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第15話 暴れ鮫とは

「暴れ鮫くんってさあ、なんか思ってたかんじと違うんだよね」  フィンは会計席でくるくる席を回しながらつぶやいた。  庶務の席に座って書類を眺めていたルカが顔を上げる。 「確かに、僕もそう思うかも」  おっとりと頷くルカに、フィンはこれまでのレンの印象を振り返っていた。  ワイルド系美形で、学園の生徒たちに騒がれそうなルックスなのに、その凶暴さのせいで誰も近寄りたがらない。    気に入った小型海獣人を見つけるとすぐに「噛ませろ」と強引に迫る男だった。  性的な意味ではなく、文字通り「噛む」。しかもギザ歯だから痛いようで、噛まれた小型海獣人たちは保健室で回復魔法を受けながらさめざめと泣いていたという。    攻撃力は王国でも随一。だけど、その獰猛さのせいで誰も手綱もつけられない。  見た目だけは良いけど、学園中から恐れられている暴れ鮫。  それが――。 「なあ、これ思うんだけどよ。風属性のやつら集めてパーティ組めばもっと効率よく攻略できると思うんだよな」 「このダンジョン、ボスからレアアイテムとれるからなるべく大勢で行った方がいいぜ」 「わっ!? ……んだよびびらせんなよ。誰だよこんなとこにウニ持ってきてるやつはよ! ……ペット? アホか!」  フィンはあちこち動き回るレンを見つめた。 「……思ったより、普通だよね」 「うん」 「もっとさ、『全員噛み殺す!』って感じだと思ってた」 「僕も。……噂なんて、当てにならないのかなあ」  いや、まだわからない。  フィンはレンを興味深く眺める。    確かに、相変わらず表情は怖いし口調も荒い。制服だって着崩しているし、長身で筋肉質だから威圧感もある。  なにより鋭い赤い目とギザ歯、傷跡が怖い。 「おい、フィン。サボってんじゃねえぞ」 「サボってないもん〜」 「サボってんだろ! 誰が苦労すると思ってんだ?」 「オルキウス」 「オルに迷惑かけんな!」  フィンにぷんぷんと注意してくる様子は、恐怖の暴れ鮫というよりは、面倒見が良くてちょっと口の悪い苦労人、という感じだ。  (全然、思ってたのと違うんですけど)  その時、アルシオンが生徒会室に入ってきた。 「皆、席に着け」  気怠げに放たれたその一言に、役員たちは皆自分の席に着席する。 「新ダンジョンが発見された」  その一言に、生徒会室がざわつく。 「新ダンジョン!? マジ??」  フィンは目を輝かせる。  十七年生きてきて、新ダンジョンの発見だなんて初めてだ。  確か、最後に発見されたダンジョンは五十年は昔のことだったと思う。 「種類は?」  オルキウスが静かに問う。アルシオンは一つため息をついた。 「深海だ」  途端にざわめきが大きくなる。  深海ダンジョンは上級者しか入れない、レアなダンジョンだ。ユートランティア王国にはこれまで二つしかなかった。 「三つ目の深海ダンジョンですね」  アクアがごくりと喉を鳴らす。 「ああ。どんなダンジョンなのか見当もつかん。王族直属の冒険部隊が潜っていったが……三階層までしか行けなかったようだ」 「三階層……?」  ルカがぴくりと眉を動かす。 「随分浅いところで止まっちゃったんだね」  フィンは目を丸くした。  ダンジョンは階層が下るにつれて難易度が上がっていく。深海ダンジョンとはいえ、三階層までとは驚いた。 「そこでだ」 「え、やな予感」  フィンは苦笑した。 「俺たち全員で、新ダンジョン探索に行く」  アルシオンの言葉に、どよめきが起こる。フィンは天を仰いだ。 「やっぱり〜……」    生徒会本部は、代々『王海の牙』と呼ばれる王国最強の学生戦闘集団だ。  そしてフィンたちの代は、その中でも特に優秀だとして、いつしか『黄金世代』と呼ばれるようになっていた。  誇らしくないわけではない。  でも。 「また『王海の牙』のお仕事ですかー? いくら俺たちが強いからって危険な仕事ばっか押しつけられるのは違くない?」  フィンは盛大なため息を吐いた。くるくると椅子を回す。 「危険じゃん絶対ー。生徒なのにー。貴族なのにー」 「非常事態だ。……そうも言ってられん」 「ええ〜。ちゃんとヒーラー役は派遣されるんだよね?」 「ちゃんとマンタ一族の回復隊が同行する」 「……んじゃまあ、許容範囲かぁ」  フィンはちらりと補佐席を見た。 「やっぱ、正式な役員だけ?」 「……そのことだが」  わずかな期待を込めて言うと、アルシオンがいかにも嫌そうに口を開いた。 「アクア・マリステラとレン・ホワイトファングは……特別に同行させろとのことだ」  その言葉に、今までペットのウニを見ていたレンがぴくりと反応した。  アクアも驚いたように目を瞬かせる。  レンの鋭いギザ歯がのぞいた。 「……あぁ?」    

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