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第15話

 そもそも迎賓館は国賓を迎え入れる為の施設だ。  だから国賓である神授の美貌を持つ竜人が迎賓館に入ってきても、おかしくない。  今、迎賓館は俺とルイ専用になっていると聞いていたが。  汗を袖で拭い、地面に散らばった私物をまとめる。場所を変えよう。 「待て!」 「花ならいらない」  限りない美貌を讃えていた涼やかで麗しい貌が歪み、小さな野花をその背に隠した。 「……違う、これは違う。その、聞きたいことがあるんだ」 「命令か?」 「め……っ!? ち、違う。その、無理、無理じいはしない。どうして、どうして、鍛えているのか、聞きたい」 「ルイのためだ。これで用は済んだだろう。帰ってくれ」  涼やかな目元が吊り上がり、心胆凍らせる怒気が、冷え冷えと辺りに広がった。 「あの男は! 貴方をこの館に閉じ込め、貴方に孤独を強いている!! 貴方はそれに気付いていないのか!」 「違う。俺が自分唐とじこもっている。俺がここを出ようと思えばいつでも出て行ける」  まぁルイはいい顔しないだろうが、俺を止めはしない。だから俺はここを出ない。ルイの嫌がることはしたくない。 「そもそも、お前には関係のないことだ」 「……う! そう、確かに、ない、が……私はお前という名前ではない。リアム・ド・ヴレだ。リアムと呼んでくれ。ヴォルフ。まだ話がある」 「俺の名前呼びを、俺は許していない」 「ならば、聞いてくれ。私の運命の番」 「ヴォルフ! そう呼んでくれ」 「ヴォルフ」  見ればリアムの恍惚と蕩けるような美貌。ふいと目を逸らした。  俺の名前をふざけた名前だと婚約披露宴で言っていただろう、お前。俺はこの耳でしっかりと聞いたぞ。 「ヴォルフ、貴方の竜丹は瘢痕化(はんこんか)している。普通に鍛えても駄目だ」  弾かれたようにリアムを見た。 「竜丹?」 「竜人としての力の源である竜気を生成し貯めておく所だ」 「瘢痕化?」 「傷あとと言えば分かりやすいか。傷つき、治る過程で障害を受け、本来なければならない元々の組織、竜腺がない。だから機能的に劣ってしまっている」 「俺は……竜人なのか?」 「……? ああ、貧困だが竜気を纏っている。まぁそれも竜腺がないせいで……ん? まさか貴方は自分が竜人だと思っていなかったのか?」 「ああ、そうだ。瘢痕化を治す方法はあるのか?」 「え? え? あ、いや……外部から微細な傷をつけて、再生を促せば、あるいは……手伝おうか?」 「いい。ルイに頼む」 「……!! あの男に出来るはずがない! そもそもその瘢痕化が視えていたら、そのことを知っていたら、出来ていたら、あの男だって治している。そうだろう? え? 違うのか?」 「違わないと思うが」 「ふん、私の運命の番だからって調子に乗らないでもらおう。私のこの顔を見ろ! どう思う」 「美形だな」  リアムの涼やかで麗しい美貌が一瞬で真っ赤に染まった。 「び……っ、美形、そ、そうか、うん、そう、よく言われる」  そわそわとして落ち着かない奴だな……コイツ、まさか。まだ子供か? 「いいか、ヴォルフ! よく聞け! お前が私の運命の番でも、私はお前に惚れない!」 「俺が普通顔だからか?」 「え?」 「婚約披露宴の時、そう言っていただろう?」 「え!? 聞こえて……いや、違う、その、あれは、その、いや、間近で見れば、ヴォルフの顔は親しみある好感度最大級の顔でその、ずっと見ていたく」 「で、何が言いたい?」 「…………もう、自分でも、何がなんだか」  神授の美貌を持つ男がへにょりと眉を下げ、その場にしゃがみ込んだ。  婚約披露宴の時、涼やかな目元で周囲を睥睨し、他者を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。今はそれがまるで嘘のようだ。 「はっきり言わせてもらう。俺はルイと番う。番えないなら死ぬ」  リアムがぱっと顔を上げた。白いきめ細やかな肌が青ざめて見える。 「本気で言っているのか?」 「ああ」 「あ……わ、わ、私とお前は運命の番かもしれないが、貴方が私に惚れないように、私も貴方に惚れない。メンクイなんだ、私は。失礼な話だが、私は私と釣り合う容姿をした者を伴侶にしたい。だから貴方に惚れない。それが証拠に貴方の運命の番として名乗りを上げなかった。大丈夫だ。私がヴォルフの治療を手伝う。あの男との幸福を全力で応援する」  すっくとリアムが立ち上がった。俺も背がかなり高いほうだが、それよりまだ高い。男なら誰でもそんな身体になりたいと望む立派な体躯。見下ろされる。 「グレイグ殿にもきちんと挨拶させていただく。私はヴォルフの運命の番だが、横恋慕するつもりは毛頭なく、グレイグ殿立ち会いの元でなければ、ヴォルフの治療を行わないと。今日は、その、特別に会ってしまったけれど」 「それは駄目だ」 「え?」 「俺達の婚約には条件がある。どちらかの運命の番が見つかれば、婚約は解消されるようになっている」  リアムは真っ青な瞳を伏せると、涼やかな口元を引き歪めた。やがて美麗な作り笑いを浮かべると、困ったように、そうか、とだけ言った。

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