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第43話 恩師。

 ダニエル教官は私が断ると思ってなかったらしく、教会まで馬車で来ていた。 「乗りなさい、アルフレッド。街に帰ろう」  音楽の臨時講師の仕事は終わったのだろう、二台目の馬車には荷物と教官に仕えている少年達が乗っているようだ。 「私もあちらの馬車で結構です」 「僕は君と話がしたいんだ。話が済めばあちらの馬車に移動すればいい」  一体何の話をするのだろうか。  その話を断って状況が悪化したら、二台目の馬車の少年達に危害を加える可能性もあるかもしれない。  私は一台目の馬車に乗りこんだ。  ダニエル教官も馬車に乗ると、私の隣に座った。  ゆっくりと走り出す馬車は、乗り心地がよかった。 「……話をするならば、向かい合わせのほうが話しやすいのではないですか?」  話を済ませて二台目の馬車に移動したい私は、切り出した。 「向かい合わせでは君に触れにくい。やっと僕のもとに可愛いアルフレッドが帰ってきたのだから、めいっぱい愛でさせてほしいんだ」  穏やかな微笑みと声色で私に触れてくるが、視線は優しいものではなく、狂気が入り混じっている。  それはセドリックとミカエルに無理矢理欲望をぶつけられたとき以上の熱量の視線で、私は怯え身体を震わせた。 「行方知れずになった君と出会わせてくれたのは、神の導きだったのかもしれないね」  ダニエル教官の手が震える私の身体を抱きしめた。  身体に悪寒が走るけれど、怯えた表情を見せるわけにもいかない、あえて抵抗もせず身を任せた。 「君がいてくれさえすれば、他の教え子達や生徒はいらない。僕はアルフレッドだけが欲しかったのだから」  教官は私の髪に、頬に、唇に触れていく。 「白に近い金色の髪はシルク糸のように輝き、灰色の瞳は水晶のように澄み、色白の肌は陶磁器のように滑らかで、薔薇色の唇。……アルフレッド、君は誰よりも完璧で美しい」 「……ダニエル教官」  いくら鈍い私でもわかってしまった、集められた少年達は金髪、そしてどこかしらに傷を負っている。  少年達に私の面影を見付け、その代わりにしていたのだろうことに。  私がダニエル教官のもとに行っていたなら、こんな状況にならなかったのだ。  けれど今更悔いても、もとには戻らない。 「ダニエル教官、私は今でもあなたを恩師だと思う気持ちは変わらないのです。教官にピアノを教えてもらえたからこそ、今でも演奏も音色も大好きです」  そう、ダニエル教官は私の恩師だ。  こんなにもピアノが好きになれたのは、この人から色々と教えてもらえたから。  私は何に怯えていたのだろうか。  恩師の腕の中で、私はひとしきり嗚咽するほどに激しく涙を流した。  ダニエル教官は私が泣き止むまで、優しく撫でてくれた。

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