39 / 44
第39話
ep.39 30 青き瞳の微熱、本能の淵で眠る 上
ジュリアンは肌が見えないよう手早くタクトの衣服を被せると、扉の向こうまで物理的法則を無視して瞬間移動した。
ヴァロアとガレルはタクトの衣服の乱れを見て、何を思い至ったのか、およその想像はつく。驚愕に目を見開いていた。けれど、ジュリアンの「これより戻る」というひと言で彼らは居住まいを正し、帰還の準備を整える。
ジュリアンは瞬間移動でタクトを連れ、単身で先に戻ることも可能だった。
しかし、三日間も扉の前で待たせた二人を置いて帰還するのは情に欠けると判断したのだろう。ジュリアンはあえてヴァロアとガレルを伴って帰ることにした。
(竜人にとって番は何よりも最優先の存在なのに……我々ごときのために、これほどの配慮を……っ!)
そんな彼らの熱い感動が、背中越しに伝わってくる。
けれどジュリアンは、二人を置き去りにするかしないかの絶妙な速度で先を行く。
妥協を許さず、ジュリアンの足手まといにならぬよう死に物狂いで食らいついてくる二人の瞳は、苦痛よりも興奮に輝いていた。
「ジュリアン様についていくための、血沸き肉踊るような時間だ」
誰が零した言葉か、あるいは二人の共通認識か。
(先に瞬間移動で帰った方がふたりの為にもなったんじゃないかと思ったけど、連れて帰ることで、三日間扉の前で待たせたご褒美になっている。戦闘狂というものは、ある種ドMなのかもしれない)
タクトは心の中で密かに感心しながら、ジュリアンの腕の中でそよ風ひとつ感じていなかった。
ジュリアンが周囲に結界を張っているからだ。
「タクト、私の最愛」
額、瞼、鼻先、頬、顎、唇を覗いて雨霰のように口付けが落ちてくる。
神預の美貌に嵌められた青い瞳は熱にゆらゆらと揺れ今にもタクトを喰らい尽くそうとしていた。
タクトの身体の芯には熱がこもり、それが鱗による共鳴なのか、口付けによるもの判別はつかなかったけれど、身体は安眠を求めていた。呪いが解けた反動だろう。気が抜けたせいで一気に押し寄せてきていた。
「ジュリアン様、眠い」
ジュリアンの首に腕を巻き付けて甘えるようにしがみつけば、何とも言えない情欲がまとわりついてくる。タクトの眉根が寄る。
「ジュリアン様、抑える気あります?」
「ない」
優しく抱き込まれて、耳朶を甘噛みされる。
「ゆっくり休むといい」
「矛盾、矛盾してますよ、ジュリアン様」
熱い情欲がとぐろを巻いて、タクトに舌舐めずりしている。
「でも僕の意思の方が強いんですからね」
ジュリアンの首筋に唇を寄せ、音を立てて、口付けしながら、タクトは子供のような深い眠りに落ちていった。
ーーそれは意思でなく、本能だ、タクト。
愛し気な声はもう、タクトには届かない。
タクトの懐には、ジュリアンの剥いだ鱗がすべて胡桃になって、大切に収まっていた。
ともだちにシェアしよう!

