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第41話 その胸に想う人は 2

 「殿下!!」  足早に去って行く弟君の背中を追いかける。  でも止まってくれる気配はない。  これは気付いていて無視しているんだろうなと思い、速度をあげた。  「殿下、お待ちください!」  失礼かと思ったけれど、弟君の腕をつかんだ。  「殿下!!」  「………………」    リヴィエール殿下は無言のまま俯いている。  そっと覗き込んでみると、ハラハラと涙が流れていた。  あぁぁぁダメだと分かっているけど子供をあやすような意味で抱きしめてあげたい……!  俺ですらそう思うのだから、彼を愛する王太子殿下なら身を焦がす気持ちになるだろうな。  でもクロード様や王太子殿下に見られたら、絶対勘違いさせてしまうから出来ない!  咄嗟にハンカチを出し、涙を拭ってあげた。  「お前、なんなの?」  「え?」  「いつもいつも邪魔をして……」  「え……っと……」  「ただでさえ兄上のそばにいられる時間は限られているのに……邪魔なんだよ!!」  あ、そうか……俺がいると王太子殿下が弟君を出て行かせるから、怒っているんだ。  仕事で来ている俺の方を優先するから。  「ごめんなさい! でも私はクロード様一筋ですからっ!!」  「…………は?」  「だから、あの……私はクロード様が好きで……クロード様も……(ゴニョニョ)」  「はぁぁぁ?!! そんなこと知ってるし!!」  あれ、知ってるんだ……それでも愛する人を俺が取っていくような感じがして嫌なんだろうな。  俺だって、クロード様がリヴィエール殿下を優先したら……想像しただけで胸が痛くなる。  「何やら大きな声が聞こえてきますな」  殿下と二人で振り返ると、そこには先日散々嫌味を言われてクロード様に近付くなと釘をさされたバラデイン公爵が立っていたのだった。  「バラデイン公爵……」  殿下が小さな声で呟く。  公爵は嬉しそうな笑みを浮かべ、殿下へと話しかける。    「リヴィエール殿下、お元気そうで何よりです」  「兄上に見舞いか?」  「ええ。 臣下たるもの、主の体調不良に駆け付けないなどあり得ませんから」  「良い心がけだ。 父上や兄上の為に尽くせよ」  「もちろんです! リヴィエール殿下も我が主ですので、殿下が体調を崩したらいの一番に駆け付けますよ!」  うわ――……これは嬉しくないかも。  バラデイン公爵の事を初めて見た時は暗がりだったので、あまりハッキリと外見は見られなかったけれど、明るい時間にまじまじと見ると、素敵なおじ様貴族といった感じだった。  普通に知り合えば悪い事をしているようには見えない。  でも……ふとした瞬間に見せる表情に仄暗さがあり、ドキッとする。  それに殿下へ向ける視線が気になる。  ねっとりとして、少し頬を赤くして……まさかそういう気持ちで近づいているわけじゃないよね?  想像しただけで背筋が粟立ち、弟君を公爵から守らなくてはという気持ちが大きくなってくる。  「閣下、殿下はお疲れなので休ませたいのですが、よろしいでしょうか?」  「む? お前は……ああ、まだ神聖な王宮にいたのか。 ノンマルディー公爵の愛人めが」  「愛人ではありません」  「では今度は殿下の愛妾に成り上がるつもりか? 卑しい身分の者はやり方まで卑しい」  「そんなことは思っていません」  こんな人にどう言われてもどうでもいい。  クロード様は俺が必要だと言ってくれたから、彼のもとを去るのは彼に拒絶された時だけと覚悟を決めたんだ。  こんな奴に言われた言葉で傷つくもんか……!  涙がじんわり滲んできたけれど、グッと堪えた。  そんな俺に、バラデイン公爵は次から次へと棘のある言葉を放っていく。    「本当に思っていないのか? 体調の悪い王太子殿下を助け、貴族の身分でもねだったのではあるまいな。 もっとも頂戴したからと言って、生まれが卑しいのは変えようがないのだから出しゃばらぬことだ……さもなくば」  「さもなくばなんだと言うのです」  「さぁ……賢い者なら私の言わんとしている事が分かるだろう。 賢い者ならな」  なんて嫌味な言葉を吐いてくるのだろう。  会話をしているだけで気分が悪くなってくる。  この人は身分と血筋至上主義なんだ……俺がどんな身分になろうとも、絶対に認めないだろうな。  そこへリヴィエール殿下が話題を変えてくれる。    「バラデイン公爵、僕は本当に体調が悪いんだ……そろそろ失礼する」  「おお! それは失礼いたしました! では殿下……また夜会の時にでもじっくりお話をいたしましょう」  公爵は弟君の手の甲に口付けながら、絡みつくような視線を送っている。  こんなのを王太子殿下が見たら絶対に嫌に決まってる。  俺は殿下を公爵から引き離した。  「では殿下を連れて行きますので。 失礼いたします!」  「……おのれっ」  後ろで何か言っていたような気がするけどお構いなしに殿下の手を引き、その場を後にする。  そしてこのままでは二人とも最悪な気持ちのままなので気分転換しなくてはと思い、庭園へと連れだしたのだった。

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