30 / 55
第30話
俺は竜人ルイに中をマーキングされてしまうと、どうなってしまうのか、まったく知らずにいた。
中に射精され、熟れた内部はルイを欲しがり、気が狂うほどルイを求め始めた。
そこに俺の意志はなく、ルイの爛熟した香りを嗅げば、ルイに挿れて欲しくて、中に射精して欲しくて、たまらなくなり、みっともないほど発情してルイにしがみついた。
一人にされると哀しくて、寂しくて、嗚咽を漏らし、訳の分からない涙を流した。
ルイはそんな馬鹿みたいになった俺を心底慈しみ、どこまでも可愛がってくれた。
ルイは俺を番にしてくれたんだと、天にも昇る気持ちを味わったーーーーこともある。
部屋の隅の大金貨が夜毎増えていくのを見れば、嫌でも自分の身の程を思い知る。
ルイは俺のマーキングをリセットする方法をどうやら知っているようだ。
リアムに掴まされた竜の涙のことをルイは粗悪品だと言っていた。そして情事の後、誰とも知れない竜人の鱗を齧っている。
だから熟れた熱を抱え、どうすればいいのか分からない身体で衝動的に、何度も瞬間移動で逃げようとした。
だが、その度にルイの結界に弾かれた。
この屋敷に張られていた結界は迎賓館とは比べものにならないくらい緻密に計算されていて、しかも想像もできないほど膨大な量の竜気が注ぎ込まれていた。
とても俺ごときが逃げ出せるような代物ではなかった。
切羽詰まってリアムに助けを呼ぶことも考えたが、リアムはこの結界内に侵入することはおろか、この屋敷の存在すら掴むことができないだろうと思い至り、諦めた。そもそもリアムへの連絡手段を俺は知らない。
この屋敷に張られた結界は一朝一夕で用意されたものではなかった。事前に準備され、迎賓館でリアムの侵入を何度も許していたのが想像できないくらい、完璧に仕上げられた結界だった。
結界は俺が逃げ出す度、無情にも強度をぐんぐんと上げていった。
気が付けば、リアムにつけられたマーキングはルイにすべて上書きされていた。痛みはほとんどなかった。じわじわと書き換えられるルイのマーキングは、蕩けるように快かった。
「今夜も俺が買う」
男娼扱いされ、ズタズタになって集めるしかなかったプライドも塵と消え、嬉しさで涙を流し、もうこの世にルイしかいないと思い始めた頃。
霧が晴れたように、身体が発情することをやめた。
竜人の蜜月が何であったかを正しく理解した瞬間だった。俺は金で買われただけだったが、竜人に中出しされるとどうなるか嫌というほど知った。
ルイはちょうど食事を獲りに出かけていた。
すぐさま湯殿へと向かう。歩けば、だらだらとルイの子種が流れだし、廊下を点々と汚していった。
この屋敷の庭や居室、寝室などは美の極致に達していたが、湯殿は違った。
天井には自然採光が室内を照らすような窓があるが、室内には大きな木桶がぽつねんと用意されているだけの未完成さが漂っている。
それでも源泉かけ流しの湯が大きな木桶をとうとうと満たし、いつでも湯浴みすることができた。
俺の中を満たしているルイの子種をかき出す。
ふと笑いが漏れた。発情中、ルイは俺の足の指先から髪一筋まで丁寧に洗ってくれた上で、俺の中を満たしているルイの子種をかき出そうとしてくれた。だが俺はそれが嫌で泣きながら拒んでいた。
俺からソレを奪うなと。
俺はルイに麝香のような、くさい臭いのする竜人の鱗を食べさせられていた。どの部分の鱗なのか知りたくもない。怖気の立つ避妊対策の鱗。
俺の中から子種を洗い流そうが、そのままにしようが、妊娠などするはずなかった。
身を清め、櫃チェストから取り出した上衣に裙を巻き、幅広の布の帯を締める。
衣装の裾は末広がり、地につくほど長く、ひらひらと風に翻ればきわめて優雅だが、反面ずるずると動きにくく活動的ではない。
新品だが俺にあつらえたかのように寸法が合っている。いや、俺が痩せたのか少しゆとりがある。
発情中は浴衣を引っ掛ける程度でまともに服すら着ていなかった。
この服はここに俺を連れてくる前に用意していたものだろう。
ここはルイが俺の為に用意した巣だ。
だがこの巣は所々未完成で完成していない。
俺もルイと同じ雄だ。番を置くに一部ふさわしくないと感じる。
俺はルイの番じゃない。
ルイは毎夜、毎夜、俺を買うといい、大金貨を積む。俺に永遠を約束せず、避妊させて子種を注ぎ込む。
そんなルイは自分だけ抜け目なく、俺のマーキングをリセットできる鱗を持っている。
馬鹿にするのもいい加減にしろと喚き散らしたくなる気持ちを堪えれば、握りしめた拳がギリと音を立てた。
ルイは俺の運命の番がリアムだと知っている。
これほどの結界を張れるルイが過去何度も迎賓館の結界内に侵入したリアムの存在を感知できなかったはずがない。俺とリアムの会話までは聞けていなかったようだが。
この巣の結界の土台を作るためには事前に膨大な竜気を注ぐ必要があったし、二人分のモルグ討伐にもあたっていた為、迎賓館の結界は手薄になってしまっていたんだろう。
ルイはリアムのマーキングにも気が付いていた。
おそらくリアムが暇さえあれば贈ってくれていた小さな野花の存在も。
婚約解消されたその日、俺は喪心し、あの小さな野花の存在を忘れ、どこにやったかも定かではなかったのに、この屋敷の部屋の隅、見えないように、仕舞われていた。俺が気が付いた時には野花は枯れて萎びて見る影もなかったが。
どちらかに運命の番が現れれば婚約解消する条件を出したのは、ルイだ。
だが、その条件でルイは俺との婚約を解消せずに、俺に飽きたからと言って俺を捨てた。
その後、俺を金で買ったにしろ、いつくしみ、可愛がってくれたのは事実だ。
だがこの先、俺を運命の番リアムに譲るつもりがあったなら、そんなクソグズいこと、よくしたものだと思う。
ルイが俺とリアムをここまで虚仮こけにするとは思わなかった。
そもそも俺はそのリアムと番う気がさらさら無い。その意思確認さえルイはしてくれなかった。
逃げよう。ここから逃げ出す好機は一瞬。
ルイがここに戻る瞬間、すれ違うしかない。
あとは出たとこ勝負で、異世界転移を繰り返すだけだ。
ともだちにシェアしよう!

