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第6話-2

「真宮さん達!今どこ走ってます!?」 『内堀通りを抜けたところだ』 「まじすか……その先やばいっす、大渋滞!」  ネットやマスコミからの誤情報で、混乱した市民が逃げようと押し寄せて渋滞を起こしている。 焦りを隠せないまま報告すれば、真宮はそうかと険しい声音で相槌を打った。 B班の他の刑事からの連絡によれば、向こう十キロ先まで渋滞が起きているらしい。 ここにはまってしまえば最後、抜け出すことは容易では無い。 どうするのかと判断を仰げば、ううんと唸る真宮の後ろから耳を劈くような轟音が聞こえた。 「あとどのくらいでこっち通りますか!?」 『あと十五分くらいだ、どうにかしてくれ』 「どうにかって……とりあえず頑張りますけど……ていうかさっきから銃声みたいなの聞こえるんすけど!大丈夫なんですかって……切れた」  ああもう、思わず独り言を呟き三村は頭を掻く。 真宮もまた大変な状況なのだろう。 いつまでもバディ気分で頼るのはいけないと自らを叱咤して三村は周囲を見回す。 ここ最近の情勢からの不安と、解消されない渋滞に市民も苛つき始めていた。 周辺を警戒していたB班の刑事達が市民に掴みかかられ、他の刑事が止めに入れば市民が野次を飛ばす負の連鎖が出来上がってしまっている。 阿鼻叫喚とはこのことかと溜息をついて、三村は指示を待つ後輩を連れて物陰に身を潜めた。 「聞いて、あと十五分で真宮さん達来るって」 「あ、あと十五分!?無理ですよお……」 当然の反応だとううんと唸る三村は頭に手を当てる。 真宮達が足止めを食らったら計画は破綻してしまう。 自分がこの状況を打破しなければと頭を悩ませていれば、何やら周囲が一層騒がしくなった。 どうやら先程まで刑事に掴みかかっていた市民が刑事を殴ってしまったらしい。 おろおろと狼狽える後輩を見て、三村は意を決し立ち上がると早足で混乱の中心に割り込んだ。 「おい、なんだよてめえ!」 「ここの最高責任者です」  さらりと嘘をついて負傷した刑事に離れるよう促せば、標的はいとも簡単に三村へとすり替わった。 不満を募らせた市民達に囲まれれば、あっという間に三村に逃げ場は無くなる。 一人を囲み暴言を浴びせる市民達とその中心で言葉の暴力を受け続ける自分の姿は、傍から見れば魔女狩りのように見えるのだろう。 仕方ないとはいえ厄介な役目だとまるで他人事のように思っていたその時、目の前の中年の男が三村に掴みかからんばかりの勢いで身を乗り出した。 「何とかしろ!俺らを守るのが仕事だろ!」 「国民が死んでもいいのか、人でなし!」  口々に浴びせられる暴言を聞き流し三村は周りを観察する。 車内から向けられる哀れみと同情の眼差しと、こちらに向けられた携帯。 ……これは使えるかもしれない。 閃いた三村は誰にも気づかれぬほど小さく口角を上げ、大きく息を吸う。 すみませんと声を張り上げた声は、騒然としていたその場をたちまち静まらせた。 「申し訳ないです、誤情報が流れているみたいで!事実無根だっていうのに……!」 「はあ?テロが起こるんだろ!?」 「ネットに出てたじゃない!」  予想外の言葉に市民はざわつき、不満の声は少しの困惑を滲ませていた。 市民からの反論に、三村はあの手この手で否定を繰り返す。 こちらに向けられる携帯の数が少しずつ増えていくのを感じ、次の手だと言わんばかりに三村は更に嘘を重ねた。 「爆弾は足がつきやすいです。日本は輸入検査が超厳しいので爆破テロなんて無理ですよ!あれはたちの悪い悪戯です」  三村の言葉に身を乗り出していた男がぐ、と押し黙る。 よくもまあすらすらと嘘が出てくるものだ。 軽やかな自身の口に感心さえ覚える三村は目を細める。 現場の最高責任者のはっきりとした否定。 それが全て偽りだとしても、不安を感じている人間は信じたいと思う言葉を信じる。 それが人間の深層心理。 心の中でほくそ笑む三村の思惑通り市民は三村の言葉を少しずつ信じ始めているようで反論の声は小さくなっていった。 「ちなみに水道局からの通達で水道管の老朽化が原因で急遽この先で工事が入るらしく……ここら一体は浸水する可能性があります。皆さん濡れちゃいますよ!ほらお兄さんも」 「え?」 「その外国車……今冬モデルでしょ?まずいんじゃないですか?」 「え!?」  近くで三村の話に耳を傾けていた若い男に話を振ると、若い男は慌てて車に乗り込む。 近くの刑事に目配せをすれば刑事もまた、三村の思惑を察したらしい。 即座に誘導棒を光らせ車列の横に立つと、動き始めた車を誘導し始めた。 「そういう訳であの声明の詳細は警察の偉い人が後々会見で話をしてくれるので、帰宅して確認してください!」  話を締めるように頭を下げると向けられていた携帯は次々に下げられ、皆が携帯の画面へ視線を落とす。 その隙にその場から離れた三村が物陰に身を潜めると、自分の携帯を取り出し人知れずほくそ笑んだ。 このネット社会、最も早く情報が拡散されるのはSNSでの情報だ。 確認してみれば狙い通り、三村と市民のやりとりは様々なSNSで瞬く間に拡散されていた。 「よっし……!」  これで一時的にだが道は開けた。 後は警視庁がうまく纏めてくれれば、市民は作られた真実を完全に信じるだろう。 動画が拡散されるごとにあれほど長く続いていた渋滞は緩やかに解消していく。 約束の時間まではあと三十秒。 画面に表示された時間を確認すると遠くからクラクションが聞こえてくる。 けたたましいサイレンとクラクションを引き連れてやってきたのは、自分もよく助手席に乗っていた車とそれを追尾する警備車二台。 窓から体を乗り出すかつての相棒は銃を構え、警備車のタイヤを打ち抜き追撃を阻止していた。 「す、すごすぎる……」  神業とも言えるそれに、真宮は相変わらずだと肩を竦めた三村は頬を緩める。 いつも優秀で、冷静で、そして少し変わり者。 でもそんな真宮は本当は誰にでも優しく素晴らしい刑事だと自分は十分に知っている。 自分があの人の隣にいられないことに寂しさは感じても、恐らくこれから刑事を続けていく中で変わらず真宮は自分にとって憧れの存在なのだろう。 『真宮さんを頼んだよ』 その隣でハンドルを握る真宮の新しい相棒に三村が胸の内でそう呟いた瞬間、携帯が静かに振動した。

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