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第48話 生誕祭

 夜になり、国中の諸侯や令息、令嬢が集まり生誕祭が始まった。  俺は一階のホールの入り口付近に佇み、護衛としての仕事に勤しむ……見たこともない貴族ばかりで、視線があちこちに泳いでしまうなぁ。  そんな中でもバラデイン公爵はひと際存在感を放ち、すぐに見つける事ができた。  正装していると、本当に素敵なおじ様にしか見えないな。  真っ赤な髪を整えて笑顔を振りまき、様々な貴族と交流している姿を遠目から眺めていると、クロード様がやってきたのだった。  「リック、疲れてはいないかい?」  「はい。 でもあなた様ほどのお方が、このような場所で一護衛に話しかけてはいけませんよ」  「またそうやって硬い事を言うんだから。 私が君に夢中なのを知っているくせに」  「シ――ッ!! このようなところで何を言うのです!」  「ふふっ」  クロード様は全然分かっていない。  ご自分がどれほど魅力的か――――今も彼と話したくて機会を窺っている貴族の方々が沢山いるのに。  こういう場にいると、俺なんかが話していい人ではないのだと思い知らされるから、やっぱりあまり楽しむことはできないな。  「そろそろ王族の方が登壇なさいますので、お戻りください」  「もう……分かったよ」  少しいじけたように返事をしたご主人様は、さり気なく近付いてきて耳打ちをしてくる。  次の瞬間、頬に柔らかな感触が触れ、ちゅっと音を立ててソレは離れていった。  「なっ……な…………っっ」  「じゃあ、またあとでね。 リック」  てっきり何か耳打ちしてくるのかと思ったら、頬にキスをしていったのだ……!  こんな公衆の面前で…………きっと今、物凄く顔が赤いに違いない。  気持ちを落ち着かせる為に必死で深呼吸を繰り返す。  そんな事をしていると、やがて時間がきてホールの二階に王族の方々が登壇し、人々は一斉に話すことをやめ、陛下の方へ視線を移した。  「皆の者、よう集まってくれた。 今宵は我が息子である王太子、エルンシュカの生誕祭だ。 存分に楽しんでほしい」  陛下のありがたいお言葉の後、王太子殿下が前に進み出て皆に挨拶をしていく。    「皆、私の生誕の日に集まってくれて感謝する。 このように素晴らしい日に、皆には大きな知らせがあるので聞いてほしい。 リヴィエール、こちらへ」  「はい」  殿下に呼ばれ、リヴィエール殿下が王太子殿下の隣りに並び立った。  いよいよ発表されるんだ……ドキドキしながら殿下のお言葉を待つ。  周りの貴族たちは何が起きるか分からず、少しずつ騒めきが大きくなっていく。  「兄上が皆に知らせたい事の一つは僕の事だ。 僕には皆に知らせていない事がある。それは……僕がカントボーイであるという事だ」  リヴィエール殿下の言葉に一気に貴族たちは驚きの声をあげ、騒めきはさらに大きくなる。  俺の周りでも口々に「そんな……!」「なんと不吉な!」「なぜこのタイミングで……」というようにネガティブな言葉ばかり聞こえてくる。  どうか負けないでほしい――。  「皆が驚くのも無理はない。 しかし私はリヴィエールを心から愛している。 彼を生涯の伴侶として選んだことを皆に祝福してもらいたいのだ」  王太子殿下の言葉に悲鳴のような声も上がってしまう。  やっぱり我が国では受け入れがたいのだろうか……でもこの騒めきを鎮めるように、一人の男性が拍手をし始めた。  「王太子殿下の伴侶がリヴィエール殿下とは。 実にめでたい! 皆もそう思いませんか?」  クロード様……殿下たちの話を聞いた後からこうしようと思っていたのだろうか。  ご主人様の言葉に周りの貴族からは「でも……」「カントボーイは不吉の象徴では?」など戸惑いの声が上がった。  「カントボーイは我が国以外では「神の子」と呼ばれる存在でもあります。 他国からすれば喉から手が出るほど欲しい存在でしょう……王太子殿下が神の子を伴侶に迎えられたとなれば他国への牽制にもなる。 素晴らしいことです」    クロード様の言葉に感嘆の声が上がっていく。  俺も驚いてしまうほど、ご主人様は話し上手なのだなと感心してしまう。  確かに他国からすれば得難い存在である「神の子」を手に入れたと知れ渡れば、我が国と同盟を結びたいとする国が増えるに違いない。  凄いな……結局その後、皆がお祝いの言葉を殿下に捧げ、お二人の婚約は衆人環視のもと、晴れて認められる運びになったのだった。  本当に良かった――――。  ホッとしている内に宴も酣(たけなわ)になり、挨拶回りをしていたリヴィエール殿下が俺を見付け、こちらに歩いてやってきた。  「やあ。 今日も仕事だなんて君は真面目だな」  「殿下……!」  「ほら、暇そうだったから酒を持ってきたぞ。 少し飲め」  「え……でも…………」  「私からの祝い酒だ」  「そういう事なら」  比較的アルコール度数の低いシャンパンを受け取り、一気に飲み干す。  仕事中だしお酒は強くないけれど、殿下に渡されたものは飲まなくては。  少しほろ酔い気分で殿下にお祝いの言葉を伝える。  「リヴィエール殿下、この度は大変お慶び申し上げます」  「うん……ありがとう」  いつもツンツンした口調が多いリヴィエール殿下だけど、今日は本当に幸せそうで嬉しそうで、俺の目にも涙が滲んできてしまう。  「おい、こんなところで泣くヤツがいるか。 まったく仕方ないな……バルコニーへ移動するぞ」  「は、はいっ」  持ち場を離れるのはどうかと思ったけれど、殿下の誘いを断る事の方が難しくて、何より俺を気遣ってくれるのが嬉しくて……そのままバルコニーについて行くことにしたのだった。  ホールは人々の熱気で溢れていたので、夜風がとても気持ちがいい。  「涼しいですね……」  「そうだな」  「本当に、本当に良かったです。 俺、嬉しくて……っ」  あ、しまった。  つい自分のことを俺って言ってしまった……やっぱりアルコールが入ると色々と緩くなってしまう。  でも殿下はそんな事を気にする素振りもなく、俺の涙をハンカチで拭ってくれる。  「もう……いちいち泣くなっ!」  「ご、ごべんなざぃっ」  「まったく。 でもお前とクロードのおかげで一歩踏み出せたから。 感謝しているよ」  「殿下……っ!!」  散々涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしてしまったハンカチが、実は王太子殿下から贈られたものだったと知って、今度は冷や汗が止まらなくなる。  でもリヴィエール殿下はそれすらも楽しんでいて、申し訳ないと思いつつ一緒になって笑い合ったのだった。

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