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第6話-1

水溜まりの残る駐車場を駆け抜け、二人は車に乗り込む。 仲間達はもう準備が出来ているようで、二人の到着を今か今かと待ち侘びていた。 乗り込んだ車に赤色灯を付けてエンジンをかける。 ここからが一世一代の大勝負だ。 真宮は大きく深呼吸をして、閉じていた瞼をゆっくりと開ける。 そしてその手は無線を取り、真宮は周りの車達に視線を向けながら口を開いた。 「こちら真宮、首謀者の潜伏場所は把握している。先導するからC班はついてきてくれ」  アクセルを踏めば車は勢いよく走り出す。 真宮達の車に続いて何台ものパトカーが連なり、サイレンを鳴らしながら列を成す。 真宮の隣でカーナビを操作する日野は、ううんと唸りながら顎に手を当てた。 「真宮さん、ここからなら内堀通りが早いですかね」 「ああ、逃亡の危険を考えて、到着次第外から固め……っ」  地図を確認し最短のルートを考えていた矢先、後ろから強い衝撃を感じ体が前のめりになった。 何が起こった、襲撃か。 困惑する日野と共に真宮もまたバッグミラーに視線を向ける。 ミラー越しに映るのは先程までいたはずの仲間のパトカー……ではなく、自分達と同じ赤のランプを光らせる大型車だった。 「特型警備車……?」 「え、と……それって本部の機動隊の車ですよね?どうしてここに……っうわ!」  ガンッと鈍い音と共に車体が大きく揺れる。 攻撃されている。 そう理解して真宮がスピードを上げるが、負けじと警備車は真宮達を追いかけてきた。 神崎側についている警察官達が何か妨害はしてくるだろうと考えてはいたが、予想よりも随分と早い。 一般車両も走る中での無茶な回避は危険だ。 次の一手を考える中、拡声器から聞こえてきたのは資料室にいなかった後輩刑事の声だった。 『今すぐ車を止めてください。指示に従わない場合は威嚇射撃も許可されています』  繰り返しますと丁寧に同じ警告を繰り返してくる後輩刑事の言葉に、一般車両は何か起こったのだろうと少しずつ距離を取っていく。 ある程度一般車両が離れたところでスピードを上げたが、やはり振り払うことは難しいようで真宮もまた拡声器のマイクを取った。 彼らも神崎に弱みを握られているのだろう。 本位でないと理解していても、真宮達もまたここで引くわけにはいかなかった。 「お前達はそれでいいのか?罪の無い人達が大勢死ぬかもしれないんだぞ」 「……」 「人を守りたくて、刑事になったんじゃないのか!」  真宮の叱責に反論の声は無い。 分かっている、権力に逆らうのは難しいことだ。 だが一人一人が一歩を踏み出してくれるだけで事態は大きく変わる。 淡い期待をまだ真宮は捨てきれずにいた。 未だ並走を続ける二台の車の間には沈黙が続く。 一分ほどの沈黙を経てそれを破るようにノイズ音が聞こえると、最初に聞こえてきたのは謝罪の言葉だった。 「……分かってはいるんです。でも俺達にはこうするしかない、もう他に方法は無いんです!」  エンジン音が大きく響き警備車はスピードを上げると、右車線に出て真宮達と並ぶ。 何をする気だ。 嫌な予感にハンドルを切ろうとしたその時、警備車は車体を大きく揺らす。 そしてそのまま反動を付けると、運転席側に突進するように車体をぶつけてきた。 「くっ……!」  再び真宮達の車が大きく揺れ窓ガラスに亀裂が入る。 警備車は更にスピードを上げ真宮達の前に出るとバックドアが開き、武装した機動隊が困惑の表情を浮かべながらもこちらに銃を向けていた。 「危ないっ!」  日野の叫びと共に腕を強く引かれ真宮が体を沈めると、前方から一斉に引き金が引かれる。 放たれた弾丸は車体に傷を付け、サイドミラーを割った。 反動でハンドルを強く切ったせいで、車体がガードレールに擦れる音が大きく響き渡る。 体勢は低く保ったままハンドルを持ち直し、弾丸を逃れるように何とか真宮達は警備車の前へ躍り出ると銃撃が止んだ。 まさかここまでやるとは思わなかったが、あちら側も余裕が無いということだろう。 それにしても姿の見えない仲間は無事なのだろうか。 後ろへの注意は怠らずに真宮がまだかろうじて生きている無線を繋ぐ。 応答を求める真宮の声に少しの間を開けてノイズ音が聞こえると、切羽詰まった様子の刑事達の声が聞こえてきた。 「真宮だ、そっちは大丈夫か!?」 『こちら二号車、警備車に妨害されてルートを外れました……』 『三号車、後ろにいますが警備車に邪魔されて真宮さん達が見えません!』  とりあえず他の刑事達が攻撃をされていないことに安堵しながらも、真宮は後ろの様子を伺う。 恐らくは主導者である真宮を制圧し他刑事達の戦意を削ぐ気なのだろう。 だが、その状況は裏を返せばこちらにも好都合でもある。 「……分かった。ならどちらともそれぞれ違うルートから今送る地図の場所に向かってくれ。警備車は俺達が引き受ける」  了解の言葉と共に無線が切れ、携帯で目的地の地図を送り真宮はハンドルを強く握る。 次に大きな攻撃を受ければ、この車は走ることができなくなる。 相打ちも許されない。 ……自分は何があっても、あの場所に行かなければならないのだから。 そう自分自身に喝を入れ直していたのも束の間、隣に視線を向けると日野の手には拳銃が握られていた。 安全レバーを引いた日野に何をする気だと問いかける間もなく、日野は助手席の扉を開け体を乗り出す。 「……許さない」  聞いたこともないドスの効いた声で呟いた日野は、そのまま警備車に躊躇無く弾を撃ち込んだ。 二回の発砲音、タイヤの擦れる音が甲高く響き警備車が大きく車体を揺らす。 フロントガラスには二つの穴が開き、運転手が恐ろしいものを見る目でこちらを見つめているのがサイドミラー越しに見えた。 「チッやっぱりフロントガラスは固いか」 「お、お前……よりによって頭を狙うな……」 「だって真宮さんを殺そうとしたんですよ?」  強固なガラスの壁がなければ運転手の額には風穴が空いていた。 威嚇だから大丈夫なんて飄々と告げる日野の素晴らしい射撃力に、感心と恐怖を抱きながら制止をかければ日野は渋々拳銃を下ろした。 悠長にはしていられない。 今は凌げてもこの先別の警備車が待ち構えている可能性もあると、真宮は深呼吸して四方を確認する。  一般車両は無し、あと数百メートル先で右折。 今なら行ける、真宮はシートベルトを外しレバーを引くとシートを倒す。 そして前は向いたまま、真宮は日野の名を呼んだ。 「日野。シートベルト外して運転変われ」 「分かりました……ってどうやって交代するんですか!?」 「こう、するんだ……っ!」  真宮が右折に合わせてハンドルを大きく切ると車も右に傾く。 真宮は日野の肩を掴み、運転席側に日野を強く引き寄せた。 意図を理解した日野はそのまま運転席に移り真宮が空いた助手席に滑り込めば、見事に二人の位置は入れ替わり真宮は助手席の窓を開ける。 「バックミラー越しに見ておけ。止めるのは息の根じゃなく相手の動きだ」  目を細め、取り出した拳銃を構える。 狙うは四か所、車体の下。 決して焦らず時を待つ、まだだ、もう少し。 そのときだった、拳銃を構えたまま動かない真宮に警戒した警備車は横へハンドルを切る。 引っ掛かった、真宮は口角を上げると四度連続で引き金を引く。 弾は上下左右のタイヤを貫き、警備車は激しい音を立てて止まった。 「……よし、うまくいったな」 遠くなっていく警備車は、中から機動隊と刑事達が続々と出てくるのが見える。 乗り込んでいた警察官達に大きな怪我は無さそうだ。 拳銃を仕舞い込みやっと肩の力を抜くと、隣で真宮の手腕を見せつけられた日野はわなわなと体を震わせた。 「か、かっこいい〜……」 「そうだろ?」  尊敬の眼差しを向けられ真宮は口角を上げる。 披露する場がこんなところに用意されているとは思わなかったが、実は射撃は警視庁一の腕前だ。 真宮が鼻を鳴らしていれば、日野は何かに気がついたのかバックミラーに視線を移す。 すぐ後ろには別の警備車が真宮達を追いかけるように走ってきていた。 「日野、運転は任せたぞ」 「はい!」  弾を補充し窓を開けると、真宮は後ろの様子を伺う。 そんな中携帯が振動し真宮は後ろから注意を逸らさないまま通話ボタンを押すと、携帯から焦る三村の声が聞こえてきた。

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