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第16話 絶好のチャンス

 生徒会役員だけへの任務だと思い込み、話を半分ほど聞き流していたレンは首を傾げた。   「……そう睨むな。これは俺の意思じゃない。王家からの勅命だ」 「え」  その言葉に、目を見開く。  フィンが驚いたように声を上げた。 「王家って……アルシオンの実家?」 「そうだ」 「ひゃあー。やっぱ暴れ鮫くん、そんな強いんだ」  アルシオンが苦々しそうに腕を組んで言う。 「……俺は反対したんだがな。やつの戦力は一個師団以上だと元老院が判断したんだ」 「えっ、一個師団!? 暴れ鮫くん一人で!?」  フィンが驚きの声を上げる。  レンも驚いていた。  (え、俺そんなに認められてんのか?)  なぜだろう。  喜ばしいはずなのに、素直には喜べなかった。  前世の自分なら、「そんな大役、無理です」と逃げ出していた気がする。 「元老院かあ。相当すごい人たちに認められてるんだねえ」  ルカが感心したように言う。  その言葉に、レンはふと疑問に思った。 (あれ? 元老院なんて、ゲームにいたか?)  この世界に元老院という組織があること自体は知っている。  王国の最高意思決定機関だ。  だが、攻略本にもシナリオにも一度も名前が出てこなかったはずだ。    (すごそうな人たちなのに、そういや原作に登場しねえ。おかしいな……?)  考えていると、ふと無言だったオルキウスが席を立った。 「俺は……レンたちが行くのは反対だな」  一瞬、生徒会室がしんと静まり返った。  レンははっとしてオルキウスを見上げる。 「オル……?」 「えー、なんでよ。絶対暴れ鮫くんいた方が良いじゃん〜。アクアだって、最近頑張ってるじゃん」  レンは信じられない気持ちでオルキウスを見つめる。  オルキウスはレンを見ないまま告げる。 「正式な役員ですらない補佐まで危険に晒す必要はない。未知のダンジョンだぞ」 「だが……勅命だ」 「勅命、ね……」  オルキウスはふと目を伏せる。  その金色の瞳に陰がかかったように見えた。 「どうした、オルキウス。らしくないぞ」  アルシオンが眉をひそめた。オルキウスはしばらく黙っていたが、やがて諦めたようにため息を吐いた。 「……わかった」  短くそう言ったものの、その表情は晴れなかった。  オルキウスはレンとアクアの隣に立つ。 「二人を行かせるなら、いつでも帰還魔法が使えるように準備しておいてほしい」 「……いいだろう」 「お、オル……。俺なら大丈夫だぜ?」  レンが腕をまくってその逞しい腕を見せると、オルキウスが呆れたようにため息を吐いて首を振った。 「……なんにせよ、俺が二人を守るから」  オルキウスの言葉に、レンは胸の奥がぎゅっとつかまれたような気がした。  ぽやっとオルキウスを見つめる。  そして、はっとして隣のアクアを見た。  アクアは大きな目を丸くしていた。  その白く透き通った頬が薔薇色に染まっている気がして、レンはとっさにアクアの肩に腕を置いた。 「お、俺がいるんだ! 安心しやがれ! 誰も怪我なんてさせねえ」  そう言い切ってギザ歯を見せながらスマイルを作って見せる。  オルキウスはなぜかますます不機嫌になったように、黒い笑みを深くした。 (俺、また地雷踏んだか……?)  レンは理由のわからないオルキウスの黒い笑みに、内心冷や汗をかきながら首を傾げた。   ◆    レンはホホジロザメの姿で深海を泳ぎながら、ぼんやりと考えていた。  (やっぱ、違う展開になってる……)  ゲームでは確かに新ダンジョンは存在していたし、アクアと生徒会役員たちと向かうことになっていたが、悪役令息のレンは同行しなかった。  むしろ、ゲームのレンはダンジョンの入り口で待ち伏せをし、「俺も入らせろ」とかなんとか言って暴れて、アルシオンたちと結果的にバトルに突入するという展開のはずだった。  (とりあえずアクアの攻略と、リヴァイアサン討伐のために頑張ってるけど、これで良いんだよな……?)  オルキウスの存在や、レンの生徒会補佐としての加入。そして、元老院。  どういうことなんだろうか。 (なんかこういうのって、ゲームの本筋に戻すための大きな力的なのが働くのが主流なんじゃねえのか……?)  この世界の知識はあるが、レンが知らないことも多くある。  ゲームの世界というより――本物の現実の世界のようだ。 「――初めて暴れ鮫が海獣化したところ見るけど、めっちゃくちゃでかいね」  不意に、しなやかで美しいイルカがそばに寄ってきた。  フィンだ。 「ホホジロザメってみんなこんなでかいの?」 「いや……俺は特別だ。普通はでかくても六〜七メートルくらいだな」 「え!? 十メートルはあるよ!? 小型クジラかと思ったもん!」 「俺は最強だからな」 「ひ、否定できない……」  その時、後ろから茶色い毛が近づいてくる。 「みんな待ってよ〜」  そう言って近づいてきたのはラッコのルカだ。 「かっ……!」  レンは赤い目を見開いた。  (――可愛い……!)  もふもふで圧倒的にかわいいビジュアル。  あとでもふらせてもらおう……。そう思っていると、巨大な影がかかった。  見上げると、そこにはどっしりとした黒い影があった。 「みんな、はぐれないようにね」  保護者のようにそう言って上を泳ぐシャチのオルキウスに、レンは胸中でにやにやとする。  ラッコも可愛いけど、やっぱりシャチが一番可愛いしかっこいい。  そうしているうちに、海藻や魚影たちの姿がいなくなってくる。  だんだんとダンジョンの入り口が見えてきた。  巨大な岩山に、石造りの古い観音扉が埋め込まれている。  石扉の前に人型に戻ったアルシオンが降り立ち、手を触れると淡く光り始めた。  重々しい音を立てて扉が開いていく。光が溢れて、深海を照らしていく。 「行くぞ」  アルシオンが低く告げる。  その言葉に、次々と役員たちは海獣化を解いてアルシオンに続く。  レンも海獣化を解いて扉をくぐった。  体の輪郭が歪んで、別の場所に引っ張られていくような不思議な感覚がする。  そして、次に目を開けた時、広大な石造りの海底迷宮が眼前に広がっていた。  不気味なモンスターたちがそこらじゅうを這い回ったり、泳いだりしている。  レンは山田優太の記憶を通して、このダンジョンを知っていた。ゲームのシナリオでも登場する場所だ。  ここでは、アクアが攻略対象と二人きりで生徒会役員たちからはぐれるイベントが発生する。    そして、アクアと攻略対象は共に危険なダンジョンを切り抜け、絆を深めるのだ。 (やることは一つだ)  アクアと二人になって、アクアを守って戦い、絆を深める。 (んで、確かこのあと――) 「わっ!? なになに!?」  突然、フィンの驚いたような声がした。  そちらを見てみると、どこからか現れた巨大なダイオウイカのようなモンスターが猛然と波を起こしながら近づいてきている。  (来た……!)  レンはアクアの隣にさりげなく位置取る。 「アクア、俺から離れんなよ」  そう言ってその細い腕を取る。  その様子を金の瞳がじっと見ていたが、レンは気付かずにイカ型モンスターを見据える。  ――ブシュー!  モンスターが突然真っ黒な墨を吐き出した。 「ぎゃー! きもいきもい!」 「な、なんなの!」  フィンとルカが悲鳴をあげる。   「くっ……! みんな、互いの手を取れ!」  墨の闇の中、役員たちの声だけが聞こえる。  その時、ゴウっと突然激流が起こった。 「う、うわあ!」    悲鳴を上げたアクアの体が、ぐんっと引っ張られる。    レンが踏ん張れば止められた。  だがレンはあえて流れに乗った。  いや、むしろ自ら飛び込んでいった。    レンとアクアは黒い濁流の中、流れに飲まれていく。  自分がそばにいれば、アクアに傷一つつけさせることはない。  ――これで、アクアと二人になれる。  (アクアを守って、好感度を稼ぐ――!)

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