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I ヴァイヤル教授の歴史的邂逅-2

 男がユーリスを案内──もとい、引きずっていった先は、崩れた壁の奥にある、小さな洞窟だった。壁から垂れ下がる(つた)がカーテンとなって、入り口が覆われている。  中に入ると、そこが意図を持って作られた石室だったことがわかった。  洞窟の一番奥には、わずかに(くぼ)んだ岩が横たわっている。窪みの大きさは、ちょうど、男の背丈にぴったり合う。まるでおかしな形の長椅子か、蓋のない素朴な石棺のようだ。  彼は摑んだままだったユーリスの襟首を放すと、岩の端に腰を下ろした。 「ここは……君の隠れ家か」  質問したつもりだったのだが、返事はなかった。彼は期待するようにユーリスを見つめている。 「あー……座れということか?」  ユーリスが彼に倣っておずおずと腰を下ろすと、琥珀色の瞳がわずかに輝いた。どうやら、正しい行動ができたらしい。  ユーリスは小さく(せき)払いをした。 「先ほどは、礼を失してしまってすまない」  他人と話すのも、自分の非を認めるのも苦手だ。だが、相手は自分の命を救ってくれたのだから、譲歩しなくては。 「助けてくれて感謝する。あれは……もの凄い魔法だな」  そう言葉にすると、今さらながらに感動を覚えてしまう。  魔法を自由に操った古代種たちとは違い、大災厄を生き延びた人間たちは魔法を使う能力が低かった。そのため、魔導書(グリモワール)や遺物に刻まれた魔術文字(ルーン)を通じて力を発現させる。  現代の魔法といえば、ケトルの水を沸かす炎魔法や、水筒を満たす水魔法など、限定された用途にしか使えないごくごく弱いものばかりだ。  時折、古代の遺跡から、怖ろしい力を持つ呪文が記された魔導書(グリモワール)や武器、装身具などが発見されることもある。けれど、そうした遺物は例外なく国の管理の下におかれ、学術機関によって丁重に保存されている。  さっきの光線を出したのがどんな遺物でも、誰かに見つかり次第取り上げられてしまうだろう。  そうなる前にひと目見ておきたいと思うのは、学者の(サガ)だ。 「良ければ、あの魔法を呼び出した遺物を見せてくれないか?」  ユーリスがにじり寄ると、彼は驚いたように身をひいた。 「ああ……」  またも、ユーリスは礼儀を忘れていたことを思い出した。 「まずは自己紹介が先だったな。僕はユーリス。ユーリス・ヴァイヤル。カレルヌ大学のミリアラン学寮に所属する魔法考古──っ」  男の掌がそっと、ユーリスの唇に押し当てられた。困惑も露わに見つめると、彼もまた、ユーリスに負けず劣らず困ったような顔をしていた。もの問いたげな瞳は美しい。深みのある眼差しに引き込まれて口をつぐむと、男の手が離れた。 「言葉がわからないのか?」 男は小さく首を横に振った。 「すこし」 「少し、わかる?」  意を()んで答えると、彼の表情が明るくなった。ユーリスは、彼にもはっきりと聞き取れるように、ゆっくりと話した。 「なるほど、少しならわかる──そうだな?」  男はこくこくと(うなず)いた。 「わかる」  幼児のような言葉使いとは裏腹に、その声は低く、なんとも言えないほど豊かだ。詩の一つでも詠めば、さぞかし美しく響くだろうに。  ユーリスは自分の胸に手を当てた。 「僕は、ユーリスだ。ユーリス・ヴァイヤル」  名前を告げると、彼は感じ入ったようにスウ、と息を吸い込んだ。それから、音の響きを味わうようにゆっくりと言った。 「ユー、リス……ユーリス……。ユーリス・ヴァイ……?」  ユーリスは頷いた。どういうわけか、彼の声で名前を呼ばれるといい気分になる。 「ユーリスでいい」  初対面の相手には、『ヴァイヤル教授』と呼ばせるようにしている。名前だけで呼び合うほど親密な付き合いをする者はいなかったし、そんな相手を作る気もなかったのだが……彼は特例ということにしておこう。 「僕は魔法考古学者……つまり、大昔の魔法について調べている学者だ。君は?」  促すように指先を男に向けると、彼はぱちくりと瞬きをしてから、眉を(ひそ)めて首を横に振った。 「名前がない? それとも、わからない?」  どちらにも、彼は『否』の意思表示をした。 「忘れてしまった?」  すると、彼はコクコクと頷いた。自分の言いたいことが伝わって(うれ)しいのか、表情がパッと明るくなる。 「君は、ここに住んでいるのか?」  再び、彼は首を横に振った。 「昔、来た。寝て……起きた」 「ふむ……」  昔ここを訪れ、以来ずっと留まっているということか? それで、何らかの事情があって記憶喪失に陥った?  ユーリスは改めて、洞窟を見回した。洞窟内はほとんど空っぽで、野営道具の類いは見当たらない。  ところが、予想外のものを見つけて、ユーリスの心臓は危うく止まりかけた。 「あれは……」  洞窟の端に組んで重ねられた人骨がおかれているではないか。それも、何人分も。  魔法考古学者だから、遺体と遭遇するのは珍しいことではない。けれど、ユーリスが見慣れた古い骨とは違って、あれはまだ新しい。 「あれは何だ?」 「知らない」 「君が殺したのか?」  彼は勢いよく首を横に振った。 「ちがう。でかいやつ」  説明を聞きながら、ユーリスは骨を検分した。(ひしゃ)げた頭蓋骨、折れた肋骨(ろっこつ)……どれもこれも、ひと目でわかるほどの致命傷を受けた骨ばかりだ。  彼のいうとおり、これらの骨の持ち主は『でかいやつ』──すなわち、ゴーレムからの一撃によって命を落としたのだろう。ユーリスは、遺骨の側にどれも丁寧に並べられている遺留品に目をやった。 「ゴーレムに殺された人びとをここに運んで……弔ってやったんだな」  遺留品の中には、古びた鍵や、羅針盤、ボロボロの恋愛小説本や日誌があった。日誌の最後の日付は、五十年前となっている。 「君が言う『昔』とは、どれくらいだ? 数日? 一週間? それとも──」 「はじめから」 「何だって?」  男はきょとんとした顔で繰り返す。 「ここのはじめから。ずっと」  そんなことはあり得ない。シャルルノー遺跡は推定七百年前の構造物だ。 「君は、この場所ができたその時から、ここにいると?」  まさかと思って尋ねると、彼は頷いた。 「あり得ない。僕を担いでいるんだろう」 「かつぐ?」  彼は思い切り困惑した顔をしてみせた。慣用句が理解できないのだ。ユーリスは言い換えた。 「あー、つまり、(うそ)をついて僕を揶揄(からか)ってるんじゃないかと言いたかったんだ」 「ちがう!」  彼は憤慨したように言い返した。  確かに、道に迷った魔法考古学者を揶揄っても面白いことなどないだろう。中でもユーリスは、特に面白みのない部類の人間だ。  何から何まで、理屈に合わない。  深まる謎に身震いすると、彼は何かを思い付いたような顔をした。 「ユーリス。さむい?」 「え? いや、そういうわけでは──」  ユーリスの言葉を最後まで聞かないうちに、彼は指先を地面に向け、宙に何かを描いた。 その瞬間、薪さえなかった場所に、燃えさかる炎が現れた。 「何だと!?」  驚きのあまり腰を抜かしかけたユーリスを、彼は怪訝(け げん)そうに見つめた。 「……あつい?」 「君はいま、遺物も魔導書(グリモワール)も使わずに魔法を……!?」  彼は、それの何がおかしいのかという顔をしている。 「まほう、できる」  ユーリスは呆気(あっ け)にとられたまま、呟くように言った。 「確かに、そのようだ……」  ユーリスが長年当たり前だと思ってきた常識では、魔法は文字に刻まれた状態でしか効力を発し得ない。だからこそ、魔術文字(ルーン)が記された魔導書(グリモワール)や遺物が価値を持つのだ。  遺物を使わずに魔法を使えるなんて、まるで……。  そこで、ユーリスはハッとした。火灯りに照らされた男の姿をまじまじと見つめると、さっきは見えなかったものが見えた。  ボサボサの黒髪からわずかに(のぞ)く耳飾りと、そこに刻まれた刻印だ。 「それは……!」  ユーリスは彼の側に近づき、傍らに膝をついた。彼は不思議そうに……同時に、どこかワクワクしたような眼差しでユーリスを見る。その目の輝きに、一瞬見蕩(みと)れそうになってから、ユーリスはゴホンと咳払いをした。 「少し、触れてもいいか?」 「いい」  快く許可してくれたので、ユーリスは彼の長い黒髪を、そっと()き上げた。耳朶(じだ)につけられた耳飾りには、特徴的なシンボル──首輪をはめた人型の魔術文字(ルーン)が刻まれている。 「これは……」  かつてこの地上で繁栄した古の種族たちは、魔法によって、ある生命体を生み出した。それは、生まれながらに魔法を扱う技術を備え、永遠の命を持つといわれた存在。  その名も──。 「君は、ホムンクルスなのか……?」  すると、彼は不服そうな表情を浮かべた。 「ほむん?」 「ホムンクルス。人造人間のことだ」  人造人間(ホムンクルス)は、数多くの文献に記されている。  彼らは古代種によって作り出された存在だ。人とほとんど変わらない身体構造をしていながら、魔法を扱う能力に長けていた。彼らは、古代に頻発していた種族間の戦争で、兵器として用いられた。  古代種たちは、この新たな命を次々と生み出し、彼らを用いた戦に明け暮れ、世界を荒廃させた。そのことが神の逆鱗(げきりん)に触れ、大災厄の引き(がね)になったのだといわれている。 そのためか、あるいは別の理由か──人造人間(ホムンクルス)は大災厄を機に姿を消し、後の歴史にはまったく姿を現さなくなる。  もし彼が人造人間(ホムンクルス)なら、彼こそが、世界で唯一現存する人造人間(ホムンクルス)ということになる。 「つまり、要するに君は──」  ユーリスの言葉を途切れさせたのは、いつの間にか目の前に迫っていた彼の顔だった。何が気になるのか、ユーリスを見つめたままクンクンと匂いを嗅いでいる。  間近で見ると、思わず息を呑んでしまう。  まるで、雪花(せっ か)石膏(せっこう)から生まれ出たようになめらかな肌だ。琥珀の瞳の中では瞳孔が開き、今までより一層興味深そうにユーリスを見つめていた。 「少し、触れていい?」  さっきユーリスが言ったことを繰り返しているようだ。言葉は拙いが、彼の知能は決して低くない。 「あー……どうぞ?」  ユーリスは戸惑いながらも、彼の好奇心を受け入れた。気まずいが、初対面の犬に拳の匂いを嗅がせてやるようなものだと思うことにする。  彼は、まずユーリスの(ほお)に触れ、恐る恐る、眼鏡の縁を指でなぞった。彼の指先はユーリスの耳の輪郭を撫で、首筋を下へと辿った。 「……っ」  なんだか、愛撫(あい ぶ)のようで居心地が悪いな──そう思いかけたところで、唐突に、何の前触れもなく、彼に唇を奪われていた。 「ンン!?」  柔らかな唇が、ユーリスの唇に押しつけられている。  これは、『少し触れる』の範疇(はんちゅう)を大きく逸脱している。 「待っ──ん!」  異議を申し立てようと開いた口の中に、彼の舌が滑り込んできた。ひんやりと冷たい舌がユーリスの舌を探り当て、絡みつく。  決して上手なキスとはいえない。これはそういうふうにするものじゃないと教えてやりたくなるほど、稚拙なキスだ。  けれど、その触れ方はどこか真摯で、飢えを感じさせながらも、しっかりと味わうようで……抗うべきだという理性を手放しかける。 「ん……!」  最初のしおらしさをかなぐり捨て、今や彼は、ユーリスの背中や首筋に腕を回して抱え込んでいた。まるで貪るように遠慮がない。熱っぽく力強い抱擁に、ユーリスの血がかっと熱を帯びる。こんな感覚を味わうのは……何年ぶりだろう。  ──このまま身を委ねてしまったら、どうなる?  最後に『身を委ねてしまった』時の事を思い出して、ユーリスは身を強ばらせた。  今すぐやめさせなくてはと思った瞬間、彼がユーリスの鎖骨の(くぼ)みを舌先で(くすぐ)った。 「あ……!」  彼は、ユーリスの弱いところを知り尽くしているかのように、敏感な所ばかりに触れた。そのたびに、忘れていた感覚が呼び覚まされ、腹の底がジンジンとうずき始める。  両手を彼の肩に掛けて押しのけようとするが、力が入らない。 「ちょっと、待っ……」  彼の手が、下穿きの中で硬くなっていたユーリス自身を包み込み……さらに下にある、秘すべき場所に届いた。  その瞬間、快感よりも恐怖が勝った。理性が息を吹き返す。 「よせ……やめろ!」  抱擁に抗いつつ言うものの、伝わっている気がしない。 「だめ、だ!」  ユーリスは、彼にも理解できるようにきっぱりと告げ、身体を押しのけた。  いつの間にか押し倒されてしまっていたユーリスは、()()きながら身を起こした。シャツははだけ、そこから覗く肌は紅潮している。  ユーリスはわなわなと震える指で、憤然とシャツのボタンを閉めた。 「いったい、どういうつもりだ……!」  流されかけた不面目を誤魔化すように、ユーリスは詰問した。彼は狼狽(うろた)えた顔でユーリスを見つめて、こう言った。 「ユーリス、美味(お い)しい」 「お、美味しいだと!?」  その言い草に、羞恥と驚きで頬が赤らむ。 「出会ったばかりの相手に、こんな……恥を知りたまえ!」 「はじ……? わからない」 「ええい、埒があかん」  ユーリスは頭をガリガリと掻いて、ため息をついた。そうして、感情を落ち着かせてゆっくりと尋ねる。 「どうしてこんなことをしたのか、説明してくれないか?」  彼は眉根を寄せつつ、両手の人差し指をくるくると回した。あたかも、説明に使えそうな言葉をたぐり寄せようとしているように。 「魔法つかう……」  彼は、全身をくたっとさせ、『くたびれた』様子を表現してみせてから、こう続けた。 「食べる、よくなる」  ユーリスは、慎重に要約した。 「つまり、魔法を使うと疲れてしまうから、食べて体力を取り戻そうとした、と……?」  こくこく、と彼は頷く。 「そう。トリモドス」 「でも、それが僕を襲うことと、何の関係がある?」  すると、彼は首を横に振ってから、もう一度言葉を探した。 「おそう、ちがう。人間の、いいきもち──食べる」  彼は、洞窟の隅に置かれていた冒険者の遺品の中にあった、ボロボロの恋愛小説を指さしてみせた。 「やりかた、ちゃんとわかる」  つまり、架空の物語から人を『いいきもち』にさせる手管を学んだと言いたいのだろう。  あの、妙に切羽詰まった稚拙な触れ合いを『わかっている』と言っていいものかと思いつつ、ユーリスは頷いた。 「なる、ほど……」  戸惑いながらも、ユーリスは一つの仮説を立てた。 「つまり、君は人間の……感情を食べるのか?」  彼は我が意を得たりと言わんばかりの笑みを浮かべた。 「そう。カンジョウ、食べる」 「なんと……!」  ユーリスは、自分が食べられそうになったこともすっかり忘れて、この発見に興奮した。  彼が人造人間(ホムンクルス)なのかどうかは、まだ断言できない。彼らについて言及された文献はいくつかあるが、他人の感情をエネルギーにして魔法を使っていたなんて、これまで世に出た最も奇抜な学説の中でさえ読んだ覚えがないのだ。  もしかしたら、彼はどんな文献にも記されていない、未知の人造人間(ホムンクルス)なのかもしれない。  目の前にひらけた可能性に、ユーリスの心臓が高鳴る。 「君は──」  ユーリスは、彼が自分の手を握っているのに気付いた。その顔には、満足げな笑みが浮かんでいる。 「もしかして……今も、僕の感情を食べているのか?」  彼はこくりと頷いてから、とつとつと語った。 「ユーリス、考えるとき、とても美味しい。はじめて食べた。とてもいい」  懸命に紡いでくれた言葉に面映ゆさを感じて、ユーリスは先ほどまでの困惑と怒りを忘れた。 「それは……光栄だな」  咳払いをして緩んだ顔を引き締め、握られた手をそっと引き抜いた。 「だが、本人がいいと言っていないのにそういうことをしてはいけない。わかったか?」  彼は従順に頷いた。それから、一秒だけ待って、こう尋ねてきた。 「ユーリス、いい?」  褒美をねだる()(いぬ)のような目に、ユーリスは考えるよりも早く右手を差し出していた。 「ああ」  ──自分で思うのもなんだが、僕はずいぶん彼に甘くないか?  だが、まあ、手を握るだけなら害はない。  彼が『美味しい』と言ったのは、ユーリスが感じていた知的興奮についてだ。ならば、食べるのは快感にまつわる感情でなくても構わないのだろう。 「きちんと尋ねてくれて、ありがとう」 『待て』ができた犬を褒めるように、ユーリスは言った。彼は嬉しそうにニコッと微笑み、「うん」と頷いた。ユーリスは、その頭を撫でてやりたい誘惑をあわてて退けた。  別に(ほだ)されたわけではないけれど、彼をちゃんとした名前で呼びたい。  ユーリスは少し考え込んでから、こう尋ねた。 「もし良かったら、君をヴィジャと呼んでもかまわないか?」  彼は小さく首を傾げた。 「ヴィ……ジャ?」 「古い言葉で『知る者』という意味だ。ふさわしいと思う。君は飲み込みが早いから」  しばらく考え込んだ後で、彼は自分の胸に手を当てた。 「ヴィジャ?」 「そう。君はヴィジャ」  彼はにこりと微笑むと、もう一度言った。 「ヴィジャ……とてもいい」 「良かった」  ヴィジャの手は温かく、滑らかなのに力強い。触れていると、どういうわけか気持ちが落ち着いてきて、調査計画を立て直す心の余裕が生まれた。  ──さて。  このまま最深部を目指すのは無理だ。諦めるのは悔しいが、ここは一旦地上に戻り、改めて準備をしてから挑むべきだろう。 「実は、道に迷ってしまってね。君の助けがあれば遺跡を出られると思うんだが……どうだろう。僕を地上まで案内してくれないか?」  快く承諾してくれるだろうと思っていたから、彼が首を横に振ったのを見て、ユーリスは驚いた。 「なぜだ?」  すると、ヴィジャは表情を曇らせた。 「出る、だめ」  背中が、ギクリと強ばる。その恐怖を食べてしまったのか、ヴィジャがパッとユーリスから手を離した。 「下のほう……力、ある。それ、みんなつかまえる。出る、できない。ヴィジャが力、食べる──出られる」  つまり、この遺跡自体が侵入者を閉じ込める力を持っているのだ。そういう遺跡の例は以前に耳にした。ある程度深層にまで入り込むと、元来た道へ戻れなくなる仕組みをもつ遺跡だ。ユーリスが迷ったのも、おそらくそのせいだろう。 「遺跡の最深部にある力の根源を君が『食べ』れば、出ることができるんだな?」  ヴィジャは頷いたものの、表情は硬いままだった。 「でも、でかいやつ、邪魔する。たおしても、たおせない」 「……なるほど!」  ヴィジャ自身も、遺跡の最深部へ向かおうとしたのだろう。しかし、何度でも復活するゴーレムが立ちはだかって辿り着けなかったのだ。 「それなら、僕の命を助けて正解だったな」  ゴーレムについては、有名な攻略法がある。必要なのは知識と、それを実践するための力だ。幸い、ここにはその両方が(そろ)っているようだ。 「僕が力を貸す。一緒にここを出よう」  ヴィジャは少しだけ考え込んだ後、こくりと頷いた。 「わかった。ヴィジャ、助ける」

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