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11.役に立つこと-4
王都へ戻ったのは、それから三日後だった。戦線はひとまず押し戻すことに成功し、街道も確保された。リヴァルはまだ傷が塞がりきっておらず、帰還して早々ガルドから自室で療養するよう言い渡された。
セレンも数日は魔法を使わないよう命じられた。身体の怠さはすでにほとんど消えていたが、魔力が完全に戻るまでは時間がかかるらしい。
城へ戻って二日目、セレンは図書室へ向かった。
いつもの席に座り、机の上へ何冊もの本を積み上げる。けれど、その中に政治や兵站についての本は一冊もなかった。
魔力の枯渇と回復。魔力量の個人差。防御魔法の構造。無意識下における魔法発現。そんな本ばかりが並んでいた。
戦場で防壁が出なかった理由はわかっている。魔力を使い果たしたからだ。ならば、同じことを起こさない方法を探せばいい。
セレンは紙へいくつかの項目を書き出した。魔力の残量を把握する方法や、消費を抑える方法。そして、魔力量そのものを増やす方法。
前回は、危険を認識するたびに防壁が現れた。必要な場所へ必要なだけ展開できることは長所だが、自分の意思とは無関係に発動する以上、戦場のように危険が絶えない場所では際限なく魔力を消費してしまう。
発動そのものを制御できればいいのだろうか。
けれど、考えているうちに、あの時の光景が蘇った。防壁が出なければならなかった。リヴァルを狙った攻撃だった。
自分が防げていれば、あの人が傷を負うことはなかった。
その日の夕方、セレンは借りた本を抱えてリヴァルの部屋を訪れた。
「なんだ、それ」
寝台の上から尋ねられ、セレンは本を簡易卓へ置いた。
「魔法について調べています」
「見ればわかる。なんで急にそんなに持ってきた」
「同じ失敗をしないためです」
リヴァルの眉が寄った。セレンは構わず椅子へ腰を下ろし、一冊を開く。
「魔力量は訓練によってある程度増やせるそうです。それから、魔力が枯渇する前に現れる兆候についても記述がありました。知覚できるようになれば、今回のようなことは避けられるかもしれません」
「また戦場に出るつもりか」
問われて、セレンは頁から顔を上げた。
「……出たいなら、出ればいいと」
「出たいならその時に考えろって話だったろ。……平気なのか、戦場は」
「戦場は……正直に言えば、まだ怖いです」
あの時のことを思い出せば、今でも身体が強張る。それでも、本を閉じようとは思わなかった。
「ですが、なにもしないままではいたくありません」
「なら、お前はなにがしたいんだ」
セレンはすぐには答えなかった。本音は、役に立てるようになりたいと答えただろう。戦場で必要とされるために、もっと強くなりたい。
けれど、今思い浮かぶのは兵たちではなかった。雪の上に倒れたリヴァルだった。
「……あなたを守れるようになりたいのです」
リヴァルが黙った。
「次に同じことが起きた時、今度こそ防げるように」
「セレン」
「魔力量を増やせれば、より長く防壁を維持できます。発動を制御できるようになれば、無駄な消費も減らせるかもしれません。それに──」
「増やしてどうする」
遮られ、セレンは口を閉じた。
「……どうする、とは」
「魔力が今の倍になったとする。お前は半分残して戦場から帰ってこられるのか」
思いもしなかった問いに、答えが出なかった。
「今回は使い切るまで気づかなかった。次は限界がわかるようになったとして、目の前で誰かが攻撃されそうになってる時に『もう危ないから防壁は出さない』ってできるのか」
「それは……」
できるとは言えなかった。目の前にいるのがリヴァルなら、なおさらだった。
リヴァルはその沈黙だけで十分だったらしい。
「ほらな」
「ですが、だからこそ魔力を増やせば」
「増えた分だけ使うだろ、お前は」
セレンは本へ目を戻した。否定できないことが、少し悔しかった。
「……それでも、なにもしないよりはいいと思います」
「頑固だな」
セレンは言い返さなかった。リヴァルを見ると、その肩から脇腹には、まだ包帯が巻かれている。それを見るたびに、やはり思う。
もう二度と、あんな姿を見たくない。
戦場へ戻れるのかは、まだわからない。それでも、もし再びリヴァルが危険に晒されることがあるのなら、今度は守りたい。
そのために自分になにができるのか、セレンはまだそれしか考えられなかった。
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