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第34話
ルイへの気持ちは飽きることなく、今でも馬鹿みたいに愛しく思っている。
ただルイと再会するまでは、仮面を被って面白おかしく生きてみたり、俺を捨てることで、熾火のような燻る熱を自分の手の届かないところに仕舞っておくことができていた。
でも再会すればもう駄目だった。ルイを想う気持ちが激しく燃え上がり、身を焦がし尽くしそうになる。
どうして逃げたんだろう。再会した時、きちんと話をすれば良かった。あれからルイはどうしていたのか。どうしてそんなに痩せたのか。どうして僕を探してくれていたのか。どうしてあれから誰にも上書きマーキングされていないのか。きちんと聞けば良かった。
後悔してももう遅い。僕はまた逃げた。
ルイが俺の中にまでマーキングしたせいだ。
ルイがどれだけ愛しくても、恋焦がれても、あの桃源郷のような場所で金で買われ、発情フェロモンで盛り、身体が心を裏切るあの屈辱的な日々にはもう二度と戻りたくない。
過去、衝動的にルイにつけられたマーキングを消せばいいと思った日もある。
始祖竜に方法を聞けば「そんなもの存在せぬ。元々が強い独占欲から生まれたマーキングだ。消されてたまるものか」そう言われた。
そんなもの。
子孫僕らにまで累を及ぼす必要性があったのかどうか、問い詰めたいところだったけど、代わりに、ルイが桃源郷で齧っていたあの竜の鱗はなんなのかを聞いてみた。
「避妊が目的だろう」
一瞬、頭に血が昇ったが、ルイは僕にマーキングされたままだ。ほの暗い喜びはずっと僕の胸を躍らせている。
僕はルイから身を隠す為、レイモンドの領地に身柄を置かせてもらうことにした。番を持つ竜人ほど強い結界を張れる者はいない。レイモンドならなおさら。
ゲストルームに籠もり、また、同じことを繰り返すのかと鬱々する。
またルイから逃げて、それでもルイが僕を追いかけてくれるかもしれないと、根拠のない願望に縋りつき、やがて心を疲弊させていく。
前回のことを知っているレイモンドはできるだけ俺をひとりにしようとはしなかった。ぼんやりとゲストルームにこもっている僕を人を使って呼び出してきた。
広さとパノラマビューを誇るサンルームに行けば、レイモンドの他に何故か始祖竜がいた。
首をくすめた。気分はここのところ最高に悪い。
「錚々たる顔ぶれだね。始祖竜に古代種黄金種、それから僕、古代種赤竜種、画家を呼ぼうか? 絵はきっと高く売れる」
始祖竜がソファを指差し、僕に座るよう促した。逆らうようにマントルピースの横、壁に背中をもたれかせる。
「そなたに置かれた状況を聞いた」
「……みんな暇なの? 僕ことなんか放っておけばいい」
「ルイとやらが、そなたのことを見て、ヴォルフだと気が付いた理由を知りたくはないか?」
組んだ自分の腕がピクリと揺れ、かすかに眉根がよる。動揺を悟られたくないのは矜持のせいか。心の柔らかい部分を今は触られたくない。
「元々、そなたの歪みにはそなた自ら矯正した部分があった。現金なものだ。貴様は無意識のうちに本来の自分の姿をそのルイとやらに見て欲しいと強く願ったのであろう。自ら歪みを矯正してその正しく自分の姿を見せている。ルイとやらは最初から貴様のその庇護欲をそそられる顔しか知らぬ」
レイモンドが軽いため息を吐いた。
「ルイという男もヴォルフの今のその庇護欲をそそられる顔に一目惚れしたか。虜になったか。いずれにせよその男がひどく過保護になりヴォルフを独占したがったのも頷ける。ヴォルフ、悪いことは言わん。一度、彼と話し合え」
これまでのことを聞かれれば聞かれるだけ答えてきたことが悔やまれる。何も話さなければ良かった。無性にイライラする。
「……竜人の発情フェロモンを知らないからそんなことが言えるんだ。話し合って和解する前にルイが暴走すれば、僕は又、監禁されて金で買われる。次はおそらく逃げられない」
レイモンドが空間に手をのばし、手のひらにぽってりと乗るカラメル色の幼竜を取り出した。
カラメル色の幼竜は僕を見つけると必死の様子で僕の胸元に飛びつき、しがみついてきた。
『ぎょいぎゅうぎょぎょい』
幼竜だからか、何を言っているかが分からない。ただ幼竜は振り落とされないよう手足の爪を伸ばし、ぎゅうぎゅうと服にしがみついてくるので必死さは伝わる。
ジタジタと暴れるからか、カラメル色の幼竜からふわり優しい香りが広がった。
「まさか……この香り、ルイ!?」
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