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第3話-2

昨夜は静まり返っていた事件現場は、平日の昼間なのもあり賑わいを見せていた。 事前に鑑識からの連絡で分かったことだがこの辺りは工業地域である故に監視カメラなどはあまり設置されていない。 そうなれば頼りになるのは人の記憶だ。 しらみ潰しにこの辺りの人間を当たるしかないと、 警視庁から走らせてきた車をとある建物の前で止める。 爆発のあった第三藤ビルから最も近くに営業所を構える運送会社。 積荷を下ろそうとトラックから降りた作業員に声をかければ怪訝そうな顔を向けられるも、真宮は動じない。 警察手帳を掲げ話を聞かせて欲しいと告げれば、作業員は扉にかけていた手を離し荷台に背中を預けた。 「聞きたいって言われても……何をだよ」 「昨夜の爆発事件と殺人事件について。それとここ数年……怪しげな車や人間を見ていないですか?」  真宮の言葉に作業員は緩く首を横に振る。 昨日は非番だったからと眉を寄せる作業員は面倒くさそうに息をつくが、相手が警察官という立場上邪険にはしない。 だがいくつか質問をしても良い回答が得られず、どうしようかと考えていれば営業所から一人のドライバーが出てきた。 作業員が呼び寄せたドライバーは停電と通信障害が起こった時間に夜勤でこの営業所にいたのだとか。 真宮達が作業員にした質問をドライバーにも問いかければ、考え込むように唸りゆっくりと口を開いた。 「昨日は特に変わったことは……あ。でも数日前にはこれくらいの時間に高級車を見ましたね」 「……?それはどういう……」 「この辺りは工場地域なので高級車はほとんど通らないんですよ。事件ってこの道の先ですよね?この道を真っ直ぐ行ったんで、もしかしたら……なんて」 考えすぎかもと笑うドライバーに相槌を打ちながら真宮は顎に手を当てる。 確かにこの先には住宅地や歓楽街も無い。 高級車は何故こんな所を走っていたのだろうか。 真宮が手帳を取り出し白い紙の上にすらすらと証言を書き留めていくと、作業員がドライバーにそんなもの証拠にならないと小突く。 だが作業員はドライバーの言葉で何かを思い出したかのか、あっと声を上げ真宮に視線を向けた。 「そういえば……前はよくこの時間黒塗りの大型トラックが通ってたな」 「……!それはいつ頃ですか」 「俺がここ来てからずっとだから……十五年は通ってたな。どれもナンバーはちげえけど真っ黒なトラックで気になってたんだよ、いっつもちんたら運転してて」  夏頃にぱったり見なくなったと呟いた作業員の言葉に真宮は眉根を寄せ、白い紙の上に文字を連ねる。 大型トラックは基本的に企業の社用車のことが多い。 ロゴも会社名も無く黒く塗られたトラック、それに夏以降に突然見かけなくなったというのは少々気になる。 とりあえずはそのトラックを探してみるのがいいか。 証言を全て書き留めると真宮は静かに手帳を閉じ、礼を述べて日野と共にその場から離れようとする。 だが二人の会話を静かに聞いていたドライバーの一言が、真宮達の足を止めた。 「あの、僕これから出るんで高級車の行先なら途中まで案内しますよ!」 「本当ですか、それは有難いです」  是非と呟いた真宮が日野へと視線を向ければ、同じように表情を明るくした日野と視線が合う。 二人は直ぐに車へと乗り込むとドライバーもトラックに乗り込み大きなエンジン音を響かせた。 真宮の車は動き出したドライバーのトラックの後ろへ。 そしてトラックと真宮の車は、道路に出て連なるように走り始めた。 ―――――――――――――― 「まさかそのトラックが大島組のものだったりって……本当にあるんですかね」 「有り得なくは無い、人間っていうのは危険なものには本能的に敏感だからな」 いくら目立つとはいえ、ただのトラックが人の記憶に残るということは何かしら普通とは違う何かを感じ取っていたからだ。 その黒塗りのトラックが特に事件に関係ないのではあれば、それはそれでいい。 だがもしも大島組と関係しているのなら、またこちらの動きを考えなければいけない。 ドライバーのトラックは真宮達が来た方向と同じ道を直進していく。 このまま真っ直ぐ進めば、昨日爆発があった第三藤ビルがある通りだ。 「だけど……なんで昼間の時間帯に走ってたんだろうな」 「え?」  どういうことかと首を傾げる日野に真宮はちらりと窓の外を見る。 活気がないとはいえ昼間の道路は流石に車通りが多い。 もしも何か良からぬことをしているのたら、わざわざこんな時間に目立つ車で動くだろうか。 ただでさえ警察に目をつけられている大島組としてはそれは避けたいはず。 それに首謀者が糸を引いていたとして、素性を頑なに隠し通し続けるPSIMの首謀者らしからぬ行為だ。 拭いきれない違和感に考えを巡らせていれば、ドライバーのトラックは第三藤ビルの前を通り過ぎる。 確認のために声をかけるかと日野が提案するが、真宮は首を横に振ってそのままアクセルを踏み続けた。 ビルに関しては外れだろうが、まだ希望はある。 工業地域を抜けた先には確か大島組の事務所があったはずだ。 だが真宮の願いも虚しく工業地域を抜け赤信号に減速するドライバーのトラックは、右側のサイドライトを点滅させ真宮はううむと唸る。 「彼には悪いが、見当違いだったかもな……」  右折するのなら事務所の線も薄い、このまま離脱した方がいいだろうか。 日野の意見を聞こうと真宮が問いかけてみるが返事は無い。 信号を前に緩やかにブレーキを踏んだ真宮は日野を横目で見るが、日野の視線は窓の外に向いていた。 「どうかしたか?」 「え?あ、いえ……なんでも」  どこか浮かない顔だ。 日野はどこか浮かない顔をしたまま流れゆく景色を見つめている。 微かな気まずさを感じ真宮がラジオを付ければ、どこか知らない国の曲が軽快なメロディーで沈黙を和らげてくれた。  朗らかな笑顔を見せたかと思えば、突然表情を曇らせる。 日野という男はどうにも掴めない。 だが面倒臭いと切り捨てるには、あまりにも日野の表情が悲しげに見えたから、真宮はただ心配を胸に日野の横顔を盗み見るしかできずそのまま車を走らせる。 ラジオから聞こえていた曲が終わりを告げ、曲の説明をするDJの明るい声が車内の空気を空回りする。 すると速度を落としたトラックが路肩に止まり、ドライバーが窓から顔を出した。 「車はそこを左に曲がりました。じゃあ僕はここで」 「あ……ご協力ありがとうございました」  ドライバーは人のいい笑顔で頭を下げて、トラックは真宮達から離れていく。 今のところ収穫はない。 だがここまで来たのなら、いけるところまでいってみようか。 真宮の車はドライバーの言う通りに左折をして道なりに進んでいくも特に変わった様子はない。 まっすぐ車を走らせ続けて、辿り着いたのは県境の小さな街だった。 窓の外を眺めてみても何の変哲もない住宅街。 それにここからでは第三藤ビルや組の事務所からは随分と離れてしまっている。 やはり外れかと思いつつも、調べずに何か見落としがあっても困る。 少しだけ聞き込みでもしてみるかと閑散とした街並みを見回し、真宮は青空駐車場に車を止めた。 「俺達も行くか」 「はい……あ、あの」  助手席から降りた日野はどこか遠い目をして真宮を呼ぶ。 お願いがあると短く呟かれた言葉に日野へ体を向ければ、日野は申し訳なさそうに眉根を寄せ口を開いた。 「聞き込み……二手に分かれては駄目でしょうか」 「え?いや。それは……」 「分かってます、分かってるんですけど」  日野の提案に流石の真宮も難色を示し、日野はそのまま口を閉ざす。 昨夜話したようにPSIMの捜査担当の刑事は二人一組が鉄則だ。 いざという時に日野を守るための決まりなのだと諭すように口にすれば、でもと日野は食い下がる。 「そんなに離れなければ大丈夫ではないでしょうか。それにもしも見当はずれの場所なら二手に分かれて捜査した方がすぐに終わるし」 「まあ……」 「お願いします」 「ううん……」  何故そこまで単独行動に拘るのか。 理由を問う真宮に日野は言葉を詰まらせ、顔を俯かせる。 何か言いたげにはしつつも日野はそれ以上言葉を続けない。 だが意見を曲げる気はないようで、前に腕を組んだ真宮は眉を寄せた。 以前三村に真宮は後輩には甘いと笑われたことがあるが、確かにそうかもしれない。 日野の頑固さには困ったものだと大きく息を吐き、真宮は不安げに手を遊ばせる日野に分かったと言葉をかけた。 表情を明るくする日野に今回だけだと注意をした真宮は胸元の手帳を取り出し、十一桁の数字を殴り書いて切り離す。 何かあれば直ぐに連絡をするように差し出したその紙を、日野は大切そうに受け取りしっかりと頷いた。 「それじゃあ各自いい頃合いでまた合流しよう」 「はい、また後で……」  日野はどこか安心した表情で真宮から離れていく。 大丈夫だとは思いたいが、何事もなく再び合流でしますように。 日野の様子を気にしつつも、真宮もまた日野に背を向け歩きだすのだった。

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