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第15話

ep.15 11 届かぬ鼓動、断たれた指先 下  シャンヴァンヴィルに戻ってきてから、タクトは目に見えてジュリアンを拒絶し始めた。  だが、タクトは知らない。  あの時、タクトの条件を呑んだジュリアンは、咄嗟に、柄に嵌めるはずだったリアムの鱗を自らの鱗へとすり替えていたことを。  したがって、刃がヴォルフを貫いたところで、リアムからヴォルフへの愛が消えることはない。リアムは今もヴォルフへの苛烈な執着を抱き続けている。事実として、誰の心も壊れてなどいない。  ――いや、ジュリアンだけは、致命的なまでに深く傷ついていた。  呪いの刃を偽装し、対価を払ってまでタクトの願いを叶えた。それほどまでに彼を望んだというのに、戻ってきたタクトは、冷ややかな拒絶を向けてくる。  結局のところ、彼は私の番になどなりたくなかったのだろう。  自惚れていた。  タクトは裏切られることを極端に恐れ、防衛本能で心を閉ざす。——だが、それはあくまで「ジュリアン以外の者」に対してだけだ。  彼はジュリアンにだけは本音をぶつけ、我儘を言い、甘えてくれていた。ジュリアンにだけは、誰よりも特別に好意を向けてくれている——そんな絶対的な自信を持っていた。  そうした傲慢な自惚れが、今となってはひどく滑稽で、耐えがたい。  ジュリアンが小さく息を吐いただけで、部屋の空気は凍りつき、重苦しい沈黙が降りた。  タクトの拒絶を前に、ジュリアンにできることは何一つなかった。これ以上冷ややかな視線を向けられ、避けられ続けるくらいなら――いっそ、この世界ごと壊してしまいたいという衝動が胸を過る。 「タクトはもう長い間、私の(胡桃)を欲しがらない。苦しむ様子もない。なり損ないとはいえ、竜人だ。……呪いは、もう解けたのだろう」  そう自分に言い聞かせ、ジュリアンはタクトの望むままに距離を置いた。  触れることも、話しかけることも、目すら合わせることも許されない。  ただタクトが望む「不在」を演じることが、彼にできる唯一の献身だった。  これ以上の拒絶に、自分は耐えられるのか。  恐怖と絶望の中に沈み込むあまり、ジュリアンは自らの鋭敏な観察眼を曇らせていることにも気づかなかった。  それが致命的な過ちだとは知らずに。  タクトの呪いは解けてなどいなかった。拒絶によって抑制を失った呪いは、今まさに身体の奥深くで凶悪な牙を剥いている。  隣室で最愛の少年が骨の軋む激痛に耐え、血を吐くような喘ぎを繰り返していることなど、私室で独り絶望に沈むジュリアンには、知る由もなかった。  ◇  その呪いは、タクトの全身の骨が悲鳴を上げるほどの、凄まじい「重圧」となって襲いかかる。  実際に何かが身体の上に乗っているわけではないのに、鉛のようになった四肢は立ち上がることすら叶わず、肺が圧迫されて呼吸は極端に浅くなる。  タクトは寝室の床に(くずお)れながら、ジュリアンに知られぬよう激痛を必死に隠した。  誰にも助けを求めず、誰にも悟られず、ただ独りで耐え抜いた自分を、最後にはそっと、心の中で褒めてあげるために。

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