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第37話

 誰もがサンルームを去った後。凝結した空気が軋むような響きに、レイモンドが目を細めた。 「覗き見とは趣味の悪い」  「……何とでも言って下さい」  軋んだ空気が答えた。 「姿を現せ」  軋んだ空気が薄い氷を割るように砕け、夜が凝集したような黒ずくめの姿が現れた。光溢れるサンルームの中で、その姿は氷を削った彫像のように涼やかに映える。  しばらくレイモンドでさえ見惚れた。 「何故、ずっと見ているだけであいつを攫わなかった? より容姿の整った者を好むと聞いたが」 「容姿など、ただの器に過ぎないことを彼から教わりました。それに彼はあの男と番えなければ死ぬと。ならば私の取る選択肢はひとつ」 「満足か?」 「はい。私の運命の番に宝石のように生きられる未来があって良かった」  澄み渡る真っ青な瞳が一瞬、恍惚と煙る。甦る記憶は楽しかった過去の残光か。 「あいつが飲み仲間、『優勝者』を見つけた後から、お前があいつを見守っていたことを伝えておく」 「いらないお世話です」 「お前が想うより、運命の番は重い」 「ふふふ、私と再会してあの男への想いが消えてしまうくらいなら、死を選ぶ、でしたか。一致する片割れはたったひとりだと彼はきちんと理解している。けれど私は報われない」 「……あいつは狼の群れの中で育った。狼は生涯にただ一匹しか愛さない」 「刷り込み、でしょうか。それとも元々彼の気質、でしょうか。あるいは容姿の優れた者を伴侶に迎えたいという奢った考えを私が最初から持っていなければ、私は彼と番えたのでしょうか。今考えても栓なきこと――伝言をお願い出来るのなら、彼にこう伝えて下さい」  空気が軋んだ。 「今後一切、貴方を見守ることはおろか、会いにも行きません。お約束します。けれど、それでも、もし、幸せな貴方の視界の中に私の姿が映るようなことがあれば、その時は……一瞬で、逝かせて下さい。それが慈悲です、と」 「…………分かった」 「運命の番を持つよしみで貴方にはよくしていただきました。この恩は、決して忘れません」  空気は軋んで消えた。

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