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第十六話 生きる資格*

なんだよ、それ。 凪は話を終えると、眉毛を下げたまま「だから、君の手で終わらせてほしい……」と微笑んだ。 「君には、その権利があるんだよ」 「……ざけんな」 「え?」   オレはソファーから勢いよく立ち上がると「なんでそうなるんだよ!」と叫んだ。 「お前は、ひとつも悪くねぇだろ!」 「……朔君」   表情が変わらない凪に苛立って、オレは凪の隣に移動した。 そして、凪の心臓を指さすと「ここにあんのは……お前の親父さん達の愛情だろ!」と力強く伝える。 「それを悪用しようと思った、お前の叔父が悪いだけだろ!」 「……」   凪は顔をふせると「……本当に、そう思う?」と感情のない声でつぶやいた。 「……あ?」 「……本当に、九条グループの会長になる予定の"九条凪"は、この問題から無関係でいられると思ってる?」 「っ……」   九条グループの専務取締役の一人、経営企画本部長の叔父がこんな大規模な犯罪を犯していたとなると、九条グループ自体も無傷ではいられないだろう。 その時に、矢面に立たされるのは、会長に就任する凪だ。 「僕が批判や非難されることはいい。だけど……奪ってしまった命は……もう戻ってこない……」   凪はふせていた顔を上げると「それに……君にも……」と泣きそうな表情を見せた。 「僕は……就任パーティーの日に、叔父、星崎メディカルホールディングスと鳳堂の罪を告発するつもりだよ」 「なっ!」   オレが声を上げようとすると、凪はオレの口元に人差し指を当てた。 「……僕には、その責任がある」 「……」 「だから、そのあとは……ただの凪のまま、君に殺してもらいたいんだ」   そう言って悲しみと後悔を含んだ笑みを向けてきた。 正義感が強すぎるだろ。 どうしてお前が、すべての罪をかぶって死のうとしてるんだよ。 オレは凪の体を引き寄せると、力任せに思いっきり抱きしめた。 「……さ、朔君……」 「……」 「苦しいよ……」 「……」   答える代わりにさらに腕に力を入れながら、凪の肩口に顔を埋める。 そんなオレに、凪は小さくため息をついたあと、オレの頭をなでる。 「……朔君は、僕のヒーローなんだよ」 「……」   違う。 オレは、お前の罪悪感を浮き彫りにする存在だ。 「……こんなこと、僕に言われたくないと思うけど」   凪はやさしい手つきでオレの頭をなでながら「君のことが愛おしいよ。だから……その手で僕を解放してね」と笑う。 「……」   どこまで自分勝手なことを言うんだよ。 オレの気持ちは、全部無視か。 「……いやだ」 「え?」   顔を上げて凪を見つめる。 「オレは……お前を殺せない……」 「……」   凪は目を細めながら「……それは、僕が直接罪を犯していないから?」と聞く。 「違う」 「……それじゃあ、どうして?」 「……」   そんなのひとつしかねえだろ。 「愛している人間を殺せるほど、オレは器用じゃない……」 「朔君……」   俺オレの言葉を聞いた凪は「……ごめんね」と謝った。 「君に、余計な感情を教えてしまったみたいだね」 「お前は! まだオレに殺されたいって思ってんのかよ!」 「……」   なにも答えない凪に、オレは怒りを覚えた。 なんで認めないんだ。 お前も、オレと一緒に生きたいって思ってるだろ。 目を合わせようとしない凪の後頭部をつかんで、そのまま引き寄せる。 「朔君……!」   オレの胸を押し返して逃げようとする凪の手を、空いている方の手でつかむ。 そのまま頭上へ縫い付けるように押さえ込み、凪をソファーへと押し倒した。 「……朔君……」 「オレと……一緒に生きるって……約束してくれよ」 「……僕には、生きる資格がないんだ」 「なんだよそれ!」   生きるのに、資格なんていらない。 「ねぇ、朔君。僕なんかのために、涙なんて流さないで……」   凪に指摘されて、泣いていることに気づいた。最後に泣いたのは、いつだろか。 もう覚えていない。 オレの忘れていたいろんな感情を、ここまで引き出してくれる凪を、オレは絶対に手放せない。 「……生きてほしいんだよ……」 「……朔君」 「……お前の罪を、オレも一緒に背負うから……オレと一緒に生きてくれよ」 「……っ」   驚いている凪に、オレは顔を近づけると「……愛してもいいか?」と聞く。 「……こんな僕でも、愛してくれるの?」   返事の代わりに口づけを落とす。 「……凪、愛してる」 「……朔君……ありがとう」   押さえつけていた手を離して、もう一度触れるだけの口づけを落とす。 そして、背中に腕を回して抱きしめる。 「でも、ひとつ心配なことがあるんだけど」 「なにが?」 「このあとのこと」   すぐに仕事の話に戻そうとするのは、コイツの長所でもあり短所でもあるな。 心の中で小さくため息をつくと、抱きしめていた腕をゆっくり解いた。 そして、左手を凪のシャツのボタンへ滑らせる。 「朔君……」 「あ?」 「就任パーティーまで、あと一週間だけど……」 「そうだな」   ひとつずつボタンを外しながらも、凪との会話を続ける。 「神代さんに怒られるんじゃないのかな」 「……」 「なんて報告するつもり?」   すべてのボタンを外してシャツの間からのぞく凪の素肌に唇を寄せると、凪から「……んっ」という甘い吐息がもれた。 「ねぇ、真面目な話をしてるんだけど」 「真面目に返してるぜ?」 「……ん、ちょっ……」   いつもと違う甘い吐息に思わず欲情する。 声の出る場所を集中的に吸いつく。 「んっ……待って……」 「何回お預けくらってると思ってんだよ」 「それは、僕のせいじゃないでしょ」   だいたいお前のせいだろ。 そう思ったが、なにも言わずにベルトに手をかけた。 「朔君……!」 「なんだよ」 「準備してないから……」   恥ずかしそうに顔を赤らめる凪に、理性が吹っ飛びそうになるが軽く深呼吸をして心を落ち着かせる。 「触るだけな」   ベルトを外してパンツを足から引き抜くと、凪の白くて細いしなやかな足が顔を出す。 「っ……」   太ももを撫で上げると、凪が手で口を覆う。 「お前が、どんだけオレに愛されてるか……体で感じてくれ」 「さ、朔君……」 「あ?」   凪はオレのベルトに手を伸ばすと「……朔君も、脱いで……」と小さな声を出す。 「っ!」   そんな顔で見られて断れるヤツがいるのか。 「んっ……!」   凪の唇をふさぎながら、オレは自分のシャツのボタンを乱暴に外して、ベルトに手をかける。 手早くパンツを脱ぐと、下着の上からでも分かるくらいオレのが主張している。 「っん……朔君……」 「あ?」 「興奮、してる?」   変わらず煽ってくる凪に、オレは凪の手をつかんでオレの存在に触らせながら、耳元に口を寄せて「……見りゃ分かんだろ」と煽り返した。 下着の隙間から限界まで主張している熱の塊を引き出すと、同じように凪の存在を引き出してそのまま重ね合わせる。 「あっ……は、……っ」 「……っ」   手のひらから伝わる熱が、オレの理性を掻き乱す。 擦れ合う音と、凪の恥ずかしそうな声が無駄に広いスイートルームに大きく響く。 「あ、やっ、朔く……っ」 「っ……」   オレの背中に腕を回して快楽に耐える凪を見下ろしながら、擦り合わせる速度を上げる。 「ん、あっ……ま、まって……!」 「……ま、たない」   余裕がないのはオレの方だ。 「ぁ、んあ……!」 「くっ……!」 「んっ、っ——!」   短い悲鳴のような鳴き声と同時に、オレの手のひらの中で限界を迎えた熱が激しく脈打った。 溢れ出た熱い白濁が、オレの手からこぼれて互いの下着を濡らす。 「……は、ぁ……っ、凪」 「ふ、はぁ……さ、朔君……」   涙目で見上げてくる凪に、乱れた呼吸を整える隙も与えずに唇をふさいだ。 「んっ……ふ、」   無防備に開いた歯の間から、舌を捩じ込んで絡ませる。 「ふ、ん……っ」 「っ凪……」   ソファーに押し倒したまま凪を抱きしめると「朔君、重たいよ」と言いながらオレの背中に腕を回す。 「……」 「……」 「……まだ、思ってるか?」 「え?」   オレは「……まだ」と言ってから一旦止まる。   まだオレに殺されたいと思っているのか? 凪の返事を聞くのが、正直怖い。 なかなか続きを言わないオレに、凪が「……君と一緒なら、生きてみたいと思ったよ」と告げた。 「な、なんで……」 「なんで分かるかって?」   凪はオレの頭をやさしくなでながら「朔君は分かりやすいからね」と微笑んだ。 そんなやさしい表情の凪を見て、オレは、自分の命に代えても守りたいと思った。

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