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『その後の先生の陥没乳首』act.10【終】
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
「う、ん……」
赤峰は碧の腕の中で目覚めた。碧の長い睫毛や薄い唇が目に飛び込んできて、寝起きだというのに心拍数が上がってしまう。目を逸らすと、今度は白いうなじや綺麗な鎖骨のくぼみ、はたまた大胸筋まで見えてしまい、ますます興奮してしまった。
赤峰は気持ちを落ち着かせるため、碧を起さないように気を付けながら、起き上がった。
体を動かすと、腰が少し痛んだ。喉もいがらっぽい感じがする。
赤峰は「あー」と小声で言ってみた。やはり掠れてしまっている。
(明日から仕事なんだけどな。生徒たちには、部活の応援で声を出しすぎたって言っておくか)
ゆうべのことを思い出すだけで、顔がほてってしまう。
(あの後、どうしたんだっけ)
碧の飛沫を受け入れたところまでは覚えているのだが、その後の記憶がない。
(そういえば、潮まで吹いたんだよな)
汗や精液でべとべとになっていたはずだが、腕をさすってみるとすべすべだった。
自分がワインレッドの真新しいバスローブを着ていることに気付く。
(サイズがぴったりだ)
碧が着せてくれたのだろう。よく見ると、碧もお揃いのバスローブを着ていた。
下はどうなっているのだろう。
赤峰はバスローブの裾を捲ってみることにする。見慣れないボクサーパンツを着ていた。こちらもサイズがぴったりだった。
(碧が用意してくれたんだろうな)
シーツも新しいものに取り換えられているようだ。
中出しされたままだと具合が悪くなると、ネットで見たことがある。きっと碧が風呂場で掻き出してくれたのだろう。申し訳ない思いが込み上げてきたが、起きていたら、きっとまた感じてしまっただろうから、それはそれでよかったのかもしれない。
「ありがとうな」
赤峰は碧の寝顔に顔を寄せて、囁くように言った。
タイミングを計ったように、碧が目を開ける。
「へ? ……ひぁっ!」
両手で顔を挟まれたかと思うと、碧の顔が近付いてきた。
「んっ……ん、ふ……」
碧の舌が唇をなぞる。口腔を舐め回され、熱烈なキスをされた。
「ぷはっ……何するんだよ……朝っぱらから」
碧は悪びれずに言う。
「何って、おはようのチュー?」
「そういうのって、普通軽いキスなんじゃないのか?」
昨日の今日でディープキスをされたら、熱い夜のことがまざまざと思い出されて、また求めてしまいそうだった。
碧は唇を突き出した。そんな顔も愛おしいと思う。
「だって、太陽さんのかわいい顔が目の前にあったんだもん。いいでしょ? 減るもんじゃないし、他に誰もいないんだから」
「他に誰もいない」と聞いて、赤峰はおとといの晩から考えていたことを言葉にした。
「なあ、碧。一緒に暮らさないか?」
碧は目をしばたたいた。
「……え?」
赤峰はまっすぐに碧の瞳を見詰めて、真剣に言葉を紡いだ。
「もちろん強制はできないし、いつでも実家に帰ってくれていい。ただ、一人でいるのが寂しい時に、俺のところに帰ってきてほしいんだ。嫌か?」
碧の香色の瞳を涙の膜が覆っていた。溢れ出た涙は、涙の道 をたどり、ゴールである形のよい唇から、シーツへと落ちていく。赤峰はその光景を、純粋に美しいと思った。
碧のすすり泣きが漏れ聞こえる。
「嬉しい。太陽さん、ありがとう。太陽さんは、そこまで俺のことを考えてくれてたんだね」
「当たり前だろ。碧は、俺のパートナーなんだから」
碧は手の甲で涙をぬぐった。
「実を言うと、悩んでたんだ。アメリカの映画会社からオファーが来てて」
予想外の言葉に、赤峰は瞠目した。手を叩いて喜びたかったが、碧が悩んでいたと言うので、声が上擦らないように心掛ける。
「すごいじゃないか! 初めての映画出演が、アメリカ映画なんてかっこいいな! どんな役なんだ?」
やはりテンションが上がってしまっていた。
「脇役なんだけど、けっこう重要な役らしくて、出番も多いみたい」
「チャンスじゃないか!」
赤峰とは正反対に、碧の声は沈んだままだった。
「クランクインはまだ先なんだけど、三ヶ月くらい、向こうで過ごすことになりそうなんだよね」
赤峰ははたと気が付いた。
碧が悩んでいた理由は、これだったのだ。碧は、赤峰と会えなくなることを気にしていたのだ。
強い衝動が、身の底から湧き上がってくる感じがした。碧を応援したい。純然たる気持ちが溢れ出す。
赤峰はもう一度、同じ言葉を繰り返した。
「チャンスじゃないか! 幸運の女神には、前髪しかないって言うだろ。チャンスが来たら、掴めよ!」
赤峰はそこで言葉を切って、声のトーンを抑えた。
「俺にも仕事があるから、会いに行くのは厳しいかもしれない」
かつて女の子のようだった綺麗な少年に、押し倒された記憶がよみがえる。
「けど、俺はいつまでも、碧を待ってるから」
次の瞬間、赤峰は碧の腕の中にいた。後頭部を大事そうに撫でられ、背中にも腕を回される。
碧は、噛み締めるように言う。
「ありがとう、太陽さん。大好き!」
赤峰も碧の背中に腕を回した。
「ああ、俺もだ」
碧は腕をほどくと、机の上に置かれたスマホを手に取った。
「そうと決まれば、さっそく物件探そうよ」
「そこそこの給料もらってるから、2DKくらいなら、なんとか」
それでも、今住んでいる1Kのアパートに比べれば、面積はもちろん、家賃も倍増してしまうだろう。
碧はスマホを操作する手を止める。
「寝室は?」
「……え?」
碧の真意がわからず、赤峰はきょとんとしてしまった。
「それぞれの部屋はもちろんだけど、寝室はいるでしょ? リビングにベッドを置くって手もあるけど。家賃なら俺も出すから、3LDKにしようよ」
当てにしていたわけではないのだが、正直なところ、碧が家賃を出してくれるのなら、助かると思ってしまう。
(ぶっちゃけ、碧のほうが稼いでるだろうし)
「ベッドはダブルがいいな。太陽さんはダブル派? それともツイン派?」
碧が弾んだ声を出す。
「あー……ダブルがいいかな」
ようやく、碧の言わんとしていることが理解できた。
「そうだよね!」
碧は嬉々としてスマホを操作している。
(そうか。そうだよな。まさか碧と一緒に住む新居にまで、俺のボロボロのベッドを運び込むわけないよな)
そこまで考えて、頬が熱くなってきた。
(恋人と一緒に住むのに、寝室のこと考えてなかった俺のほうがどうかしてるのかもな。別寝なわけないだろう!)
「これなんかどう?」
碧がスマホの画面を見せてきた。当然、不動産屋のサイトだ。
赤峰はフリックして全体に目を通した。
「ちょっと駅から遠いかな」
広さは十分だったが、アクセスが今のアパートよりも悪くなってしまう。碧だって大学に通いづらいだろう。
「俺も事務所に行きやすいほうがいいか」
碧は気を悪くせず、次の物件を当たってくれている。
「これはどうかな?」
赤峰はスマホを覗き込む。
「いいんじゃないか? 駅近だし、日当たりもいいみたいだし」
「候補に入れとくよ。他のサイトも見てみるね」
(忙しくなりそうだな)
「これでもう、碧がいつ銀幕デビューしても安心だな」
碧の指が止まる。碧は朗らかな笑みを浮かべていた。
「――うん。俺はもう大丈夫だから、太陽さんも、俺に遠慮しなくていいから、バレーボールを楽しんで」
「ん?」
いきなり話題が変わったため、赤峰は小首をかしげる。
「太陽さんのことだから、自分でもやりたくなってるんじゃないかと思って」
顧問といっても、赤峰はバレーボール経験者だ。コーチも学生時代のチームメイトであるため、意見を求められたり、レシーブの手本を見せてくれと頼まれたりすることはよくあった。
確かに碧の言う通り、なかなか練習試合が組めない時は、仲間を集めて自分たちが相手をしたいと思ったほどだ。
「実は俺、高校に入った後、太陽さんの試合を観る機会があったんだ」
観られていたとは初耳だった。
「いつのことだ?」
「高一の時。インカレ予選の決勝だったかな。回転レシーブ決めたり、リベロなのにトス上げたりして、太陽さん、かっこよかったな」
「改めて言われると照れるなあ」
今頃になって現役時代を褒められるとは思わなかった。
「攻撃にバリエーションがほしかったからな。中学の時にセッターやったことあったから、練習したんだよ」
「海鋒先生と抱き合ってるの見て、嫉妬しちゃったんだよね。俺、あの頃から海鋒先生のこと意識してたみたい」
そう言って碧は苦笑した。と思ったら、愁眉を開いたような顔つきになる。
「俺、太陽さんがバレーボールしてるの見るの、好きなんだよね。太陽さんが楽しそうにバレーボールしてる姿、また俺に見せてよ」
赤峰は碧の穏やかな顔をじっと見詰めた。やがて、力強く頷く。
「わかった。ありがとうな」
明日の部活が終わったら、コーチと一度話してみようと、赤峰は思った。
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