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第4話

 権力。  それは他者に望まない行動を強制する力だ。  兵卒以上の者は軍装を着用していない。私服を着用している。その理由を俺は知らない。  富を主張しているのか、はたまたただ目立ちたいだけなのか。金糸銀糸、見事な刺繍に色とりどりの重ね布。それに雅やかな装飾品を身に付けている。  この国、ヴィルトリアの第三王子ともなれば尚更、その衣装はひときわ絢爛だった。 「きみがヴォルフ君か」  ルイと会った翌日の昼前。  円形闘技場のど真ん中に呼び出され、ミヒャエル・ヴィルトリア大元帥(全軍を統率する総大将)を前に拱手すれば、ミヒャエル大元帥は、楽にして、と雅に微笑んだ。  ミヒャエル大元帥の隣にはただそこにいるだけで華麗さが匂い立つ、ルイ・グレイグがしれっと立っている。 「グレイグ殿がモルグ討伐の際、君とペア組みたいと言っていてね。君によろしく頼みたい」  うんうん、と満足そうに頷いている、今日も無駄に美しいルイ・グレイグとミヒャエル大元帥の発言に力が抜けた。  特に能力のない一兵卒が竜人と組む。自力の差がおかしくて色々なことがまともに機能しないだろう。  何故ルイ・グレイグは俺と組みたいなどとミヒャエル大元帥に掛け合ったのか。ミヒャエル大元帥は何故、まともに取り合ったのか。  分からない。分からないが。  立ちはだかる権力を前に、俺は頷くしかなかった。 「はい」  忠誠心を表現するためミヒャエル大元帥を前に両膝を地面につけ、両手を地面に置いて、さらに頭を地面に付けようとして、ルイ・グレイグに阻まれた。 「ヴォルフ、やめろ。必要ない」  ミヒャエル大元帥が雅にふふふ、と笑うとえくぼが浮かび上がる。金の衣装がしなやかに動くと、ルイ・グレイグが目を細めて薄く微笑んだ。 「証明するんだ。お前の力を、今、この場で」  ルイ・グレイグは何を言っているのか。  誰かが剣を俺に放って寄越した。しかも真剣。受け取ると、ルイ・グレイグが己の剣を抜いた。  周囲に居た者達が蜘蛛の子を散らすようにその場を開け、ルイ・グレイグが俺に斬りかかってくる。  俺が呼び出されたここは確かに闘技場だ。闘うにふさわしい場所だ。だがいきなりなんなんだ?   俺の剣技は可もなく不可もない。誰に聞いてもそう答えるだろう。  いくら闘うにふさわしい場所でも卓越した身体能力を誇る戦闘種族の竜人と普通としか言いようのない俺が闘えるはずがない。こんなことする意味が分からない。  だが、黙って痛い思いをするのは嫌だった。  キンッ、キンッ、音を響かせてルイ・グレイグの剣を交わす。意外と軽い。三合目、四合目。 「ヴォルフ、ゆっくりでいい。まずは愉しむんだ」  また訳の分からないことを。これは一体、何の茶番だ。観客席がぞろぞろと埋まっていく。  怒りに任せて斬り込むーーーーいくら剣を交わしたのか。  真っ先に地を蹴ったのは俺だが、攻撃を仕掛けたのはルイ・グレイグの方が早かった。  銀光が交差する。  力比べすれば、ルイ・グレイグが軽々と飛んで彼方へ降り立った。  ルイ・グレイグに向かって飛翔しつつ、剣を振り下ろせば、地上にいるルイ・グレイグが剣を振り上げた。  風圧だ。風圧が疾く、重く襲ってくる。  だが、風も物理的な存在である以上跳ね飛ばすことも可能だ。  風圧を弾き、ひとつの方角から瞬時に別の方角への移動、剣を振り下ろした。避けられた。生きてて良かったと思えるくらいに愉しい。心の奥底から笑みが浮かぶ。 「ヴォルフ、竜人は基本負けず嫌いの戦闘狂だ」  はたと止まれば、円形闘技場は観客で埋まり、賑やかな歓声が飛んでいた。  唖然としていると白皙の肌から汗を滴らせるルイ・グレイグが、剣をしなやかに自分の鞘に収めた。 「四刻近く、闘い続けていたぞ。楽しかったか?」  地面は所々えぐれ、闘技場の壁は崩れ落ちていた。  ルイ・グレイグが後ろを振り返り、響く美声で叫んだ。 「ミヒャエル! これでヴォルフが竜人だと証明できたか!?」  豪奢な観客席でミヒャエル大元帥が雅な装飾品を揺らし、ルイ・グレイグの言葉に頷いた。 「ああ、確かに。ヴォルフ君、悪いが調べさせてもらったよ。君は幼少期、狼に育てられ保護されたそうだね。当時、君はとても美しくて身体能力の優れた子供だったようだ」 「……………」  その頃のことはよく……覚えていない。 「ヴォルフ」  闘いのせいだろう。ルイ・グレイグがわずかに上気させた顔で俺の前で傅いた。その秀麗甘美な動作の異常さに周囲がどよめく。 「グ、グレイグ殿」  こんな衆人観衆のいる前で何をするのかと驚き、ルイ・グレイグを立たせようと手を差し出せば、ルイ・グレイグにその手を強く握られた。 「ルイ、だ。そう呼べばいい」  俺の指先にルイ・グレイグの形のいい唇が触れる。 「狼ヴォルフ、その名前に敬意と感謝を」 「あ……」  指先が熱い。顔に血が昇っていく。たじろげばルイ・グレイグがふわりと笑い、素早く立ち上がると俺の耳殻に唇を落として囁いた。  ーー首筋が赤くなっているぞ、どうした? ヴォルフーー 「…………ッ!」  睨みつければ、ルイ・グレイグがふうわりと笑った。

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