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第二十六話 ホワイトクリスマス
コンテナヤードを抜けると、久世のオッサンと相馬が待っていた。
「凪様……!!」
「二人とも、お迎えありがとう。会場の方は?」
「悠真様と、鴉の二人が後処理をしております」
「お坊ちゃま……大丈夫ですか?」
二人は心配そうな顔をしながら凪の体を見つめる。
ジャケットの胸元から下が赤黒く染まっているのは血糊のせいだが、テツさんがリアルさを追求したおかげで本物みたいだ。
作戦を聞かされていたとはいえ、二人の顔色はよくない。
「肋骨にヒビが入ってるくらいだから大丈夫だよ」
「凪様……」
相馬は悔しさで顔を歪めた。
「……とりあえず、早く病院に行きましょう」
「うん、よろしくお願いします」
相馬が運転席に、久世のオッサンが助手席に、オレ達は後部座席に乗り込んだ。
「……ッ」
「大丈夫か?」
「うん……平気だよ」
痛みに耐えながら笑顔を作る凪に「無理はするなよ」とだけ伝えた。
「ありがとう、朔君」
病院に到着すると、すぐに診察がされた。
予想通り、肋骨にヒビが入っていたようだ。
あの距離から撃たれて、ヒビ程度ですんだのは、テツさんのおかげだな。
バストバンドで固定して、自然治癒を待つしかない。
治療が終わり、凪の個室にはオレが残った。
ようやく二人きりになる。
「三週間から一ヶ月程度は安静にしててください、だって」
荷物を置いて、寝巻きを取り出していると凪が医者から言われた言葉を復唱した。
「一ヶ月……」
「骨がくっつくのに個人差があるから、もう少し早い人もいるらしいけど、僕はどうだろうね」
凪はそう言って笑うと「激しい運動、重い物を持つ、あとは体をひねる動作は控えてって言われたよ」と、医者に言われた注意事項をひとつずつ説明した。
「まあ、だろうな」
「……激しい運動だって」
「……あ?」
荷物から顔を上げると、胸元に穴の空いた黒いシャツを脱いでいる凪と目が合った。
「朔君はなんとも思わないの?」
「なにを?」
そう答えると、凪は不満そうな顔をしながらオレに近寄ってくる。
「叔父さんが捕まって、歴史的大事件をひとつ解決したのに興奮しないの?」
「……あのなあ」
コイツは本当になにも分かっていない。
荷物から凪の方に体を向けると、肋骨が痛まないように注意しながら背中に腕を回してやさしく抱きしめる。
「!」
そして、パンツ越しからでも分かるくらい硬くなり熱を持ったオレの存在を凪の腰付近に押し付ける。
「……興奮してるに決まってんだろ」
「朔君……」
倉庫での命のやり取りは、アドレナリンがバンバン出た。
それに加えて、目の前には好きな男。
これで興奮しない方がおかしいだろうが。
「だけど、ヤらねえよ」
「えー」
「えー、じゃねえだろ」
不服そうな顔をする凪の頬を軽くつねる。
「今、お前を抱いたら肋骨が悪化する」
「やさしくしてくれれば大丈夫じゃない?」
「やさしくするなんて無理だろ」
「なんで? 僕だって早く朔君とひとつになりたいんだけど……」
上目遣いで際どいお願いをしてくる凪に、思わず天を仰ぐ。
だから、そういうところだよ。
「無意識なのか分かってやってんのか知らねえけど、そうやって煽られて理性を飛ばさない自信がねえからだよ」
「愛されてるってこと?」
「それ以外になにがあるんだっての」
オレの返事を聞いた凪は、納得したのか「フフッ」と嬉しそうに笑う。
「それじゃあ、僕の傷が完治したときは……」
凪は右手で主張しているオレの存在をパンツ越しに触ると、ほんのり顔を赤く染めながら「朔君のコレ……僕のナカに挿れてくれる?」と甘えてくる。
本当にコイツは、オレを煽る天才だな。
「やめろって言われても聞かねえぞ」
「望むところだよ」
オレは「だったら今日は早く寝ろ。疲れてんだろ」と言って凪から離れるために手を放す。
「でも、今日はクリスマスだよ? 雪の降るホワイトクリスマスだ」
窓の外では、小さな白い雪が東京の空を彩っている。
大嫌いだったはずのホワイトクリスマスが、凪のおかげで好きな日に変わった。
「これから先も、何度だってホワイトクリスマスはあるだろうが」
「それもそうだね」
窓の外を少し眺めたあと、凪は寝巻きに着替えた。
そして、ベッドに入るとオレを呼んだ。
「朔君……」
「あ?」
凪はベッドに寝転んだまま両手を広げる。
「……」
オレがベッドに乗っても、嫌なスプリングの音がしない。
さすが高級ベッドだな。
そんな皮肉を交えながらオレは、凪の体を潰さないように細心の注意を払って凪のことを抱きしめる。
「……朔君」
「あ?」
「……僕を、九条グループの闇から救い出してくれてありがとう」
「……」
その言葉を聞いたオレは「違うだろ」と告げた。
「え?」
「オレが助けたんじゃない。お前が、自分の力で立ち向かったんだよ」
「……朔君……」
凪は両目に涙を溜めながら「僕……ちゃんとできてたよね?」と、初めてちゃんとした弱みを見せる。
「できてた」
「……贖罪になったかな」
「……食材……?」
「……フフッ、絶対別の漢字を思い浮かべているでしょう」
凪は、泣きながら笑うと「贖罪……罪滅ぼしだよ」と言葉の意味を説明する。
「今まで、叔父さん達のせいで犠牲になってしまった尊い命が……少しでも救われたかな」
「……お前の頑張りを、みんな見てたよ」
お前が、ひとりで戦ってきたことを、オレは知っている。
逃げ延びたことで犠牲者にはならなかったが、あの事件の被害者のひとりとして、凪に伝えたいことがある。
「……凪」
「……ん?」
「ありがとう」
オレがお礼を言うと、凪は目を見開いたあと、目を細めてやさしい顔で笑った。
「……こちらこそ、ありがとう」
凪はオレの頬に口づけをすると「ありがとう……僕の、小さなサンタクロースさん」と笑う。
「そこじゃあ物足りねえな」
「え?」
凪の頬に手を添えると、お互いの吐息が混ざり合う。
深く、確かめるようなやさしい口づけを繰り返していると、凪の甘い吐息がもれる。
「……っ、ん」
「……」
「ふっ……ん……」
そんな声を出すな。
唇を離すと、物足りなさそうな顔で見てくる凪。
「朔君……もっとしよ?」
「……ハァ……」
オレは頭を抱えながら「なんでそんなにかわいいんだよ……」とつぶやいた。
「かわいいかな?」
「無自覚かよ……。普段のサイコパス具合はどこにいったんだ……」
「朔君にだけ見せる甘えたモードだよ?」
そう言ってオレの両頬に手を置く凪に「勘弁してくれよ」と言いながら唇をふさぐ。
角度を変えて深く重ねると、凪から吐息がもれる。
「ん……っ」
強引に舌を侵入させていくと、凪も舌先を絡ませてくる。
「あ、……ん……っ」
「……っ」
「ふ、……」
オレの首に腕を回そうとした凪が「……ッ!」と痛みで声にならない小さな悲鳴を上げた。
「大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……」
凪は、痛む肋骨を押さえると「夢中になるとダメだね」と言って苦笑した。
「だから言っただろうが」
ため息をつきながらそう言うと「だって、したかったんだもん」と凪が頬を膨らませる。
その仕草が、今までと違ってやけに幼く見える。
本来の凪は、きっとコッチが素なんだろうな。
オレはもう一度軽く唇に触れる。
「治ったら、嫌だって言うほどしてやるから」
「……じゃあ今日は我慢するね」
凪はオレのことを見つめたあと、視線が下へと移る。
「……我慢できる?」
「……ほっとけ」
「抜いてあげようか?」
「いいからさっさと寝ろ」
部屋の電気を消すためにベッドから下りる。
「朔君はどこで寝るの?」
「オレのことは気にしないでさっさと寝ろって」
「……うん。おやすみ」
「ああ」
電気を消すとオレは、ソファーに座ってじっと待つ。
凪の寝息が聞こえ始めたのを確認すると、オレはトイレに駆け込んだ。
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