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第44話 百二十点。
音楽学校で授業を受けていた頃、私にとってダニエル教官が恩師で、それ以上の親しい人物はいなかった。
両親は少し裕福ではあったものの、ごく普通の家庭で、私自身も普通の少年だった。
音楽学校のクラスではみんながライバルで、友達と呼べる存在は私にいない。
近所に住む同じ年くらいの少年達は楽しそうにしているのを見かけて、羨ましく思うことがあった。
それを雑談としてダニエル教官に話したことがある。
『アルフレッドの親友はピアノじゃないかな?君はピアノを演奏しているとき、一番楽しそうで輝いて見えるよ』
教官はそう言ってくれたのだ。
その日からピアノが私の親友になった。
そしてダニエル教官とピアノが私の傍にいてくれたからこそ、充実していた。
しかし、十五歳の進級試験のちょうど三週間前の個人授業中に、ダニエル教官が私をきつく叱ってきた。
『違う!!……そうじゃない、アルフレッド』
いつも温厚なダニエル教官が荒れていたのだ。
荒々しく叱る声は何処か焦りを感じていたように思う。
『……自ら殻を破らなければ、演奏家としての才能は開花しない。君は打破する気がないのか?!』
今考えれば、教官はすでにあのとき私に好意をもっていたのだろう。
教官は私に縋りついて欲しかったのだ。
私はあのとき教官以上に頼れる存在がいなかった。
また教官に褒めてもらえるよう、私は必死に家で練習をした。
家に閉じ籠もり、音楽学校の普通授業にすら通わず自主練習し始めた私を外に出すため、ダニエル教官は小火を起こそうとした。
しかしその小事が大火事になり、両親は命を落とし、私は重度の大火傷を負った。
私や両親にしたことは法により裁かれるだろう。
そして私の身代わりになっていた少年達も、被害届を出したならば、きっとダニエル教官は死罪になる。
街にあるダニエル教官の家に着くと、留守中家を任されていた青少年達に連れられ、部屋に案内された。
「……教室だ」
当時私が個人授業を受けていた頃の教室がその部屋に再現されてあった。
一瞬にしてタイムトリップした私は、音楽学校での最後の課題だったピアノの演奏曲を奏でた。
当時ダニエル教官に言われた通り、感情の強弱を付け、丁寧に弾いた。
演奏が終わると拍手と共に教官の声が教室に響いた。
「アルフレッド、いい演奏だった。百点満点中の百二十点だ!!」
その特徴のあるダニエル教官の褒め方を思い出し、私の瞳から大粒の涙が溢れ出す。
「その褒め言葉、当時聞きたかったです。……次はダニエル教官の番です。どうか罪を償ってください」
教官は警備隊に両手を抑えられた。
到着する前からこの家には、警備隊に包囲されていたのだ。
捕らえられ連れて行かれるダニエル教官を、私はただ黙って見ていることしかできなかった。
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