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第三十話 オレの選んだ道*

明け方まで凪を抱き潰した次の日、気絶するように眠っている凪の体に残った痕を確認して、オレは頭を抱えた。 確実に相馬に嫌味を言われる。 バスローブを羽織ってタバコをつかむとバルコニーに出る。 澄み切った冷たい空気が頬を刺すが、今のオレには心地よかった。 ゆっくり吸い込んで、煙を吐き出す。 タバコを吸いながら空を眺めていると、部屋の中から物音が聞こえてきて振り返る。 シーツを体にまとってベッドの下に落ちている凪の姿が目に入り、オレはタバコの火を消して部屋の中に戻った。 「……凪?」 「ッ……お、はよう」 「大丈夫か?」 「……そう見える?」 「……」   凪は右手をシーツから出すと、オレに向かって伸ばす。 「腰が……」 「……悪い」   凪の体を抱き上げると「——ッ」と声にならない声を出して、顔を下に向けた。 「あ?」 「……ナカには出さないでって言ったのに……」 「ちゃんと掻き出したんだけどな」 「ちょっと垂れてきたよ」   赤くなった顔を隠すようにシーツにうずめてそう言う凪に、オレは「悪い」と頭をなでながら謝った。 「……お詫びに綺麗にしてやる」 「え?」   凪の体を横抱きにしてバスルームへと向かう。 羽織っていたバスローブを脱ぎ捨ててから、凪がかぶっているシーツを剥ぎ取った。 「じ、自分でやるから大丈夫だよ」 「そんな足腰じゃあ危ねえだろ」 「っ!」   あわてる凪の体を問答無用でバスルームに押し込むと、シャワーを出す。 「ね、本当に大丈夫だから」 「いいから」   そう言ってオレは凪の後ろに指を挿れる。 「ンッ……」 「柔らかいな」 「……だ、だって……あっ」   もう一本指を増やすと、凪がさらに甘い声を出す。 「さっきまで、ココに挿入ってたんだもんな」 「あ、……ん、もっ」   オレの首に腕を回して倒れないように必死になる凪の姿に、我慢できるわけもなく、オレは凪の体を壁に押し付けたあと左足を持ち上げた。 「えっ」   さんざん使って柔らかいままの後ろにオレの存在を押し付けると「き、昨日あんなにシたのに?」と凪が引き攣った笑みを浮かべる。 「一回」   そう言ってゆっくり凪のナカを押し進んでいく。 「っ、あ……んっ、ん」 「……凪ッ」 「あ、ん……っ」   シャワーなのか、オレ達が混ざり合ういやらしい音なのか分からない水音が、バスルームの中で反響する。 「あっ、さ、朔く……んっ」   凪の唇を塞ぎ、凪のいいところを執拗に抉る。 「ふっ、ん、んっ——ッ!」 「ッ!」   迫り上がってきた熱を凪のナカに吐き出した瞬間、凪のナカがオレの存在を締め付けた。 「……中でイったか?」 「も、もう……いちいち言わないでよ……」   恥ずかしそうに顔をそむける凪の顎をつかんで唇を重ねた。 「……ふっ」 「……凪」   凪のナカから抜くと、どろりと白濁が足をつたって垂れていく。 「綺麗にするどころか、また出してるじゃないか」 「……悪い」   笑顔を浮かべているが、コレはマジギレしているときの顔だ。 「先に、出ててね」 「……ああ」   有無を言わさない圧に、オレは黙ってバスルームから出た。 やっちまった。 さすがにやりすぎたと反省をしながらタバコに火をつける。 「……ハァ」   風呂から出た凪に、もう一度ちゃんと謝るか。 そう思って待っていると、フラフラとした足取りで凪がバスルームから戻ってきた。 「悪い」 「……いいよ」   凪はベッドに座って「僕も……気持ちよかったから」と少し顔を赤ながらそう言った。 「っ」   そんな凪を見て、抱き潰したのは悪いと思っているが、そうなったのは凪にも原因があるんじゃないのかと真面目に思った。 「なに?」 「……いや」   多分、思ったことを口に出したら怒られるだろう。 恋愛経験はないが、本能がそう言っている。オレは話題を変えて「今日の予定は?」と凪に質問をする。 「今日は久しぶりのオフだよ」 「よかったな」 「この体じゃあなにもできないから、のんびり休むことにするよ」 「……」   なにも言えなくなったオレに、凪は「フフフッ」と笑った。 「ねぇ、朔君」 「……あ?」 「君に、仕事を頼みたいんだけど」  ◆ 三日後、オレは凪と二人で児童養護施設にいた。 ココは、オレが誘拐されるまで世話になった施設だ。 「……久しぶりだな」 「何年ぶりだろうね」 「……さあな」   ここの施設からは、オレ以外にも違法臓器売買の被害に遭っていたらしい。 あんまり覚えていないが、凪の用意した告発書類の中に書いてあった。 「……」   凪が拳を握り締めていることに気づいた。 「緊張してるのか?」 「……記者やカメラマン、関係のない人になにかを言われても、世論の声として参考にするくらいの気持ちで聞けるんだけど……」   養護施設の入り口を見つめながら眉毛を下げると「……遺族の方や当事者の方から伝えられる言葉は……少し怖い」と悲しそうな顔を見せる。 「……」   オレは凪の肩を抱き寄せる。 「……胸を張れ。お前はなにも悪くない」 「……朔君……」   凪は微笑むと「……ありがとう」と前を向いた。 記者会見が終わり、第三者委員会が立ち上がったあと、社内の事実調査が始まった。 そして、凪は違法臓器売買の被害に遭った少年少女達が育ったすべての児童養護施設に寄付と弔問に行くことを決めた。 今日からオレの仕事は、弔問に行く凪のボディガードだ。 「……」   中に入ると、落ち着いた様子の施設長が待っていた。 「……」 「……初めまして。九条凪と申します。本日は、一人の人間としてお詫びを申し上げるために参りました」   凪は軽く頭を下げる。 「このたびは、取り返しのつかない事件を起こし、施設の皆様に計り知れない苦しみを与えてしまいました。本当に申し訳ございません」   深く頭を下げてから、凪は「謝罪だけで許されることではないと承知しています。それでも私は、この会社の責任者として、生涯をかけて償っていきます」と続けた。 「……頭を、上げてください」 「……」   施設長の言葉を聞いた凪は、ゆっくりと頭を上げた。 「……やさしい方ですね」 「……そんなことは……」   施設長はそう言うと、微笑むながらオレのことを見た。 「……朔君、だね?」 「……はい」   オレのことを覚えているのか。 「大きくなったね。面影が残っていたから、すぐに分かったよ」 「……お世話になりました」 「うん……。君やアキちゃんの行方が分からなくなって、もう会えないのだろうと諦めていたのが正直な気持ちなんだ……」   それはそうだろう。 オレ達が誘拐されてから、どれだけの月日が経ったと思っている。 「だから、ニュースで君達が違法臓器移植のドナーとして連れ去られたのだと知ったとき、とても悔しかった……」 「……」 「……だけど」   施設長は凪に視線を向けたあと、オレのことを見る。 「被害者である君が……この事件に関わっていた九条グループの新会長さんと一緒にいるということは、君は赦したんだね?」 「赦すものなにも、コイツはオレ達を助けるために動いていた側だ」   オレがハッキリと答えると、施設長は目を見開いて驚いた顔をする。 「……もう会えないと思っていた君が、そんな風に誰かの隣に立って支えている姿を見ることができただけで、私は嬉しいよ」   施設長は笑いながら「お忙しい中、わざわざありがとうございました。これからはあなたが上に立って、クリーンな会社を目指して頑張ってください」と右手を凪に差し出した。 「……ありがとうございます」   凪も、その手をやさしく、それでいてしっかりと握り返した。 車に戻った凪は、助手席に座って窓の外をボーッと見つめている。 「……」 「……」 「……凪」   運転席から声をかけると「……ん?」と一拍置いてから返事をする。 「どうした?」 「……いや」 「……」 「いい方だったね」   施設長の顔を思い浮かべながら、たしかにやさしい人だったことを思い出す。 「……そうだな」 「……赦されたいとは思っていないけど……僕のこの行為は自己満足なのかな……」   そう言って両手を見つめる凪に、オレは「……いいだろ」と肯定する。 「え?」 「……自己満足でもいいだろ」   青信号に変わって、オレはアクセルを踏み込んだ。 「それが、お前の決めた背負う覚悟だ」 「……」   凪は一瞬驚いた表情を見せたが「……うん」と少しだけ笑ってうなずいた。   窓の外には、夕暮れの赤に染まった街が流れていく。 凪の整った横顔が、赤に照らされている。 九条グループが犯した罪は消えない。 被害者の悲しみも、失われた命も戻りはしない。 だけど、そのすべてを背負って前へ進むことを選んだのはコイツだ。 それなら、オレはその隣で守り続ける。 ——それが、オレの選んだ道だ。

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