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12.役立たずでも諦めない-2
翌日から、セレンは図書室と練習場を行き来するようになった。魔法について調べるだけではなく、剣の訓練も続けた。リヴァルから城に残れと言われたからといって、次の機会まで諦めるつもりはなかった。
その日も練習場の隅で、一人で剣を振っていた。教わった通りに足を開き、両手で柄を握る。振り下ろして、構え直す。
「……四十七、四十八……」
五十まで数えたところで、セレンは剣先を地面へ向けた。額に浮いた汗を袖で拭い、息を整える。平気で何百回と振っていたリヴァルに比べれば、情けないぐらい大したことがない。それでも、以前に比べれば剣の重さには慣れつつあった。
魔力は体力とまったく関係ないわけではなく、体力に依存する部分もあると聞く。だから余計に、稽古に身が入った。
その時、中庭の方から甲高い声が聞こえてきた。
「待ってー!」
「こっちこっち!」
「早くー」
続いて、いくつもの足音がぱたぱたと駆けてくる。兵士の声ではない。どう聞いても子供だった。
セレンは剣を鞘へ戻し、もしや、と思いながら中庭へ続く回廊の方を見た。間もなく回廊の角から小さな子供が飛び出してきた。さらにその後ろからもう一人、二人と続く。厚手の衣服を着込んだ子供たちは、セレンの姿に気づくと一斉に足を緩めた。
「……だれー?」
一番幼そうな子がそう尋ねる。セレンはこちらを見つめる六つの目を前にして、どう答えようか迷った。
彼らは現国王ミハイルと、三人の王妃たちの子供だ。
普段は後宮で暮らしているため顔を合わせることはなかったが、どうやら今日は外廷まで来ているらしい。王宮についての本を読んだ時、王子や王女たちの名前も記されていたが、挿絵まではなかった。
つまり、どの子が誰なのかまではわからない。
「セレンと申します」
「セレン?」
「はい」
少しぎこちないながらも挨拶をすると、子供たちは顔を見合わせる。やがて少し年長らしい少女が、何かを思い出したようにセレンを見上げた。
「リヴァルおじさまのお嫁さん?」
「……はい、そうです」
少女は納得したらしく頷いた。その後ろにいた子供も、興味深そうにセレンを見上げている。すかさず、セレンの髪へと視線が行く。
「髪ながーい!」
「白い!」
「白……ですかね。灰色に見えますが」
「でも白いよー」
そう言われ、セレンは自分の髪を一房つまんだ。白に近い灰色なので、子供からすれば白に見えるのかもしれない。
「さわっていい?」
「髪をですか?」
「うん!」
どう答えるべきか考えているうちに、別の子まで寄ってきた。
「わたし三つ編みできるよ!」
「お花つけよう! お花、とってくる!」
「……花?」
話が急速に進んでいる。セレンがどう対応すればいいか戸惑っていると、回廊の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。
「殿下方、お待ちください!」
侍女が数人、息を切らしながら現れた。その後ろからさらに複数の影が現れる。その中でも、侍女たちとは明らかに服装の違う者が三人いた。
セレンはその姿を見て、以前読んだ本の内容を再び思い出した。
国王の正室と、二人の側室。
名前も出自も、形式上の序列も知っている。誰がどの子の母親なのかも、一通り覚えた。けれど挿絵までは載っていなかったため、三人のうち誰が誰なのかまではわからない。
ただ、一人だけ、見当のつく人物がいた。
黒い髪に、少し褐色がかった肌。そして陽の光を受けて鮮やかに見える、金色の瞳。野生動物のように、しなやかで長い手足。三人の中で唯一、王侯貴族の出ではない人物。
──フィル。
国王ミハイルの第二側室で、ミハイルの妻のうち唯一のオメガ男性。もとは平民の出であることも、本には記されていた。
セレンがそんなことを思い出しているうちに、美しい金色の瞳がくるりとこちらを向いた。
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