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第5話-3
シャワーを浴び新しいスーツを纏った真宮が戻ってきた警視庁は、予想に反してしんと静まり返っていた。
夜間出入口には警備員すらいない。
不気味なほど人の気配が無い警視庁内に警戒しながら真宮達は捜査室へ歩を進めた。
廊下にも警察官の姿は無かったが、捜査室にすら刑事は一人もおらずがらんとしている。
何故誰もいないのだろう。
不気味な光景に冷や汗が背中に伝うのを感じていれば突然肩を叩かれ、真宮と日野は勢いよく後ろを振り返った。
「……っ斎藤さん……」
「二人とも、ついてきてくれ」
見知った人物の姿にほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。
険しい表情を浮かべる斎藤に二人は困惑しつつも、先に歩き出した斎藤の背中を追った。
三人はいつも使う庁舎から離れ旧庁舎へ。
埃臭い廊下を歩いている間も、斎藤は口を閉ざしたままだ。
一体どこに向かっているのだろう。
ある程度の距離を歩いたところで真宮が問いかけようとした矢先、先に斎藤が前を向いたまま口を開いた。
「真宮、頼んでいたものは?」
「大丈夫です。ですが、もう一人の首謀者は……」
「……分かってる」
覚悟を決めたような声音で呟いた斎藤は、ある扉の前で足を止めた。
今は殆ど使われない小さな資料室。
真宮すら来たことのないそこに真宮と日野は顔を見合わせる。
二度のノックをして斎藤が扉を開ければ、そこには捜査班の刑事が所狭しと集まっていた。
「これは……」
見覚えのある顔ばかりが集まる資料室に足を踏み入れると、斎藤は資料室の鍵を閉めた。
これで全員だと呟いた斎藤の目配せで真宮は静かに携帯を取り出す。
携帯に映し出される首謀者の決定的な証拠。
真のPSIM首謀者の姿に刑事達の表情は曇っていくが、驚愕の声を上げるものはいない。
神崎の笑顔を最後に停止した動画に、皆それぞれ思い思いの表情を見せていた。
「爆弾テロも本当だ、俺はそれを止めるためにお前達を集めた」
「あの、でも……人数足りないみたいっすけど……」
重苦しい空気の中、斎藤の言葉に口を挟んだのは三村だった。
確かに資料室が狭いからか一見すると全員がここにいるかのように見えていたが、よく見てみると集められたのは特殊捜査班の刑事の三分の一ほどだ。
何故刑事を選別したのか、理由を問う三村に斎藤は顔を顰める。
「警察の中に神崎の内通者が大勢いる。ここにいるのは俺が信用できると思ったやつだけだ」
斎藤がそう断言するということは、ここにいる刑事とは安心して行動することができる。
だが数で見れば自分達は圧倒的に不利だ。
それに神崎は警視総監、警察の権力を大いに振るうことの出来る。
それでも斎藤の瞳は諦めてはいない。
そびえ立つ脅威に屈しない強い眼差しで斎藤は言葉を続けた。
「だから……これから勝つためにお前らには三手に分かれて動いてもらう。聞いてくれ」
斎藤の指示はこうだった。
まずA班は斎藤と共に爆弾の回収と現場の指揮。
B班は一般市民の警備と誘導。
そしてC班は首謀者二人の拘束。
簡潔に指示をして、斎藤は刑事達一人一人に視線を向ける。
「どうか俺を……信じて着いてきてほしい」
深々と頭を下げる斎藤の姿に首を横に振る者などいる訳がなかった。
顔を上げた斎藤の前には闘志を燃やした刑事達の姿がある。
ついに待ち望んだ日がやってきたのだ、今更怖気づくなどあり得ない。
皆が同じ思いを胸に大きく頷く、その勇ましい姿に斎藤は唇に弧を描いた。
「……正念場だ、気合入れて行くぞ!」
「おお!」
斎藤の言葉に全員が声を張り上げる。
迷いは無く、ここにいる皆が同じ気持ちの中で一歩を踏み出した。
与えられた責務を真っ当しよう、そして過去の罪と正面から向き合おう。
真宮も自分を鼓舞するように心の内で繰り返していれば、ポケットの中の携帯が振動する。
『あの場所で待ってる』
届いたのは一通のメール。
差出人の名は無い、だが誰からかなんて考えなくとも分かっていた。
あちらも決着を付ける気なのだろう、ならばこちらは誘いに乗るだけだ。
勇み足で資料室から出ようとしたところで、後ろから呼ばれ真宮は足を止める。
聞きたいことがあると言葉を続けた斎藤が横目で日野を見たのを、真宮は見逃さなかった。
「真宮。日野は……お前から見てどんな奴だ?」
「……」
信頼できるか、そんな言葉は使っていないはずなのにそう問われた気がした。
斎藤の後ろでは三村が後輩に指示を出しながらもこちらを気にしているようで、ちらちらと視線を投げかけてくる。
恐らく二人は日野の秘密を知っているのだろう。
真宮は一度目を閉じ大きく深呼吸をする。
そして斎藤の目を真っすぐ見つめ返し口を開いた。
「まだ未熟さを感じる場面もありますが、いざという時には臆せず被疑者に立ち向かい、被害者の心に寄り添うことのできる人間です。立派な刑事だと俺は思います」
真宮の言葉に斎藤は日野へ視線を移すと手招きをした。
近付いてきた日野は緊張した面持ちで斎藤の前に立つ。
体を固くする日野の姿に、それまで険しい表情をしていた斎藤は肩の力を抜くと口元を緩めた。
「真宮に認められるなんて将来有望株だな」
「え……」
「期待してるぞ、日野」
この堅物は頼んだと笑う斎藤に、日野は表情を和らげて頷く。
今回は堅物と揶揄されたことは反論はしないでおいてやろう。
「頑張れよ、二人とも」
肩を叩く斎藤に二人は力強く頷く。
いってきますの言葉を最後に、真宮と日野は資料室を飛び出すのだった。
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