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第12話

 婚約披露宴までの四日間、ルイは急にモルグ討伐しないで休むと言い出した。  そんなことよほどの理由がない限り、一兵卒なら許されない。もちろんルイは召喚された勇者で一兵卒ではないが。  だがルイは元々ふらんふらん生きてきたようで、何にも縛られたくないようだ。モルグ討伐を引き受けたのも気分。だから休むのも気分。そう言うのだが。  眉根が寄る。いいのかそれで。 「心配するな、モルグの数はここ最近激減している上に、この国に来訪している竜人が数を競って残り少ないモルグ達を片っ端から狩っている。殲滅する日も近い」  ルイの話を聞いて高く澄んだ青空が心に広がったような気がした。  もし婚約披露宴でルイに運命の番が現れれば俺は婚約を解消されてしまう。誰にも迷惑がかからないなら今から四日間、ルイを俺だけのものにしてもバチは当たらない。当たってもこの際、平気だ。  ルイは美貌にふさわしい華やかな笑みを浮かべ、俺のこめかみに唇を落とした。 「婚約披露宴の後、一ヶ月後に番おう。それから蜜月だ」 「蜜月?」 「竜人の習性だ。番った後は誰にも邪魔されることなく二人きりで過ごす。婚約披露宴の後、ヴォルフには少し寂しい思いをさせるかもしれないが、我慢して欲しい」 「モルグ討伐なら俺も手伝う」 「ありがとう、ヴォルフ」  ふわふわと幸福感で胸が満たされた。ルイと一緒に闘えることが嬉しい。こんな所で着飾りルイの帰りを待つ男娼のような暮らしよりよほどいい。  ルイはにこにこと艶然と微笑んで俺の鼻先に唇を落とした。  俺はルイの笑った顔が好きだ。普段は桁外れの麗しい美貌が笑った瞬間、失神しそうになるほど可愛くなる。胸が熱くなる。 「行こう、ヴォルフ」 「……? どこへ?」 「せっかくの休みだ。少し早いが蜜月のように過ごそう」  俺は部屋に篭りきりで知らなかったが,迎賓館は広かった。庭園を含めると敷地面積が六千平方メートル。ちょっとした山やら池やらがあり、背後の建物を利用した構成は比較的珍しく、ルイはその景観を俺に楽しませてくれた。  それから船遊びを楽しみ、盃を流して詩歌を読む曲水の宴を二人だけで楽しみ,、目が合えば、溺れるくらいのキスをたくさんした。  食事中はずっとルイの上に座らされた。  行儀が悪いと嫌がれば、これは竜人の習性だと言われて、少し傷ついた。俺にはそんな習性がない。やはり俺は竜人じゃないと声に出さず、少し落ち込んだ。  ルイはそんな俺に手ずからご飯を食べさせてくれた。これは給餌求愛行動だと教えてくれながら。  俺にご飯を食べさせるルイは終始楽しそうで幸せそうに、にこにこと華やかに笑うので、俺も自然と笑みが溢れ始め,幸福感で満たされた。  給餌求愛行動はとても気に入った。好きだ。  ルイがどこからともなく、子供のおもちゃを持ってきた。  動物の土笛や起き上がり小法師、コマや蛸,、張子のお面、蛇腹状の風箱に風を送ることで鳴き声を出す吠え犬など、それは俺が子供の頃、充分遊べなかったものだった。  過去、何かの会話の拍子に俺が言っていたことをルイは覚えていたようだ。恥ずかしかったが、嬉しかった。  だが大人になった今なら子供のおもちゃで遊べばすぐ飽きてしまう気がした。  だから遊び始めるのが少し怖かった。ルイの気持ちを無碍にしそうで。  だがルイと一緒にいると何をしても楽しかった。  どこまでも凧を上げて弓で撃ち落としたり、張り子のお面をかぶって隠恋慕(かくれんぼ)をしてみたり。  どこでも唇を重ねて気が付けば夢中になりーー放置されたおもちゃが風に揺られてカタカタと笑った。  温泉を一緒に楽しんで,夜は褥で二人絡まりあったが、性的快楽より,触れ合いで満たされる心の方が気持ちが良かった。  ただぬくもりを分かち合いながら眠るだけで充分幸せだった。  ーーいや,俺は寝たふりをするだけでほとんど寝られなかった。  迫る婚約披露宴が怖かった。竜人が多く招待されたと聞いた。そこにルイの運命の番が何となくいるような気がした。ルイを失うのが怖かった。神がいるなら,ルイの運命の番を消してくれと何度も祈った。そんな自分が恐ろしくなり震えた。  浅い眠りの中、婚約披露宴を迎える日が来なければいいと、竜になってこの世界を壊す夢を見た。  そんな俺が夜半に目を覚ますと、ルイがしつこいくらいのキスをしかけてくる。 「唇が腫れる」  俺が怒ると、端麗な美貌を持つルイは傷を治すかのように俺の唇を舐めて、また唇を重ね、俺が心底愛しくてたまらないという瞳で見て,、ふんわりと艶然と微笑む。  キスはこの際いい、気持ちがいいし、たくさんされれば嬉しくなるから,、構わない。  ただどうしてずっとルイが笑っているのか気になって聞いてみた。 「ヴォルフは俺の笑った顔、好きだろう? プレゼントだよ」  言葉を失った。  どうしてルイは俺の一番欲しいものが分かるのか。  豪華な衣装も宝石も重いだけだ。それならルイが幸せそうに笑っているのを見ている方がいい。理屈じゃない。込み上げる幸福感で満たされる。  この幸せがずっと続きますように。  そんな祈りを込めて、とうとう婚約披露宴の日を迎えた。

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