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第23話 ※大人なお付き合いとは

   「リック!!」  突如扉が開かれ、クロード様が執務室へ飛び込んでくる。  そして俺の姿を捉えると、恐る恐る近づいてきた。  「クロード様……どうして……」  「無事でよかったぁ……」  よく見ると髪は乱れ、衣服も着の身着のままといった感じで慌てて来たのが分かる。  そしてクロード様の腕が俺を捉えようとした瞬間、殿下に腕を引かれ、俺の体は殿下の腕の中におさまってしまったのだった。  「殿下?!」  何が起こったのか分からず声を上げる俺の耳元で、エルンシュカ殿下が声を潜めて囁く。  (シッ。 クロードにひと泡吹かせるチャンスだぞ)  (ええ?!)  どうしてこの状況がクロード様を驚かせるチャンスなのだろう?  混乱する俺を余所に、殿下とクロード様が会話をし始めた。    「よく来たなと言いたいところだがクロード、早すぎだ。 明日だと言っただろう?」  「……王太子殿下におかれましては、リックの無事を知らせていただき感謝いたします。 明日まで待てなかったので今日来ました」  「それが感謝の顔か?」  殿下はクロード様の様子に笑いを堪えるような表情をしている。  チラリと表情を窺うと、口は笑っているのに眉間にシワが寄っていて、お世辞にも喜んでいる顔ではなかった。    「殿下、これはどういう状況なのかご説明ください」  「どうもこうも、見たままだ。 フレデリックはなかなかに真面目だな、クロードよ」  「はい。 彼はとても素晴らしい人間です」  慕っている人からの嬉しい言葉に、胸が苦しくなる。  俺の存在は彼に、そして侯爵家の人たちを困らせてしまうだけなのに。  大好きな人に、これ以上は迷惑を掛けたくない……迷惑だと思われたくない。  「クロード様、私は殿下の秘書としてここで働く事になりました」  「な、なぜ……突然邸を出たと思ったら、殿下の秘書?!」  「はっはっはっ! お前は本当にフレデリックの事になると面白いな!」  「殿下、お戯れが過ぎます!!」  「何か問題でもあるのか? フレデリックはもう成人している。 一人の人間として自立してもいい年齢だ。 お前が保護者代わりだったのだから、一応知らせておかなくてはと思って知らせたが」  殿下は完全に面白がっているのか笑いが止まらないといった状況だった。  でも顔を近付けるのは止めてほしい……美しい顔の人って何人も存在するものなの?  殿下もクロード様も見目が麗し過ぎて、近付かれると落ち着かないし心臓に悪いのだ。  腰が引けてしまう俺の事などお構いなしに殿下の頬が俺の頬に触れ、自然と背中をのけ反らせてしまう。  クロード様はこちらを睨み付けているし、どうしたら……焦っている俺に助け船を出してくれたのはご主人様だった。     「……殿下のお心遣い感謝いたしますが、早急にその御手をお放しください」  「嫌だと言ったら?」  「決闘を申し込みます」  「覚悟の上でか?」  「もちろんです」    どうしよう、クロード様と殿下の空気があまりにも良くない感じがする。  決闘だなんて言葉がご主人様の口から出てくるとは思わなかった。  エルンシュカ殿下はご自分の主なのに……!  (殿下、もう大丈夫です……!)  (フレデリック、クロードのあの顔を見ろ。 お前を取られそうで焦る男の顔だ)  (そんなわけ……)  殿下に言われるがまま再度ご主人様の表情を見ると、今にも王太子殿下に噛みつきそうな顔をしている。  嫉妬だと思いたいけれど……何となくこれって、お気に入りのオモチャを取られたような感じに見えてしまう。  それでも————  「リック、おいで」  「……はい」  ひとたびクロード様に呼ばれれば、たちまち体も心も喜んでしまう。  ふいに殿下の腕の力が緩んだのでスルリと抜け出し、ご主人様の方へ向かってしまう自分がいた。  そして大好きな腕に引き寄せられ、愛する人の匂いに包まれれば、今までの憂いも何もかも吹き飛んでしまったのだった。  「本当に無事で良かった……」  「クロード様……」    俺を抱き締めるご主人様の腕に力がこもる。  触れられる箇所が熱い——色々話したいけれど、上手く言葉が出てこない。  そんな俺を見兼ねたのか、殿下が昨夜の経緯をクロード様に話してくれて、ありがたい言葉を言ってくださった。    「二人とも、積もる話もあるだろう……特にクロードの方は」  「もちろんです」  「フッ。 邪魔者は退出するのでな、二人でよく話し合え」  俺の頭にポンと手を乗せ、ウィンクする殿下。    「あ、ありがとうございます!」  色々と配慮していただいたので感謝を述べると、殿下は手をひらひらと振って出て行ったのだった。  ここは殿下の執務室だから出て行くべきなのは俺とクロード様の方なのに……悪戯心好きだけど、凄く優しいお方だ。  きっと殿下の想い人の方も彼を大好きに違いない。  そして室内にご主人様と二人きりになってしまった俺は、昨日からの出来事もあってとても気まずくて、クロード様の顔を見ることが出来ない。  皆に挨拶をせずに邸を出た事を怒っていないのだろうか……胸に顔を埋めてご主人様の服を握り締める。  拾ってくれたご恩をお返ししたいと頑張ったけれど、俺が出来る事といったら邸を出る事しかなかった。  「ごめんなさい、クロード様。 挨拶もなしに邸を出て……俺はここで頑張りたいと思っています。 皆様にご迷惑はおかけしませんので」  「迷惑なんかじゃ……!」  「いいんです。 皆の優しさに甘えてしまっていた俺が悪いんです。 殿下にお仕事もいただける事になりましたし、自立出来るように頑張りたいんです」    クロード様の方へ向き合うと、ご主人様の表情はとても複雑そうだった。  どうしたら喜んでもらえるだろうか?  「君はもう私に保護されているような子供じゃなくなっていたんだね。 いつまでも子ども扱いしていて、すまない」  「そんな事ありません! 私は嬉しかったですし、クロード様は何も悪くありません!」  「それなら君も悪くはないよ。 君がそこまで自立したいなら……それを応援しなきゃね…………寂しいけど」  穏やかに、そして少し切なそうに見えるのは俺の願望だろうか?  柔らかく微笑むご主人様はとても綺麗で、思わず見惚れた。  やっぱり近くにいたら離れがたくなっちゃうなぁ。    『クロード様が好きです』    そう言えたらいいのに。  「クロード様、ありがとうございます」  今の俺はお礼を言うので精いっぱい。  少し前までこの匂いに包まれ、彼の腕の中で可愛がられて口付けの嵐だったのを思い出す。  子供のように甘やかされ、保護されていればいい年齢ならこんな邪な気持ちに悩まずにすんだのに――。  唇を見つめていると、なんだか無性にキスがしたくなってなってしまう……こんな事ばかり考えてちゃダメだ。  くっついていたらまたご主人様が欲しくなっちゃうから、と体をはなそうとした瞬間。  クロード様の唇が俺の唇を塞いだ。  「んんっ」  「……リック、君が大人になりたいのなら、私も大人として接しようと思ってるよ」  「それってどういう……」  「こういう事」  突如クロード様の親指が口内に入ってきて、自然と口が開き、舌がむき出しになってしまう。  そして彼の唇がゆっくりと近づいてきて、俺の舌を食んだ。  吸い付いたり、舌を絡めたり、歯列をなぞってきたり……唇を閉じられないので、彼のなすがままだった。  「はぁ…………んぁ……」  「顔が蕩けてるよ」  「ひょんなふぁと(そんなこと)……」  ふいに外された親指はそのまま耳の穴へと沈められ、弱い部分をグリグリと刺激されてしまう。  「はぁ……ぁあっ……」  「ほら、大人なんだから声、我慢しないと」  大好きな声が俺を試すように耳元で囁いてくる。  頭が痺れていく……クロード様……だめ、このままじゃもっと触ってほしくなっちゃう——。  いつの間にか彼の手が布越しだけど後ろを触っていて、散々抱かれた夜を思い出して腰が揺れてしまっていた。  「やらしいなぁ」  「クロードさまぁ」  「ふふっ、可愛い。 でも今日は何もしないで帰るよ」  「ふぇ?」  頬にちゅっとキスを落としたご主人様は、満面の笑みをしていた。  「殿下のもとで働くのだから、これから沢山会う事が出来るしね」  「………………」  「リックと大人なお付き合い、楽しみだな」  「俺は仕事を頑張りたいんです!」  なけなしの理性を総動員して宣言する。  でもクロード様は余裕の表情で「当然だよ、私もそのつもりだし。 何を想像していたの?」と言い放った。  「うぅ……意地悪です」  「ごめんごめん。 君が可愛くて仕方ないんだ。 それだけは分かって」  ズルい、せっかく自立しようとしているのにそんな事を言うなんて。  そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、これからご主人様によって「大人としての付き合い」と言いながら、どんどん体を暴かれていく事になるとは予想もしていなかったのだった。    

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