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2.自由の使い方-1

 それからの日々は、驚くほど静かだった。好きにしていい。リヴァルにはそう言われている。ノエからも、城内の許可された場所であれば自由に過ごして構わないと聞いていた。  けれど自由に過ごすということが、セレンにはよくわからなかった。  部屋を見渡して、セレンは掃除を始めた。毎日掃除をする必要があるほど汚れるわけではない。それでも机を拭き、窓枠に積もったわずかな埃を払い、床を掃く。洗濯物があれば自分で洗い、浴室の一角へ干した。  一度、部屋を訪れた使用人に見つかり、ひどく驚かれた。 「王妃殿下、そのようなことは私どもが」 「お申し付けいただければ、すぐにいたします」  二人の使用人はなにか焦った様子で口々にそう言う。けれどセレンはやんわりと断った。 「自分でできます。今までもそうしてましたので」 「しかし……」  使用人は困ったような顔をしたが、セレンの方が逆に困ってしまった。それから何度か同じやり取りをした末、半ば諦められたらしい。  掃除も洗濯も終わっていよいよすることがなくなると、セレンはいつも窓辺の椅子へ腰掛けた。ルミナリアから持ってきた一冊の本を開く。何度読んだかわからない。どの頁になにが書かれているのか、おおよそ覚えてしまっている。それでもセレンは本を開いた。そうして、頁を捲った。  セレンは一日のほとんどをこの部屋で過ごした。窓の外では、北国の淡い陽光が庭へ差し込んでいる。  塔にいた頃とは、違う景色だった。  何度か、部屋の外へ出ようと思ったこともある。けれど扉を開けて廊下へ出たところで、セレンは立ち止まった。そういえば、まだ城の中を案内されていない。  婚礼の日、ノエから後日改めて案内すると聞いていた。けれど、そのノエも今はリヴァルとともに戦場へ向かっている。許可された場所であれば自由にしていい。それは覚えている。けれど、どこになにがあるのか、許可された場所なのかがわからなかった。  長い廊下の先へ目を向ける。使用人が一人、遠くを横切っていった。呼び止めれば、教えてもらえるのかもしれない。そう思ったものの、わざわざ仕事をしている者を呼び止めてまで聞くほどのことなのか、判断がつかなかった。  少しだけ廊下に立って冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだところで、セレンは部屋へ戻った。  現状でも、別に困ってはいない。食事は運ばれてくる。湯浴みもできる。本もある。ならば、今すぐどこかへ行く必要もないだろう。  そうしているうちに、部屋の外へ出ようと思うこと自体が少なくなっていった。  料理は塔で食べていたものより、ずっと品数が多かった。肉も魚もあり、北国で採れる根菜を煮込んだ料理もある。  けれど、いつも少し冷めていた。広い城では、厨房からここまで運ぶあいだに冷えてしまうのだろう。それでもセレンは気にしなかった。冷たくても食べられるのなら、それだけで十分だった。  しかしある時、セレンはふと考えた。  毎日三度、ここまで食事を運んでもらっている。料理が冷めるほどの距離なのだから、厨房からも遠いのだろう。それを毎日往復させていることになる。  そう思ったセレンは、その日食器を下げに来た使用人に話しかけることにした。

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