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『その後の先生の陥没乳首』act.7
「碧の部屋、久しぶりだなあ」
赤峰にとって、碧の部屋は感慨深かった。赤峰と碧の歴史は、この部屋から始まったと言っても、過言ではない。
赤峰はフローリングの床を見詰める。今は取り去られているが、四年前には、カーペットとローテーブルが置いてあった。
(ここで押し倒されたんだな)
赤峰はフローリングの床を懐かしそうに撫でた。
(あの頃はかわいかったよなあ。今もかわいいところはあるけど)
赤峰の視線の先で、碧はベッドの下に顔を突っ込んでいた。
「見せたいものって、それか?」
碧が取り出したのは、それほど大きくない段ボールだった。なんだか嫌な予感がする。
(ベッドの下って、エロ本の隠し場所の定番だよな。いや、碧に限って……碧って、けっこうエロいけど)
見覚えがある透明なシリンダーと、箱型の器械。碧が取り出したものを見て、赤峰は唖然とするしかなかった。
かつて海鋒が赤峰にためさせた、陥没乳首用の吸引機だった。
「海鋒先生が、俺宛に送ってきたんだ。『使い道がないから使ってください』って、メッセージ付きで」
「……海鋒が? そりゃあ、自分では使わないだろうけど」
(だったら、なんで俺に送ってこないんだ? 恋人の碧に送り付けるなんて、「プレーに使え」って、言ってるようなもんなんじゃ……)
碧は瞳をキラキラさせて言う。
「太陽さん! 前戯にこれ使っていいかな」
赤峰は努めて冷静になろうとした。
「や、でも……海鋒が、送ってきたものだろう」
赤峰にとって、海鋒は再就職の世話をしてくれた恩人であり、かけがえのないバレーボール仲間であることに変わりはないが、媚薬を盛られて襲われかけた過去は消えない。その時に無理やり付けられたものを、おいそれと使うには抵抗がある。
さすがの赤峰も、人を疑うことを覚えたようだ。
碧の表情が暗くなった。
「太陽さんの、初めてのお道具体験を海鋒先生に盗られたこと……俺、未だに悔しいんだよね」
さっきから、ちょこちょこ言葉遣いに引っかかる。
「そもそも、陥没乳首を自宅で治すためのものだろ? 大人のオモチャ的な意図で作られたものじゃないだろう」
「大金払って改良したらしいよ。アダルトグッツの開発してる友達に頼んだって、手紙に書いてあった。ほら見てよ。わざわざ説明書まで付いてるんだ」
碧が見せてくれたのは、手書きではなく印刷されたA4の用紙だった。番号が振ってあり、使い方と注意事項が載っているようだ。
海鋒の熱の入れように、尋常じゃないものを感じる。
(あいつなりの、罪滅ぼしのつもりなのか? それにしたって……)
「けど、安全かどうかなんてわからないだろう」
赤峰は一番気になっていたことを口にした。以前使われた時は、力が強すぎて乳首が腫れてしまったのだ。
碧は自信満々な様子だ。
「俺もそう思って、安全確認しといたから、大丈夫。安心して」
驚きのあまり声が裏返る。
「確認した? 碧が? 使ってみたって言うのか? この陥没乳首用吸引機を?」
碧は優雅な笑みを浮かべて平然と言う。
「太陽さん、驚きすぎ。太陽さんのためなら、当然だよ」
碧が吸引機を使っている様子が頭に浮かんで、下半身の血流が一気によくなった。色気がありすぎて鼻血が出そうだ。
(体に痕が残るかもしれないのに!)
トップモデルの碧が自分のためにそこまでやってくれるなんて、感動で胸がじいんとする。
碧がお膳立てしてくれたのだ。恋人として、受けないわけにはいかない。
「わかった。やるよ」
赤峰がジャケットを脱ごうとすると、碧が制した。
「待って。俺が脱がしたい」
「え? ……ああ」
「こういうのは、過程が大事だと思うんだ。ね?」
至近距離で綺麗な瞳に見詰められ、胸の高鳴りが止まらない。
碧は、脱がせたジャケットを、皺にならないようにハンガーにかけてくれた。大事にされている気がして、ますます碧が大好きになる。
「太陽さん! これ、前開かないやつじゃん」
丸首シャツの裾を掴んで、碧が少し残念そうに言った。
「あ、悪い」
(って、何を謝っているんだ、俺。あれ? 何か忘れているような……)
シャツを捲っていた碧の動きが止まった。無表情で穴のあくほど赤峰の胸を凝視している。
(確か、前にもこんなことがあった。あの時は、初めて陥没乳首を見て、驚いて……)
そこまで考えて、赤峰ははたと気が付いた。
(そうだ! 乳首!)
赤峰の視線の先には、正常な、陥没していない乳首があった。
碧の整った眉宇に、みるみるうちに皺が刻まれていく。碧は、悲しみと疑いが入り交じったような複雑な表情を浮かべていた。
「太陽さん、まさか……」
碧の声はか細く震えていた。
(浮気を疑われている?)
赤峰はシャツが捲れ上がったまま熱弁を振るった。
「違う! 断じて違う! 俺が浮気なんかするわけないだろ! こんなに愛しているのに!」
「じゃあ、なんで……」
赤峰は不承不承口を開いた。恥ずかしいが、誤解を解くためには言うしかない。
「ゆうべ、電話くれただろ? 碧のことばっかり考えてたら、夢に碧が出てきて……」
碧はにんまりした。
「エロい夢だったんだ?」
図星を指され、かーっと顔が熱くなる。
「それで……その……自分で……」
恥ずかしすぎて、顔から火が出そうだ。
碧は赤峰の胸元に顔を近付けてきた。
「けっこう腫れてない? 服に擦れたにしても、こんなになるかな」
お茶を濁したいところだが、碧の追及はしつこかった。
「明け方までしちゃったんだよ」
「ふうん、そっか。そっち方面なら大歓迎だよ」
碧は満足げに頷いた。誤解が解けたのはよかったが、恥ずかしくてたまらない。
「でも、かえってよかったかも。この器械、乳首が出てる状態で使ったほうがいいみたいなんだ」
碧は満面の笑みを浮かべる。
赤峰は、なんだか嫌な予感がした。
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