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第42話 緊迫するガゼボ

 公爵の絡み付くような視線が頭から離れない。  もしあの人にリヴィエール殿下の秘密がバレたら……売られるというよりも公爵のものにしようとするかもしれない。  想像して背筋が粟立つ。  王太子殿下がリヴィエール殿下を守るべく色々と気を揉むのも分かる気がする。  悶々と考えながら、裏庭へと急ぐ。    「…………おいっ」  「………………」  「……おい!!」  「!」  殿下の言葉にようやく我に返った俺は、恐る恐る振り返ると、こちらを恨めしそうに見るリヴィエール殿下がいた。  自分の手をすぐに離し、殿下に頭を下げた。  「申し訳ございません、殿下!! 強引に連れて来てしまって!」  「ふん。 それはいい……ただちょっと手が痛かっただけだ」  「へ……?」  もっと怒鳴られると思っていた俺は、拍子抜けした声を出してしまう。  嬉しいんだけど、素直だと調子が狂うかも。  ふと周りを見回すとすでに庭園に着いていて、遠くにガゼボが見える。  「殿下、あそこに座ってお話ししましょう」  「……仕方ないな」  「ふふっ」  なんだか公爵と話した後から、妙に殿下が素直だ。  それが嬉しくて、思わず笑ってしまう。  俺が言うのもおかしいけど、ちょっぴり気まぐれなところなんかは猫みたいだなって感じる。  前世は仲間だったのかもしれない、なんて。  俺は殿下が座る箇所にハンカチを敷いた。  「どうぞ」  「お前、なかなか気が利くな」  「ありがとうございます」  「それに……」  「?」  「……さっきは…………感謝する」  「へ?」  「なんだよ、その間の抜けた返事は!!」  「いや、申し訳ございません! お礼……はどの部分に対してでしょうか?」  全く身に覚えのないお礼に聞き返すと、殿下のお顔はどんどん赤くなっていく。  リンゴより赤いのではと思うくらい。  「だから! 公爵から守ってくれた事だよっ!」  「ああ! そんな事ですか~~」  「な……っ!」  「当たり前の事です! リヴィエール殿下は王太子殿下の大切なお方ですし、私が絶対に守ります」  クロード様だってそのくらいの気持ちのはず。  そう思って言っただけなのだけど……殿下の顔が見た事もないくらい真っ赤になってしまっている。  「殿下? 大丈夫ですか?」  「うるさい! お前が……僕の事を兄上のた、た、大切な方とか言うから……!」  なんだかとても新鮮な反応だ。  王太子殿下の事、本当に大好きなんだなぁ……自分を見ているみたい。  クロード様の事でいちいち顔に熱が集まってきて、彼の顔を直視出来なくなったり、言葉に詰まったり。  今は両想いで肌を重ねるようになったけれど、それでもご主人様のやることなす事に俺の全部が反応してしまう。    色々と思い出して、顔がニヤけるのを必死に手で隠した。  「私は本当の事を言ったまでです。 王太子殿下はリヴィエール殿下の事を誰よりも……何よりも大切に想っております」  「……お前もクロードと同じ事を言うんだな」  「え?」  「いや、いい。 お前たち2人を見ていると、僕も兄上に認めてもらえるような立派な人間にならなくてはと思った。 兄上は本当に素晴らしいから……」  ここからリヴィエール殿下の怒涛の惚気が始まる。  約一時間ほど、ずっと王太子殿下の素晴らしさと思い出を語りだし、まったく止まる気配はない。  時折顔を紅潮させ、時にはうっとりした表情をしながら、延々と言葉が並べられていく。  そこに俺が言葉を挟む余地などまるでなかった。  これでお互いに片思いだと思っているだなんて、信じられない。  それでも夢中で語る姿がとても微笑ましくて、いつまででも聞いていたくて……殿下の気が済むまでお話に付き合っていた。    そんな平和な庭園にどこからともなく不穏な気配が近付いてくるのを、敏感な嗅覚と聴覚が感じ取る。    なんだろう、凄く嫌な臭いだ……足音や気配を消して周りの木々に潜んでいるのだろうけど、人一倍敏感な俺の鼻と耳はどうしても感じ取ってしまう。  この臭いや気配はちょっと普通ではない……!    「リヴィエール殿下、私から離れないでください」  「? な、何事だ?」  「シッ……囲まれてます」  「…………っ!!」  俺を消す為か殿下をかどわかす為か――。  どちらにしても殿下を守らなくては……!  どうする……人数は……6人くらい?    武器は、いつも太ももに帯剣している護身用の短剣のみ。  敵は機会を窺っているのか、なかなか出てこない。  アーヴァン様に剣術や体術を仕込んでもらったけれど、実際に戦うのは初めてで手が震えてくる。    殿下を危険にさらすわけにはいかないし、ここは王宮だから助けを呼べば誰かしら来てくれる。  そう思い、クロード様にだけ分かるやり方で、危機を知らせる方法を選択した。  『我々に危険を知らせる時は、こうするのですよ』  アーヴァン様が教えてくれた事。  侯爵家の皆がそれを教わり、徹底している……俺は指を口に咥え、思い切り吹いた。  ——ピィィィィ――――――――――ッ!!!——    それを合図に、茂みの陰から曲者が一斉に姿を現した――。  

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