寝たら戻った」
「あの日、主将にも動きが重いって言われてた」
「俺らが勝手に、昨日のせいだと思っただけか」
迅は唇を噛んだ。
認めたくなかった。
身体を重ねたことが無意味だったとは思わない。
律を抱いた夜は、迅にとって特別だった。
好きだと言い合った夜も。
けれど、それがバレーを強くしたわけではない。
「じゃあさ」
律が顔を上げた。
「俺ら、何で好きになったんだろうな」
迅の胸が締めつけられた。
律は迅を疑っているようには見えなかった。
怯えていた。
自分自身の答えを怖がっている。
「お前は、俺のトスが好きだった」
律が続ける。
「俺が上げたら、何でも決めるって言ってた」
「今も好きだよ」
「でも、今日のセッターのトスでも決めた」
「それは」
「俺も同じだ。お前が一番だと思ってた。お前の力を引き出せるのが嬉しかった。でも、別のエースでもできた」
律は俯いた。
「俺、お前本人が好きだったのかな」
迅はすぐに否定できなかった。
同じ疑いが、自分の中にもあった。
律のトスが欲しかった。
自分を最高に跳ばせてくれる律が好きだった。
誰より自分を分かっている律が特別だった。
もし、別のセッターでも同じように打てるなら。
律である必要がないなら。
自分は何を好きだと思っていたのか。
「俺も分かんねぇ」
迅が言うと、律の肩が小さく動いた。
「お前がいなくても、今日すげぇ気持ちよく打てた」
「うん」
「それで、怖くなった」
「俺も」
律が迅を見る。
目が合う。
二人とも、同じところに立っていた。
片方だけが冷めたわけではない。
相手を信じられなくなったわけでもない。
自分が口にした「好き」に、何が含まれていたのか分からなくなった。
迅は律の前へ歩いた。
手を伸ばしかける。
律も少し身体を起こした。
触れれば、いつもどおり抱き寄せられる。
キスをすれば、たぶん律も返す。
その先まで進めば、今日の不安を一時は忘れられる。
それでも迅の手は、律へ届く前に止まった。
「今日は、やめとく」
律の目が揺れた。
「……そうだな」
「嫌だからじゃねぇ」
「分かってる」
「触りたくないわけでもない」
「それも分かる」
律は迅の止まった手を見ていた。
「俺も、触れてほしい」
声が掠れている。
迅は拳を握った。
「でも、このまま抱いたら、またバレーと一緒にする気がする」
「うん」
「調子を戻すためでも、俺らが特別だって確かめるためでもなく、ちゃんとお前が欲しいって分かってから触りたい」
律はしばらく黙っていた。
やがて、少しだけ笑う。
「お前にしては真面目」
「うるせぇ」
「俺も同じこと考えてた」
「じゃあ先に言えよ」
「お前が言うか試した」
「性格悪い」
「知ってる」
いつものやり取りだった。
それでも二人の間にある距離は縮まらない。
迅は律の隣へ座った。
肩が触れる。
律は離れなかった。
迅も、それ以上は近づかなかった。
「別れるとか、そういう話?」
律が尋ねる。
「付き合い始めて二日で?」
「最短記録狙える」
「嫌だね」
迅は即答した。
律が迅を見る。
「嫌なんだ」
「お前は?」
「俺も嫌」
「じゃあ別れねぇ」
「単純」
「分かるまで保留」
「何を」
「俺がお前を好きな理由」
律が小さく息を吐いた。
「理由が見つからなかったら?」
迅は答えに詰まった。
律もすぐに視線を落とす。
答えを求めているのではなかった。
同じ怖さを口にしただけだ。
「明日もバレーする」
迅は言った。
「うん」
「お前もする」
「当たり前だろ」
「だったら、そのうち分かる」
「根拠は?」
「ない」
「よくそれで自信ありそうに言えるな」
「俺だから」
「馬鹿」
律の肩が迅へ少しだけ寄った。
迅は動かなかった。
触れたい。
抱き寄せたい。
好きだと言いたい。
けれど、その好きに確信が持てない。
曖昧なまま言えば、律を騙す気がした。
「迅」
「何」
「今日はここにいる?」
「いいの?」
「寝るだけ」
「分かってる」
「ベッドは一つだから、床で寝ろ」
「帰る」
「冗談」
律が迅のシャツの裾を掴んだ。
弱い力だった。
迅はその指を見た。
握り返したかった。
代わりに、律の隣へ座ったままでいる。
二人は消灯まで、ほとんど話さなかった。
動画も見なかった。
肩だけを触れさせ、同じ部屋で時間が過ぎるのを待った。
****
翌朝。
迅が目を覚ますと、律はすでに起きていた。
窓際でストレッチをしている。
「おはよ」
迅が声を掛ける。
「遅い」
「まだ集合まで時間あるだろ」
「寝癖ひどい」
「直して」
言ってから、迅は固まった。
いつもなら律が文句を言いながら髪へ触れる。
律も一瞬動きを止めた。
「自分でやれ」
「……だよな」
迅は笑って誤魔化し、洗面台へ向かった。
鏡の中で、自分の表情がひどく冴えない。
体育館へ入ると、赤と青に分かれる。
律は昨日と同じエースのもとへ向かった。
迅も新しいセッターと合わせる。
一本目から決まった。
昨日より、さらに呼吸が合っている。
「いいな」
セッターが笑う。
「今日は速い球も試したい」
「何でも来てください」
迅は答えた。
反対側では、律が複数の攻撃を使い分けている。
青のエースが難しい球を打ち切る。
律が満足そうに拳を握った。
迅の胸が痛んだ。
それでも、目を逸らせなかった。
律が上げる。
エースが跳ぶ。
決める。
迅は誰より早く、その攻撃の良さを理解した。
律らしい組み立てだった。
相手ブロックの重心をずらし、最後に一番高い打点を使わせる。
綺麗だった。
悔しいほど格好よかった。
律がこちらを見る。
迅が見ていたことに気づく。
昨日までなら、親指を立てた。
今日は何もしなかった。
それでも律の目が、ほんの少し細くなる。
褒められたと分かったときの表情だった。
迅の口元も緩んだ。
好きだから見ているのか。
競技者として律のプレイが好きなだけなのか。
まだ分からない。
分からないのに、律が活躍すると嬉しかった。
昼前、青のエースがレシーブで床へ飛び込み、起き上がるときに律と肩をぶつけて笑った。
迅の胸が刺されたように痛んだ。
すぐに、自分でその感情を疑う。
恋人だから嫉妬したのか。
最高の相棒を取られたように感じただけなのか。
考えても答えは出ない。
****
午後、迅が着地を崩した。
シューズが床を擦り、片膝をつく。
痛みはない。
立ち上がろうとした瞬間、ネットの向こうから律が一歩踏み出した。
手を伸ばしかける。
けれど、間にはネットがある。
赤チームのセッターが迅の腕を掴み、起こした。
「大丈夫か?」
「平気です」
迅は答えながら、律を見た。
律は伸ばしかけた手を下ろしていた。
その表情に、昨日までと変わらない心配が浮かんでいる。
迅の胸がまた痛んだ。
あれも、仲のいいチームメイトだからかもしれない。
迅が誰であっても、律は同じように手を伸ばしたかもしれない。
それでも嬉しかった。
****
最終日の対抗戦を想定した練習で、赤と青がネットを挟んだ。
迅は前衛へ入る。
律もネット際に立つ。
初めて、敵として正面から目が合った。
律の表情は硬かった。
迅も笑えなかった。
指導者が笛を吹く。
赤チームのサーブから始まる。
青がレシーブを上げる。
ボールが律へ返る。
律の指が動く。
迅はその瞬間、トスの行き先を読んだ。
左。
青のエース。
迅はブロックへ跳ぶ。
律も迅が読んだことに気づいた。
空中で目が合う。
次の瞬間、律は指先で球の方向を変えた。
背後へ流す。
迅のいない右側から、別のアタッカーが打ち込んだ。
床へボールが落ちる。
青チームの得点。
迅は着地し、律を振り返った。
律もこちらを見ている。
わずかに顎を上げた。
読めると思ったか。
そう言われた気がした。
迅の胸の奥で、何かが跳ねた。
悔しい。
腹が立つ。
それ以上に、楽しかった。
けれど次の瞬間、律は目を逸らした。
迅も笑みを消す。
まだ喜んではいけない気がした。
練習後、指導者が告げる。
「明日の最終日は、赤対青の対抗戦を行う。今日まで組んだ相手と戦え。最終セットまでやる」
周囲の選手たちが沸いた。
迅は律を見た。
律もこちらを見ていた。
互いに何かを言いかける。
結局、どちらも口を開かなかった。
自分がいなくても強い相手と、明日は敵として向き合う。
怖かった。
それでも迅は、律から目を離せなかった。
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