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『先生の陥没乳首が狙われているようです』九時限目
※
学園祭前日。
赤峰はいつものように、三年四組で教鞭を執っていた。赤峰は生徒の日本語訳を聞いていても、授業に集中できなかった。
「気にしないように」と思えば思うほど、どうしても碧のほうに目が行ってしまう。
(あっ……)
目が合うと、赤峰は慌てて顔を伏せた。視線が絡み合い、意図せず顔がほてる。
碧のねばつくような視線が、頭から離れない。
(あの時と同じだ。碧は、じっと俺を見ている)
海鋒に告白された記憶が、瞬時によみがえる。碧は目を見開き、焼け付くような視線を赤峰に向けていた。
授業中だというのに、荒い吐息が口から漏れ出る。
追試の日以来、碧と個人的な会話を交わしていない。碧はあれから、英語準備室に現れなくなった。「太陽さん」と呼ばれることも、話しかけられることもなくなった。
海鋒の作戦はうまくいったはずだ。それなのに、日に日に気持ちが沈んでいく。まるで、底なし沼に落ちたみたいだ。
「先生、顔赤いけど、大丈夫ですか?」
教卓の前に座る生徒が心配そうに尋ねた。
(いけない。今は授業中なんだ)
碧の熱を帯びた視線にあぶられ、体中が熱くてたまらないし、気持ちも不安定なままだが、赤峰は元気よく返事をする。
「ああ、大丈夫だ! 明日はちゃんと女装するし、俺のコスプレを目に焼き付けて、受験勉強のやる気を出してくれたら、俺は嬉しいぞ」
赤峰は生徒たちに背を向けて、ホワイトボードに英文を書いていく。
碧の想いを受け入れるのか。それとも、海鋒と付き合うのか。
海鋒と碧――。
海鋒は同僚。碧は生徒で、未来ある若者だ。
二人のうちどちらを選ぶべきなのか、火を見るよりも明らかなはずなのに、赤峰は未だに答えを出せずにいる。
誰にも気付かれないように、赤峰はそっと長息した。
(明日は文化祭。いつまで、こんな日が続くんだろう)
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