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第32話 王太子殿下の大切な人 1

 すっかり寝坊してしまい、着の身着のまま部屋を飛び出し、王太子殿下の執務室へと駆けて行く。  昨夜はクロード様が来て、色々あって……朝方に眠ったので全く早く起きる事が出来なかったのだ。  それなのにご主人様は「もう少しいいじゃないか~」なんて言うので、容赦なく置いてきたのだけど。  物凄いブーイングが聞こえてきたのを全力でスルーし、殿下の執務室へと出勤したのだった。  ようやく執務室の扉が見えて来た!  どうやって言い訳をしようと考えていると、その扉が突然開かれる。  「?!」  そこから出てきたのは、とてつもない美青年――――  サラサラの髪を肩で切り揃え、少し色素の薄い髪色……美しい白い肌にこの世の人間とは思えない。  まるで妖精のようだ。  どこからどう見ても高貴な身分なのだろうなと分かる見た目……でも目には涙が浮かんでいて、とても悲しい表情をしながら俯いている。  そしてその青年は俺に気付かずに俯きながら走ってきて、避け切れずに少しぶつかってしまう。  「っ!」    「ご、ごめんなさい!」  咄嗟に謝ったけれど、青年は微動だにせず下を向いたままだ。  大丈夫かな。どこか痛むのだろうか。  そう思っていたら、  「気を付けてよね!!」  突如大きな声で怒鳴られてしまい、その目は敵意に満ちていた。  どうしてそんな目を向けられるのか訳が分からなかったけれど、とにかく不快にさせた事を謝らなければ。  「ごめんなさい!」  「ふんっ!」  青年はそれ以上何も言わず、また足早にその場を去っていった。  良かった……これ以上絡まれたらどうしようかと。  でも――――  「なんだったんだろう?」  あの目は不快だとかそんな事だけではなく、傷ついた目だった。  俺とぶつかっただけであんな目をするとは思えない。  この中にいるお方、王太子殿下と何か話して傷ついていると考えるのが自然だ。  でも不躾に何かあったのですか?なんて聞けるはずもないし……今夜にでもクロード様に聞いてみよう。  恐らく特徴を言えば誰なのか、ご主人様なら分かるだろうから。    「は! しまった、お仕事しなきゃ!」  我に返り、執務室の扉をノックする。  ――コンコン――  「フレデリックです!」  「入れ」  「遅くなって申し訳ございません!!」  扉を開き、バタバタと殿下のもとへ駆け寄った。    「はははっ、昨夜は眠れなかったのではないか? クロードが来たのだろう?」  「~~~っ!」  全部バレてる…………何をしていたのかもバレていて、もの凄く恥ずかしい……!  「も、申し訳ございません……」  「謝ることはない。 愛し合う者同士なのだから」  「で、で、殿下はいつから気付いて……」  「クロードの気持ちはずっと前から知っていたし、フレデリックは初めからバレバレだったな」  「そ、そうなのですか……」  「むしろあれで分からない者などいまい」  「そ、そうなのですね…………」  もう穴があったら入りたい。  もしかしたらクロード様にもかなり前からバレていたのでは?  まさか俺が気持ちを言うまで焦らされていたのでは……なんて思ってしまう。  それにしても殿下は全くいつも通りで、あの青年と何かあったとは思えない様子だ。  「愛し合う、か。 羨ましい限りだ」  「……殿下?」  「そろそろ仕事をしようか」  「は、はい! そうですねっ」  殿下が何かを言いかけていたけれど、強制的に仕事の話に切り替わってしまう。  やっぱり聞かれたくない事なのかもしれない。  俺は夜にクロード様に聞くまで待つ事にして、日中は仕事に勤しむ事にした。    でも昼過ぎくらいから、何か調子が悪いのか殿下の様子がおかしい。  そしてそれに気付いた時にはかなり体調が悪化していて、仕事どころではなくなっていった。

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