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第34話 リヴィエール殿下
リヴィエール殿下は今にも泣いてしまいそうな表情で立ちつくしていた。
そして堰を切ったように殿下に向かって駆けよろうとしたけれど、クロード様がそれを止めてしまう。
「殿下、今はお控えください」
「離せ、クロード」
「しかし殿下までうつってしまいます!」
「構わない!」
そうか、原因が分かっていないから殿下にうつっては大変なんだ。
王太子殿下の大切な人だから、殿下もリヴィエール殿下にうつしたくはないはず。
そう思い、俺も王子殿下にお声をかけた。
「殿下、王太子殿下がご心配されますので、ご自身のお体をご自愛ください」
そう言った瞬間、リヴィエール殿下は怒りの表情を向けてくる。
「うるさい! お前に何が分かる! 僕に指図するな!!」
「も、申し訳ございません……!」
「リヴィエール!!」
俺の後ろから王太子殿下が声を張り上げた。
恐る恐る振り返ると、先ほどまでの穏やかな表情は影を潜め、極めて厳しい表情でこちらを見据えている。
俺ですら怖いと思うのだから、弟君は……やはり青ざめている。
「リヴィエール、フレデリックは私の秘書だと何度も申したはずだ。 無礼な口をきくのは許さない」
「しかし兄上……!」
「この件でお前と話す事はない。 それに私に近付く事も許さぬ。 この部屋から出るのだ」
「…………イヤです」
「クロード、連れて行け」
「兄上!!」
「殿下、ご無礼を失礼します」
クロード様は弟君を軽々と抱きかかえた。
「クロード、離せ!」
「王太子殿下のご命令です。 じっとしていてください」
「離せ~~~! 兄上!!」
そのまま部屋の外へ連れて行かれ、リヴィエール殿下の声は徐々に小さくなっていった。
多分クロード様が遠くへ連れて行ったのだろう。
俺は話の流れが分かっていたものの、愛する人が違う人を抱きかかえているのを見るのは……他の人を触っているのを見るのは嫌だ。
でも俺よりも王太子殿下の方がもっと苦しいはず。
愛する人を追い出すなんて、したくないはずだ。
殿下の方へ視線を移すと、憂いを帯びた瞳はリヴィエール殿下が去った扉を見つめていた。
「殿下」
「…………フレデリック、すまなかったな。 リヴィエールが失礼な事を言った。 弟に代わって詫びよう」
「そんな事はいいのです」
俺はすっかり肩を落としている殿下がとても切なく見えて、ベッドサイドに屈んだ。
背中にそっと手を添える。
「殿下、まだ熱がおありですから、お休みしましょう」
「……お前は優しいな」
「私の上司ですし、元気になっていただかなくては困ります」
「フッ。 言うではないか」
「ふふっ」
殿下をベッドへ寝かせ、また冷やした布を額に乗せる。
瞳が潤んでいるのは熱のせいだろうな……自分もお辛いのに。
弟君への態度は驚いたけれど、あれはリヴィエール殿下の事を一番に考えて、あのような態度を取ったに違いない。
彼を悪者にしたくなかったんだ。
「きっと殿下の気持ちをリヴィエール殿下も分かってくださいますよ」
「お前も分かってしまったか」
「はい。 きっと気付いていないのはリヴィエール殿下だけだと思います」
「だからお前とリヴィエールは似ていると言ったのだ。 そういうところがな」
「は! 確かに……自分の事は分からないものですね」
「……そうだな」
少し熱が上がってきたのだろうか……息遣いが苦しそうだ。
これ以上悪化する前に眠った方が良いと思った俺は、そろそろ部屋をおいとましようと立ち上がる。
しかし殿下は俺の腕を掴み、グッと引き寄せた。
「殿下……?」
「まだ、行かないでくれ……寝入るまで、少しこのままで…………」
俺の手を握りながら懇願してくる。
その手があまりにも頼りなくて切なく見えて、振り払う事が出来なかった。
体調が悪い時は誰でも心細いものだ。
俺は安心させる為に、殿下の手をそっと握り返す。
「殿下、私はここにおります。 安心して眠ってください」
「フレデリック……ありが、とう…………」
その言葉を最後に、殿下は眠りに落ちていった。
よほど疲れが溜まっていたのだろうか……見た目だけだと屈強な肉体に見える殿下が、このように熱でお倒れになるなんて。
きっと弟君の事も――――
なんとかしてあげたいという気持ちもあるけれど、他者が2人の間に入ると拗れる可能性もある。
俺もクロード様と拗れに拗れたから。
きっと王太子殿下がこんなに政務を頑張るのも全部リヴィエール殿下の為……酒場で言っていた事を思い出す。
『俺にはこの世の何よりも大切な人がいる。 ちょっと特殊な人で……その人が生きやすい国にしたいという気持ちがあってな。 それは俺にしか出来ない事だから……こうして皆の声に耳を傾け、まずは良い国を造りたいと思っているのだ』
あの時も今も、王太子殿下のその意志は変わらない。
殿下の気持ちが少しでも弟君に伝わって、お二人が結ばれる日がきてほしい。
兄弟だから難しいと分かっていても……結局その後、殿下の様子を見守っていたら眠くなってしまい、気付いたら自分もベッドに突っ伏して眠ってしまっていたのだった。
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