5 / 6

第5話 ただ、お前が好き

「ちょっと来い」 迅がもう一度言うと、律は首に掛けたタオルで汗を拭った。 「どこに」 「誰もいないとこ」 「告白?」 迅の足が止まった。 律が口元を上げる。 試合直後で髪は乱れ、頬も赤い。呼吸もまだ完全には整っていない。 それなのに、もういつもの調子を取り戻している。 「何で分かった」 「お前、分かりやすいから」 「まだ何も言ってねぇ」 「試合中からずっと、言いたそうだった」 「お前だって俺のこと見てただろ」 「止めるためにな」 「最後、止められなかったけどな」 律の眉が跳ねる。 「指には当てた」 「床に落ちた」 「次は上げる」 「またそれ?」 「何回でも言う」 律は迅の横を通り過ぎ、体育館の出口へ向かった。 「誰もいないところなら、宿舎の裏に倉庫がある」 迅はすぐ追いついた。 「何で知ってんの」 「昨日、ボール取りに行った」 「誰と?」 「青のエース」 「ふうん」 「何だよ」 「別に」 「試合終わったのに、まだ妬いてんの?」 「妬いてねぇ」 「今の間で分かる」 迅は律の肩を掴み、自分の方へ寄せた。 廊下には他の選手たちが行き来している。 律は迅の腕を振り払わず、声だけを落とした。 「ここでくっつくな」 「昨日まで肩も触れなかったから、その分」 「取り返す気?」 「全部」 律は一瞬黙り、迅を見上げた。 その目が柔らかくなる。 「欲張り」 「お前もだろ」 「俺はまだ何も言ってない」 「出てる」 「お前に言われたくない」 宿舎の裏手へ回る。 倉庫の脇には狭い通路があり、人の気配はなかった。 壁の向こうから、体育館を片づける音が微かに聞こえる。 迅が立ち止まる。 律も正面に立った。 試合中はネットがあった。 今は何も隔てるものがない。 律の汗が乾ききっていない肌も、上がった息も、すぐ近くにある。 迅は何から言えばいいか分からなくなった。 試合中には、あれほどはっきりしていた。 律を呼び止めれば、言葉も勝手に出ると思っていた。 「何」 律が促す。 「最後、読んでたんだけどな」 「その話から?」 「言いたかった」 「読んでた。コースも、打つ瞬間も」 「でも決めた」 「触った」 「しつこい」 「負けたからな」 律は本気で悔しそうだった。 迅はその表情を見て笑う。 律も釣られて笑った。 試合中と同じだった。 相手の強さが嬉しくて、負けたくなくて、次を考えるだけで身体が熱くなる。 「お前、今日すげぇ格好よかった」 迅が言った。 律の笑みが止まる。 「今さら褒めて、機嫌取る気?」 「違ぇよ。あの片手のトス」 「あれ?」 「乱れた球、左に飛ばしたやつ。正直、びびった」 「あれくらいできる」 「知ってる。だから格好よかった」 律は迅から視線を外した。 耳が赤くなっている。 「お前も」 「何」 「最後だけじゃない。全部」 「全部って適当すぎ」 「強打も、フェイントも、囮に回ったところも。読んでも、その先をやってくる」 律は悔しそうに唇を噛んだ。 「腹立つくらい格好よかった」 迅の胸が強く鳴った。 褒められるのが好きだった。 律に褒められると、誰に言われるより嬉しかった。 以前は、自分の力を一番理解してくれるセッターだからだと思っていた。 今日、律は迅のトスを一本も上げていない。 それでも同じように嬉しい。 むしろ、敵として全力で止めに来た律から言われたからこそ、胸の奥まで響いた。 「俺、お前がいなくても打てた」 迅が言った。 律が目を戻す。 「うん」 「お前も、俺じゃなくても最高だった」 「うん」 「最初は、それが怖かった」 律は黙って聞いている。 「お前のトスがなくても打てるなら、俺はお前の何が欲しかったんだろうって思った。俺を一番気持ちよく跳ばせてくれるセッターが好きだっただけかもしれないって」 「俺も同じだった」 律がすぐに返した。 「お前を一番生かせるのが俺だから、特別だと思ってたのかもしれない。別のエースでも最高の攻撃を作れて、それが楽しくて」 「うん」 「だったら、俺はお前本人が好きだったのかって」 律の声が少し掠れる。 迅は一歩近づいた。 律は退かない。 「でも今日」 二人の声が重なった。 迅と律が同時に止まる。 「お前から言えよ」 迅が言う。 「お前が呼び止めたんだろ」 「じゃあ勝負」 「何の」 「同時に言う」 「馬鹿じゃないの」 「負けるの怖い?」 律が目を細めた。 「三つ数えろ」 迅は笑った。 「一」 律の指が迅のシャツの裾を掴む。 「二」 迅も律の腰へ腕を回した。 「三」 「今日、ずっとお前しか見てなかった」 また声が重なった。 二人とも目を見開く。 次の瞬間、同時に笑った。 「真似すんな」 律が言う。 「お前が真似したんだろ」 「俺の方が先だった」 「同時だろ」 「じゃあ続き」 律の指に力が入る。 「俺だけがお前を生かせるから好きなんじゃない」 「俺も、お前のトスがなきゃ打てないから欲しいんじゃない」 「お前が俺なしでも最高だから」 「お前が俺なしでも格好いいから」 また言葉が重なる。 律が笑っている。 目元が少しだけ潤んでいた。 迅も胸が熱くて仕方なかった。 「バレーとか関係ねぇ」 迅は律の腰を強く抱いた。 「俺、お前が好きなだけだった」 律が迅の胸へ額をぶつける。 「俺も」 「短い」 「お前が先に全部言った」 「もっと言えよ」 律が顔を上げる。 試合中、ネット越しに迅を睨んでいた目だった。 今は同じ熱が、真っすぐ迅へ向いている。 「お前が決めるところが好き」 「それバレーじゃん」 「最後まで聞け」 「はい」 「負けず嫌いなところも、調子に乗るところも、褒めるとすぐ機嫌よくなるところも好き」 「もっと」 「要求すんな」 「俺は全部言った」 「まだ二つしか言ってないだろ」 「格好いい。可愛い。好き。欲しい」 「四つになった」 「ほら、律の番」 律は迅の胸を押した。 「お前のそういうところ、ほんと腹立つ」 「嫌い?」 「好き」 迅はもう待てなかった。 律の顎へ指を掛け、唇を重ねる。 律もすぐに応えた。 試合中に抑えていたものが、一気に溢れたようだった。 唇が触れただけでは足りない。 迅が深く入り込むと、律の腕が首へ回る。 身体が密着する。 互いの汗と熱が混ざる。 「ん……っ」 律の喉から息が漏れる。 迅は唇を離さず、腰を抱き寄せた。 「ここで始めんな」 律が合間に言う。 「お前がそんな声出すから」 「まだ何もしてないだろ」 「キスだけで出してんじゃん」 「誰のせいだよ」 「俺」 迅が認めると、律が目を丸くした。 「今日、ほんと素直だな」 「もう誤魔化さねぇって決めた」 「試合に勝って気が大きくなってる?」 「お前が格好よすぎて、我慢できねぇ」 律の頬が赤くなる。 迅はその反応に笑った。 「可愛い」 「うるさい」 「試合中あんな格好よかったくせに、俺の前だと可愛すぎだろ」 「お前だって、俺が声出すたび嬉しそうじゃん」 「嬉しいに決まってんだろ」 迅はもう一度キスをした。 前なら悪態で隠した。 今は律の息が甘くなるたび、嬉しいと口にしたくなる。 律も迅の髪を掴み、逃がさない。 「宿舎戻るぞ」 律が言う。 「今?」 「ここで最後までやる気かよ」 「できなくはない」 「馬鹿。ベッドで抱け」 迅の身体が一気に熱くなった。 律は言ってから恥ずかしくなったらしく、迅の胸へ顔を伏せた。 「今の、もう一回」 「言わない」 「録音したかった」 「殺す」 「今日の律、素直で可愛い」 「お前が言わせてんだろ」 「もっと言わせる」 「やってみろ」 **** 二人は肩をぶつけながら宿舎へ戻った。 廊下では距離を取る。 それでも指先が何度も触れた。 律の部屋へ入る。 扉が閉じた途端、迅は律を抱き上げた。 「おい」 「ベッドで抱けって言った」 「歩ける」 「知ってる」 「またそれかよ」 律は文句を言いながら、迅の首へ腕を回した。 迅はそのままベッドへ運ぶ。 律の身体をシーツへ下ろすと、すぐ上から覆いかぶさった。 「待て」 「何」 「試合後だぞ。汗くさい」 「俺も同じ」 「シャワー」 「あとで」 「ベッド汚れる」 「あとで洗う」 「お前、今日ひどいな」 「三日分我慢した」 律の表情が止まった。 迅も、自分の口から出た言葉を確かめる。 触れなかったのは一日と少しだ。 それでも長かった。 律がすぐ近くにいるのに、腕を伸ばせなかった。 髪へ触れることも、唇を重ねることもできなかった。 「俺も」 律が小さく言った。 「三日分、触れてほしかった」 迅は律の頬へ手を添えた。 「もう一回言って」 「調子乗んな」 「今は乗らせろ」 「……ずっと、お前に触れてほしかった」 迅は律の額、瞼、頬へ順にキスをした。 最後に唇へ触れる。 律が笑った。 「何それ。急に丁寧」 「大事にしたい」 「前も大事にしてただろ」 「知ってた?」 「お前、口は悪いけど、触り方は最初から優しかった」 迅の胸が詰まった。 恋だと認める前から、律を傷つけたくなかった。 気持ちよくしたかった。 満足させたかった。 律は全部分かっていた。 「お前も、最初から俺のこと好きだった?」 迅が尋ねる。 「たぶん」 「たぶんって何」 「入部してすぐ、お前が俺の無茶なトスを決めたときから、ずっと特別だった」 「それバレーじゃん」 「そのあと、俺が褒めたら馬鹿みたいに笑った」 「悪い?」 「可愛かった」 迅は律の脇腹をくすぐった。 律が身体を捩り、声を上げる。 「やめろ、馬鹿!」 「今まで可愛いって言わなかった罰」 「お前だって言ってなかっただろ!」 「だから今から言う」 迅は律のシャツをめくり、露わになった腹へ唇を落とした。 「可愛い」 「そこに言うな」 胸元へ移る。 「可愛い」 「迅」 首筋。 「ここも」 「跡、見えるとこにつけるなよ」 「命令多い」 「明日帰るんだから当たり前だろ」 「目立たないところなら?」 律は少しだけ脚を開いた。 「好きにしろ」 迅は笑った。 律の身体へ、自分だけが知る跡を残す。 首筋ではなく、練習着にも私服にも隠れる場所。 唇を吸いつけると、律の喉が震えた。 「んっ……迅」 「声、我慢しなくていい」 「まだ、そこだけだろ」 「もう甘い」 「前はキモって言ってたくせに」 「悪かった」 律が目を見開く。 「謝るの?」 「本気でキモいと思ったこと、一回もない」 「知ってる」 「むしろ最初から、もっと聞きたかった」 「それも知ってる」 「何で」 「俺が黙ったら、すぐ不機嫌になったから」 迅は律の腰を掴んだ。 「分かってて黙った?」 「お前が必死になるから面白かった」 「性格悪い」 「好きだろ」 「好き」 即答すると、律が言葉に詰まった。 迅はその隙にシャツを脱がせる。 律も迅の練習着へ手を掛け、頭から引き抜いた。 「早く全部脱げ」 「律の方が欲しがってんじゃん」 「三日分だって言っただろ」 「言ってない。触れてほしかったって言った」 「同じだ」 「違う」 「じゃあ帰れ」 「絶対嫌」 迅は律のジャージへ指を掛けた。 律が腰を上げ、脱がせやすくする。 隠す気のない動きだった。 迅の視線を受け、律が挑むように笑う。 「何。今さら緊張してんの?」 「見惚れてる」 「……そういうの、急に言うな」 「格好いい」 「今は?」 「可愛い」 「どっちだよ」 「両方」 律が迅の首へ腕を回し、ベッドへ引き倒した。 上下が入れ替わる。 律が迅の腰へ跨がり、見下ろした。 「今日は俺が勝つ」 「何で」 「試合はお前が勝った」 「別の勝負だろ」 「次は俺が、お前を先に余裕なくさせる」 律が迅の胸を撫で下ろす。 試すような触れ方だった。 迅の腹がすぐに熱くなる。 律はその反応を見て笑った。 「分かりやすい」 「お前が触ってるから」 「俺なら何してもいい?」 「何でもは無理」 「そこは格好つけろよ」 「お前、絶対無茶言うだろ」 律が笑い、迅の唇へキスをした。 浅く触れて、すぐ離れる。 迅が追うと、律は身体を起こした。 「待て」 「嫌だ」 「さっきベッドで抱けって言った」 「抱くのはお前。崩すのは俺」 律は迅の首筋へ唇を這わせた。 迅の身体が強張る場所を、確かめるように何度も触れる。 律は迅がどこで息を詰めるか覚えていた。 胸。 脇腹。 耳のすぐ下。 「律」 「何」 「お前、上手くなってない?」 「お前の反応、覚えた」 「可愛くねぇ」 「今、声震えた」 「震えてねぇ」 「もっと聞かせろよ」 自分が以前言った言葉を返される。 迅は律の腰を掴んだ。 「調子乗んな」 「別に格好いいとか思ってねぇから」 「それも俺の」 「何エロい声出してんだよ。キモ」 律は笑いながら言った。 迅は耐えきれず、律を抱えて再び下へ組み敷いた。 「反則」 「効いた?」 「昔の俺、最悪だな」 「今さら?」 「お前、よく許したな」 「行動が全部逆だったから」 律は迅の頬へ触れた。 「キモって言いながら、俺が声出すたび嬉しそうだった」 「うん」 「可愛くないって言いながら、一番可愛いところ探してた」 「うん」 「調子乗るなって言いながら、俺が求めると止まらなかった」 「全部そのとおり」 迅は律の指へキスをした。 「今は言葉も同じにする」 律の目が揺れる。 「お前の声が好き」 手首へキスをする。 「崩れた表情も好き」 腕をシーツへ縫い止める。 「強がって煽ってくるところも好き」 律の脚を開かせ、その間へ身体を収める。 「俺にもっとって言うお前が、一番可愛い」 律の喉が鳴った。 「……反則」 「試合中のお前の方が反則だった」 「何が」 「格好よすぎた」 迅は律の唇を塞いだ。 深く、何度も重ねる。 律の身体から力が抜けるまで口づけ、首筋や胸元へ移る。 声を引き出すたび、今度は悪態ではなく、そのまま伝える。 「可愛い」 「うるさ……んっ♡」 「その声、好き」 「何回、言う気だよ」 「飽きるまで」 「一生、飽きんな」 迅は動きを止めた。 律も、言ってから固まる。 「今の、もう一回」 「聞こえただろ」 「律」 「一生、俺に夢中でいろ」 「最初からそのつもり」 「調子いい」 「お前もな」 迅は律を丁寧にほどいていった。 前よりも反応を知っている。 けれど、同じ触れ方だけでは終わらせない。 律の息や腰の動きに合わせ、速さと深さを変える。 律も受け身ではいなかった。 迅の肩を引き寄せ、欲しいところへ導く。 「そこ、もう少し……」 「ここ?」 「分かってて聞くな」 「言ってほしい」 「奥まで入れる前から、性格悪いな」 「好き?」 「好き」 律はもう躊躇わない。 迅も、言葉に詰まらない。 身体が十分にほどけると、律が自分から脚を開いた。 迅を見上げ、挑むように顎を上げる。 「早く来いよ」 「煽んな」 「怖い?」 「今日何回目だよ、それ」 「効いてるから」 迅は律の腰を抱えた。 「あとで泣いても止めねぇ」 「泣かせてみろ」 「望むところ」 ゆっくり挿入する。 律の身体が迅を受け入れていく。 息を吐きながら、律が迅の肩へ指を立てた。 「っ……迅」 「俺の名前、もっと呼べ」 「まだ、奥まで来てない」 「余裕あんじゃん」 「試合の続きだからな」 「じゃあ負けんなよ」 迅は律の反応を確かめながら、さらに深く進んだ。 奥まで繋がる。 律の唇から甘い声が零れた。 「あ……っ、迅♡」 「今の可愛い」 「いちいち、言うな」 「言う。もう隠さねぇ」 律の脚が迅の腰へ絡む。 「じゃあ、俺も言う」 「何を」 「お前、今すげぇ格好いい」 迅の息が止まった。 律が笑う。 「効いた」 「お前、ずるい」 「負け?」 「まだ」 迅は腰を引き、ゆっくり擦った。 律の表情が変わる。 余裕を残していた目が細くなり、呼吸が震えた。 もう一度。 奥へ届くように角度を変える。 「んっ……そこ、いい……♡」 「素直」 「言えって、言っただろ」 「もっと」 「お前が動け」 律は迅の腰を脚で引き寄せた。 深く繋がり、二人とも息を詰める。 「お前の方が欲しがってんじゃん」 「違う」 「何が」 「同じくらいだ」 迅は笑った。 「それなら認める」 擦り上げるたび、律の声が甘くなる。 迅の名前を呼ぶ。 好きだと言う。 もっと欲しいと言う。 迅もすべて返した。 「律、好き」 「知ってる……っ、あ♡」 「格好いい」 「もっと、言え」 「可愛い」 「それは、今いらな……っ、んぁ♡」 「欲しい」 「俺も、お前が欲しい……!」 迅は律の腰を抱え直し、強く突き上げた。 律の身体が跳ねる。 「あっ、迅、急に……♡」 「試合中の分」 「何の、仕返しだよ」 「俺のブロック使った」 「お前が、引っかかったんだろ……っ、あぁ♡」 「片手であんなトス上げた」 「褒めてるのか、怒ってるのか、どっちだよ♡」 「興奮してる」 律が声を立てて笑った。 その笑いがすぐ甘い息へ変わる。 迅は律の脚をさらに抱え、奥まで何度も突き上げた。 律も負けまいと腰を動かし、迅を深く受け入れる。 「迅、そこ……っ、もっと強く♡」 「まだ余裕あんの?」 「お前こそ……っ、俺が声出すたび、嬉しそうにすんな♡」 「嬉しいに決まってんだろ」 迅は律の唇へ噛みつくようにキスをした。 「好きなやつが、俺のせいでこんな可愛くなってんだから」 「お前だって……俺が好きって言うたび、動き変わるじゃん♡」 「言われたい」 「欲しがり」 「お前にだけ」 律の腕が迅の首へ回る。 「好き」 迅の動きが深くなる。 「格好いい」 強く突き上げる。 「迅が欲しい♡」 理性が大きく揺れた。 「もっと言え」 「好き。お前が一人でも強いところも、俺にだけ必死になるところも好き♡」 「律」 「俺なしでも最高なのに、俺を選ぶお前が好き」 迅の胸が熱でいっぱいになる。 律の言葉が、身体の奥まで届いた。 「俺も」 迅は律の額へ自分の額を押しつけた。 動きを止めずに、真っすぐ目を合わせる。 「お前が俺なしでも誰にでも最高のトスを上げられるところが好き」 「それ、褒めてる?」 「褒めてる。格好よかった」 「妬いてたくせに」 「妬いた。でも、それより格好よかった」 「……馬鹿」 律の目元が揺れた。 迅は唇へキスをする。 「そんなすげぇお前が、俺を好きなのが嬉しい」 律が迅へしがみつく。 「俺もだよ」 声が掠れている。 「誰のトスでも決められるお前が、俺のトスを一番好きだって言うのが嬉しい」 「好き。一番気持ちいい」 「バレーの話?」 「どっちも」 律が笑い、迅の肩へ噛みついた。 迅はさらに速く腰を動かす。 試合の熱が、まだ身体に残っている。 相手を超えたい。 相手を崩したい。 同時に、相手が気持ちよくなるほど嬉しい。 どちらが先に余裕を失うか。 どちらが多く好きと言わせるか。 勝負は続いている。 それでも勝敗など、もうどうでもよかった。 律の気持ちと自分の気持ちが、同じ熱でぶつかっている。 それだけで満たされる。 「迅、もう、限界……っ」 「俺もだ。律、離すな」 「離すわけ、ないだろ……っ」 迅は律の身体を強く抱き起こした。 胸と胸をぶつけ、逃げ場がなくなるほど深く重なる。 律も迅の肩へ腕を回し、脚で腰を締めつけた。 密着したまま、深く擦る。 律の息が迅の耳へ直接掛かった。 「あっ……迅、奥、当たってる♡」 「好き?」 「好き……もっと、そこ突いて♡」 「何回でも」 律の求める場所へ、繰り返し突き上げる。 声が途切れなくなる。 律は迅の名前を何度も呼んだ。 迅もそのたび、律の名を返す。 「律、好きだ」 「俺も……迅、好き♡」 「格好いい」 「もっと……♡」 「可愛い」 「それも、もっと言え……っ」 「全部好き」 律の身体が強く震えた。 「迅……っ、もう、くる……♡」 「俺もだ。律、離すな」 「離すわけ、ないだろ……っ。迅、もっと奥……俺のこと、全部欲しがれ♡」 「欲しい。お前の全部、俺が欲しい」 律の腕がさらに強く迅の首へ絡む。 「迅……っ、迅……!」 「律、俺を見ろ」 「見てる……お前だけ、見てる♡」 「好きだ」 「俺も好きだ……迅、好き♡」 律の声は甘く崩れている。 それでも迅の名を呼ぶ響きには、試合中と同じ負けん気と雄々しい熱が残っていた。 「律、来い」 「お前も一緒に来い……迅っ♡♡」 「律!」 迅は律の名を叫び、最後まで深く突き上げた。 「迅――っ、好き、好きだっ♡♡」 律が声を上げて絶頂した。 迅も律を抱き潰すほど引き寄せ、名前を呼びながら限界を越える。 「律……っ!」 奥まで繋がったまま、二人の身体が同時に震えた。 **** どちらも相手を離さなかった。 律は迅の首へしがみつき、迅も律の背中へ腕を回したまま、荒い呼吸をぶつけ合う。 今までで一番激しかった。 それなのに、今までで一番、幸せだった。 「……律」 迅が掠れた声で呼ぶ。 律は迅の肩へ額を預けたまま、荒い息を吐いた。 「何」 「すげぇ甘い声、出てた」 律の指が迅の背中へ食い込む。 「お前が出させたんだろ」 「俺の名前、何回呼んだ?」 「数えてる余裕あったのかよ」 「全部聞こえた」 「……忘れろ」 「無理。あんな幸せそうに呼ばれたら、一生忘れねぇ」 律が顔を上げた。 目元は熱に潤み、頬も耳も赤い。 それでも悔しそうに迅を睨んでいる。 「お前だって、俺の名前叫んでた」 「叫んだ」 「否定しろよ」 「嬉しかったから」 律はまた言葉を失った。 迅は笑い、濡れた前髪を指で払った。 「お前と一緒にいくの、すげぇ気持ちよかった」 「……俺も」 「もう一回言って」 「しつこい」 「律」 「俺も幸せだった」 迅は律の唇へゆっくりキスをした。 律もすぐに返す。 絶頂の熱が残る身体を重ねたまま、何度も短いキスを交わした。 迅が少し身体を起こそうとすると、律の腕に力が入る。 「まだ」 「重いだろ」 「今、離れるな」 迅は何も言わず、律を抱いたままゆっくりベッドへ倒れた。 繋がった身体をすぐには離さない。 律も脚をほどかなかった。 余韻の中で、汗ばんだ身体を寄せ合う。 迅が律の背中を撫でる。 律の指は、迅の髪をゆっくり梳いていた。 「なあ」 迅が呼ぶ。 「何」 「結局、俺らがやったから調子戻ったわけじゃなかったな」 「元から上手かっただけだった」 「最初の不調、何だったんだろ」 「疲れてたんじゃない?」 「それだけ?」 「たぶん」 迅は律の肩へ額を押しつけた。 何日も悩んだ答えが、あまりにも単純だった。 「馬鹿みたい」 「お前が昨日のせいかって言い出したんだろ」 「お前も信じたじゃん」 「好きな相手と結ばれた翌日に調子戻ったら、信じるだろ」 「律、ロマンチスト?」 「殺す」 「でも、よかった」 「何が」 「勘違いしたから、お前とできた」 律が迅の脇腹を抓る。 「最初からしたかったくせに」 「お前もだろ」 「まあな」 律は少し身体を離し、迅を見た。 もう不安はなかった。 試合前に逸らされた目が、今は真っすぐ迅を映している。 「これからは、調整って言わなくていいな」 律が言う。 「何て言う?」 「したいって言えばいい」 「律が?」 「お前も」 「今したい」 「今したばっかだろ」 「足りねぇ」 「三日分とか言う気?」 「今度は、好きな分」 律が呆れたように顔を上げる。 けれど、迅の腰へ絡めていた脚はほどかなかった。 迅が鼻先へキスをする。 「好きだからしたい」 律の目元が柔らかくなる。 「俺も」 「もっと欲しい?」 「欲しい」 「素直じゃん」 「もう負けでいい」 迅は言葉を失った。 律が、欲しがっていると知られることを負けだと言っていた。 崩されると悔しがり、それでも迅に求められるたび嬉しそうにしていた。 今は自分から、負けてもいいと言った。 迅は律の頬を両手で挟んだ。 「それは駄目」 「何で」 「俺も負ける」 「引き分け?」 「ずっと」 律が笑った。 「じゃあ、もう一回勝負する?」 「望むところ」 迅が少しだけ身体を動かした。 律の息が甘く揺れる。 「……お前、すげぇな。もう準備できてる」 「お前だって、興奮してるの丸分かり」 「こら。身体で分かるな」 「お前こそ」 迅は笑い、律の腰を抱え直した。 「次は最初から、甘々な声出してこいよ」 「はぁ、お前なぁ……あっ♡ いきなり奥、だめ……♡」 「可愛いやつ」 「馬鹿♡」

ともだちにシェアしよう!