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第39話 私の愛しい人 3 ~クロードSide~

 その日はお昼を過ぎたあたりから城が騒がしくなる。  王太子殿下が熱を出したというのだ。  ちょうど調べものをしていて、資料室で資料を読み漁っていた時にその知らせが舞い込んできた。  私はすぐに手を止め、殿下の寝室へと駆けていった。  恐らくそこにリックもいるのだろうと予測して。  仕事中だというのに、彼の姿を見られるというだけで嬉しくなる。  扉を開けると、やはりそこには愛する人が……愛する人が……殿下と近い。  そして殿下の目が優しい。  「殿下……大丈夫そうなのは何よりですが、リックはダメですよ」  「フッ。 心配せずとも手は出さん」  それは知っている。  殿下が求めているのは、この世でただ一人だからだ。    「私がフレデリックにいてほしいのは、お前が似ているからだ」  「……私が?」  「………………」  リックは分からなくて当然だ。  そこへ当然の事ながら当の本人がやってきた……そして殿下はその名を愛おしそうに口にする。  「リヴィエール」  儚く中性的な見た目に艶やかな色素の薄い髪、透き通るような肌……整った顔立ちはこの世のものとは思えない存在だ。  我が国のもう一人の王子リヴィエール・フォン・アンドロス殿下。  殿下の弟君……彼は現王妃の連れ子なので二人の血縁関係はない。  王太子殿下の母君が亡くなった後に、陛下が初恋のお方を妃にと召されて、王太子殿下ともご兄弟になった。  黙っていれば妖精のようなのに、王太子殿下の事になると感情的になるので、とても手を焼くのだ。  「クロードのバカ! 兄上と話したかったのに!!」  「殿下の体調が回復されるまで、どうか我慢してください」  私はこの暴れん坊を寝室から遠ざけ、一番遠い応接間へと抱えて行った。  ソファにおろされた弟君は憮然としていて、怒り心頭といった様子に頭が痛い。  どこがリックに似ているのだろう?  私のリックはとても素直で思いやりがあり、他人を侮辱したりはしない。  大きな声で怒鳴ったりもしないし、こんな我が儘を言ったりも……我が儘はぶつけてほしいけれど。  殿下もこんな風に甘えてくるのが可愛いのだろうか。  「なんだよ。 僕が可愛くないとでも思っているのだろう?」  「……何も仰ってませんが」  「顔に書いてる!!」  「はぁ――……殿下の気のせいです。 王太子殿下はあなた様の事をお考えになり、あのような事を仰ったのです」  「……分かっている」  「でしたら……」  「それでも一緒にいたかったんだから、仕方ないだろ!」  「相手の事を思いやれず、仕方ないも何もありません。 逆に考えましょう……もし王太子殿下にあなた様の熱がうつって大変な事になったら嫌ではないですか?」  「…………っ」  ようやく納得したのか、リヴィエール殿下は俯いてしまう。  王太子殿下も甘やかし過ぎなのだ。  彼には王位に就くなどという考えなど微塵もない……でもこのように隙だらけだから、バラデイン公爵のような貴族に目を付けられ、彼を利用しようと近付かれてしまうのだ。  「とにかく王太子殿下が熱が下がるまで、接触はお控えください」  「……分かったよ。 しかし兄上の部屋にいた、あのどら猫……君の猫だろう?」  「な、なぜリックが猫と……」  「見た目が似てたからだけど」  「そうなのですね……」  驚いた。  こういうところは鋭いんだな。  彼が黒猫だった事など知る由もないのに、思わず動揺してしまった。  「とにかくあの猫を兄上に近付けないでくれ。 君の猫なのだからしっかり躾けてくれないと」  「殿下、彼は私の恋人です。 フレデリックという名前もあります」  「……ふん。 悪かったよ! フレデリックの事、頼むぞ」  「もちろんです。 愛する人が他の男と仲良くしているのは、お互いに嫌ですからね」  「そ、そうだな」    さっさと王太子殿下とくっついてしまえばいいのに。  私のリックを巻き込まないでもらいたい。  王太子殿下もまだ覚悟が決まらない様子で弟君を避けている節がある。  避けていても気持ちが消えるわけではないのに……それにイライラしたリヴィエール殿下に当たり散らされるこちらの身にもなってほしい。  まぁ、なかなか踏ん切りがつかないのも分かるけれど。  リヴィエール殿下には家族しか知り得ない重大な秘密があった。  私は父が王族で私自身がエルンシュカ殿下の側近という事もあり、特別に教えてもらったけれど、知った時はとても驚いた記憶がある。  彼は男性の見た目でありながら女性の性器を併せ持ち、子供が生める体……カントボーイなのだ。  しかしそれは我が国では「悪魔の子」と呼ばれ、忌み嫌われる存在――――  そのような方を殿下の伴侶にというのは、貴族は言い含められても民が許すはずはないとお考えなのだろう。  でも殿下が弟君を手放すとは思えないし、出来ないのなら覚悟を決めるしかないのだ。    それなのに私のリックに度々ちょっかいを出すのが腹立たしい。  私はリヴィエール殿下の前に膝をついた。  「王太子殿下は、この世の何よりもリヴィエール殿下の事を大切に想っていらっしゃいますよ」  そう伝えると、殿下の顔が一瞬で真っ赤に染まってしまう。  これは確かにリックに似てるかも……体全体で好きだと言っているところが。  可愛くて仕方ないだろうな。  私のリックの方が断然可愛いけども。  「僕だって同じだ……」  「それを殿下にお伝えしてあげてください。 きっとお喜びになるはず」  「うん」  はぁ――……これで両想いになってくれるといいんだけど。  弟君は大人しく自室へと戻っていき、私も少し仕事を進める事にした。  頃合いを見て再度王太子殿下の寝室に戻ると、私の最愛はまたしても殿下と仲良さげにしていて、嫉妬心が爆発してしまったのは言うまでもない。

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