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第22話 夜会での真実
「ん~~~よく寝た……」
昨夜殿下と王宮へやってきた俺は、王宮内の離れにある”貴人の間”の一室を与えられ、そこで寝泊りしながら秘書として働く事が決まった。
それよりも驚いたのが王宮への出入りの仕方だった。
古くから王城や王宮には地下通路があるというのはレイラ様との勉強で知っていたけれど、我がアンドロス王国の王宮にも存在していて、そこを使っていたのだ。
「本当に昨日だけで凄い冒険した気がする……」
誰もいない部屋で独り言を呟く。
俺に国家機密事項のように思える地下通路の情報を教えても大丈夫だったのだろうか……それほど信用してくれているという事なのだろうけど。
ひとまず今日は殿下の執務室へ顔を出し、簡単な仕事内容を教えてもらうだけなので、本格的なお勤めは明日から開始するらしい。
成人しているとは言え、クロード様の家族でもあるので一応ご主人様にも連絡がいくと言われた。
明日王宮で対面するけれど……どんな反応をされるだろうかと思うとお腹の真ん中辺りがギュッとする。
でも侯爵家の方達にとって迷惑な存在になりたくはないから、ここで頑張るんだ。
ちゃんと独り立ちする。
胸に決意を新たに殿下の執務室へと向かった。
~・~・~・~・~
——コンコン——
「フレデリックです」
「入れ」
殿下の許可が下りたので両開きの扉を開くと、執務机で忙しなく書類に目を通す殿下の姿を確認する。
やはり忙しいお方なんだな。
今日のお勤めは少しでいいのだろうか。
そう思いながら近付いていくと、こちらに顔を向けて柔らかく微笑んでくださった。
「待っていた。 昨夜はよく眠れたか?」
「はい! あのような素晴らしい部屋を用意していただき、感謝いたします」
「堅苦しく話す必要はない。 クロードの家族はもう友人と同じなのだから」
「ありがとうございます」
今日は夜会で会った時のようなブルーグレーの髪を整えていて王太子殿下の見た目だ……改めてジッと見つめてしまい、俺の視線に気づいた殿下が表情を崩す。
「どうした、今日はカツラを被っていないと思ったか?」
「え、あの……はい」
「ははっ、分かりやすいヤツだ。 あの姿で出かけるのは20日に一回くらいだと言っただろう」
「そうなんですけど……全然印象が違うなって」
それに俺は昨夜の事で聞きたい事があったのだ。
俺の部屋を案内している時にすれ違った人物について——。
「殿下。 あの……」
「バラデイン公爵のことか?」
やはり気付いておられた——。
昨夜、殿下と会話しながら王宮内の廊下を歩いていると向かいから足音が聞こえてきて、暗がりの中から姿を現した人物はひと際大柄な貴族男性だった。
燃えるような赤い髪は絶対に忘れられないほど鮮やかで、それでいて表情はいたって穏やかな素敵なおじ様貴族といった見た目……その人が誰だか理解するのに、さほど時間はかからなかった。
『これはこれはエルンシュカ王太子殿下ではありませんか! このような夜更けに廊下で小姓を連れてお歩きとは……よからぬ噂が立ちましょうぞ』
俺は一瞬何を言われたのか分からず固まってしまう。
殿下の方をチラリと見てみると、表情は笑っているのに空気がとても冷たい感じがヒシヒシと伝わってくる。
『バラデイン公爵か。 彼は小姓などではない、クロードのところのフレデリックだ』
バラデイン公爵……クロード様の婚約者候補であるご令嬢の御父上——。
ご主人様は政治的な意味でも公爵令嬢と会わなくてはならないと言っていたのだから、失礼のないようにしなくては……!
『は、初めまして。 フレデリックと申しま……』
『気安く私に声をかけるでない、薄汚い愛人風情が』
『…………っ』
挨拶をしようとした瞬間、公爵の顔は憎しみを込めて歪み、吐き捨てるかのような言葉をぶつけられる。
『お前の事は知っている。 我が国では珍しい黒髪に青い瞳……孤児で卑しい身分だったと聞くが体でも売ってノンマルディー侯爵に取り入ったのか?』
公爵の目は明らかに侮蔑を込めていて、俺を汚い者だと言い切った。
もしかしてここにはそういう目で見ている人が沢山いるのだろうか……そう思うと途端に体が震えてくる。
なぜ公爵が俺を知っているのか分からないけれど、ご主人様の名誉の為にもここはちゃんと否定しておかなくては。
『違います! 私の事はどう言われても構いませんが、クロード様はそのような事はなさいません……私を保護してくださっただけです!』
『バラデイン公爵、フレデリックは私の秘書として住み込みで働くことになる。 そのような物言いは控えてもらおう』
『住み込み……では侯爵邸を出たということですな。 それはいい! お前のような者にノンマルディー侯爵の周りをウロチョロしてもらっては困る。 これで我が娘と侯爵の婚約も進めやすくなるというもの……二度と侯爵邸に戻ることのないように。 分かったな』
クロード様と公爵令嬢の婚約……自分への侮蔑の言葉よりもそっちの方にショックを受けている自分がいる。
でも侯爵家の為にも良い婚約話だろうし、ご主人様の為にはこの方が良かったのかもしれない。
胸がとても痛むけれど、グッと堪えて笑顔を張り付けた。
『もちろんです。 クロード様にご迷惑をおかけするのは本意ではありませんので』
『ふん。 殿下もこの泥棒猫に取り入られないようにお気を付けください。 努々信用なさらぬよう……それでは』
殿下が言葉を発する前にバラデイン公爵はそのまま歩いて行ってしまったのだった。
凄く怖かったのもあったけれど、それ以上に自分がご主人様の人生にとって汚点になっているかもしれない事がショックだった。
邸から出た事がなかったから、自分がどんな風に思われているのかも知らず——。
『体を売って愛人の座を手に入れた泥棒猫』
バラデイン公爵は明らかにそう言い放ったのだ。
クロード様の下で呑気に暮らしていた事を心底後悔した瞬間だった……自分は泥棒猫でも何でもいい。
でもクロード様が愛人を囲っていると思われるのは耐えられない。
侯爵邸を出て正解だったのかもしれない……昨夜の出来事を思い出し、色々と考え過ぎて言葉が出てこない俺に、殿下はお優しい言葉をかけてくださった。
「心配するな、お前の存在を知っている者は少ないし、クロードの事を悪く言う者もいない。 自分の娘がクロードに惚れこんでいるからお前の存在が目障りなのだろう」
「やはりご令嬢がクロード様を……?」
「ああ、あまりにも顔合わせさせろとうるさいので、この前の夜会でセッティングしただけだ」
「そうなのですか」
殿下はその後も色々と話してくださった……バラデイン公爵は貴族からの信頼も厚く、敵に回すと厄介らしい。
そして密かに噂される黒い噂。
違法薬物売買への関与だ。
貴族に蔓延していきているのを嗅ぎ付けた陛下が、殿下やクロード様に身辺を探るように指示されていて、近付く為に今回の婚約話が上がったという事だった。
「お前には辛い想いをさせてしまったな」
「いえ、そんなことは……」
その事がキッカケかは分からないけれど、夜会の後にクロード様に思い切り抱かれたとは言えない。
あの夜の事を思い出すと今でも顔が熱くなってくる——。
結局俺はどう頑張ってもご主人様が大好きなんだなぁ。
「その様子ではクロードにお仕置きは無理だな」
「え、あ……ははっ」
俺が何を想っていたのか、全部見透かされていたとは。
そんな話をしながら殿下と笑い合っていると、突如勢いよく扉が開け放たれ————そこには一番大好きな人が息を切らして立っていたのだった。
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