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第27話

 ルイに肩を掴まれて、身体がたやすく反転し、俺の背中が床に押し付けられた。  俺にのしかかってくるルイは苦しげな顔をしている。吐息が震えている。成功した。ルイは俺に発情している。このまま俺のフェロモンでルイを酔わせて既成事実さえ作ってしまえば、ルイは永遠に俺のものだ。  歓喜に胸を高鳴らせ、俺に襲いかかるルイを待てば、ルイの豪奢な白金の髪がさらさらと肩からこぼれた。  ルイの震える指先が俺の喉元に触れ、滑る。ルイはほっと息を吐き出した。 「血は止まったか。馬鹿なことを……」  ルイは俺に発情していない。  泥に沈むような絶望感の中、ルイを見上げて、くすくす笑った。 「気にしなくていい。もう……婚約者じゃなくなる」  言葉にすれば涙が伝って、床にぽたりと落ちた。  ルイのやるせない眼差しを見て、何と自分は憐れなんだろうと同情して、くすくすと笑いが止まらない。  ルイは静寂、そんな言葉がぴったりくる表情で、袂から手巾を取り出すと、俺の涙と喉元についた血を拭って、俺の身体からそっと離れた。  身を切られるような辛さで起き上がり、筆を執る。  ルイと出会って書を習った。さらさらと書けば、とても美しい字が書けた。婚姻書のサインとはまるで違う。別人のようだ。  ふうらりと部屋を出ようとすれば、ルイに腕を掴まれた。とっさに振り払ったのは、何故なのか。 「どこへ行くんだ?」  くすくすと笑いがこぼれた。  本当だ。どこへ行こう。どこでも行けるような気がするし、どこへも行けない気もする。再び腕を掴まれた。 「……一人にはさせられない、送る」 「迎賓館には帰らない」  あんなルイの匂いの詰まった所。居れば気が狂う。 「リアム・ド・ヴレの所に、送る」  ルイに掴まれた腕が、一瞬、固く握られた。  何故ここでルイはリアムの名を出すのか。それにルイに掴まれている俺の腕。ルイがリアムの名前を出した瞬間、まるで逃がさないというように握られた。無意識の行動か? ルイはそれに気が付いた様子がない。  もしかするとーー、ルイは俺の運命の番がリアムだと知って、俺と婚約解消したのか? だがどうやって知った? リアムがルイに言ったのか? いや違う。リアムにそんな狡いことができれば、俺はとうの昔に婚約解消されている。  第一、それを知ったのなら何故ルイはそれを理由に俺との婚約解消をしない? 「リアムの所には行かない」 「……何故だ」  すうっと怒りに目を細めれば、ルイの琥珀色の瞳が微かに揺れた。 「さぁ? 気分かな。今日は、誰かの所に泊めてもらう」 「誰の所に行くつもりだ」 「身体が」 「身体が?」 「疼くんだ。慰めてくれる人の所へ、今夜は行く」 「ヴォルフ! 言っていいことと悪いことを区別しろ! 怒らせたいのか、俺を!」  琥珀色の瞳を見ると瞳孔が縦長に変化している。怒りで竜化の兆しを見せている。  俺と婚約解消したルイがどうしてそこまで怒るのか。どこにそんな権利があるのか。面白い。  面白いこと、興味を持つこと、これを捨てるなと、言ったのは、ルイ・グレイグ、お前だ。 「泊まる所がない。お金もない。それなら身体を売るしかない。毎夜、毎夜、売れるだろうか、このちんくしゃ男娼。まぁスタイルと感度にはほどほど自信が」  「やめろ! ヴォルフ! お前の全身は俺がすべてマーキングしている。不特定多数の誰かに、そういったことをされればその都度、激しく痛む。快楽なんかない!」 「今は痛みだけが欲しいんだ」  ルイが息を飲み、一瞬、どうしようもない痛みに耐えるような表情を浮かべた。すっと目を逸らす。痛みに耐え続ける日々をこれから過ごすのは俺だ。ルイじゃない。 「ああ、だが気持ち良くなりたければ、同じ竜人に何度も抱いてもらえば、いや違った。手っ取り早く気持ちよくなってみたいなら、俺は後ろが未開通で──」 「ヴォルフ! 頼むから……冗談でも、やめてくれ。聞いていられない」  ルイに強く抱き込まれた。何故、飽きたと言って婚約解消した俺をその腕の中に閉じ込めるのか。矛盾している。  両手を伸ばしてルイの両頬を包んだ。  琥珀色の瞳がどうすればいいのか分からないというように揺れている。  そっとルイを引き寄せて耳元に囁いた。 「ルイ、俺を今夜、買う?」 「……いい度胸をしてるじゃないか、ヴォルフ」

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