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第18話 今が一番
「ねぇ〜! アタッカーいないからキリがないんですけどぉ!」
フィンは巨大なイカ型モンスターを前に悲鳴を上げた。
ヒュン、と水を切って跳んでくる長い触手を避ける。
「弱点はわかってんのにうまく突けないー!」
避けきれなかった触手がかすり、フィンのすねから血が出る。
「フィン!」
即座にルカが回復魔法をかける。
アルシオンが隙を見て攻撃をしようとするが、何せ触手が多く、避けるのだけで精一杯だ。
筋肉の塊でできた巨大な鞭のようにしなる触手は、触れた岩や地面を抉り削っている。
一撃でもまともに食らったらひとたまりもないだろう。
派遣されてついてきていたマンタ獣人たちは何人かはすでに倒れている。
その時。
アルシオンがどうするか考えあぐねていると、不意に、水圧がズンと重くなった。
凄まじいスピードで何かが近づいてくる。
マンタ獣人たちがどよめく。
その見知った魔力の気配に、アルシオンはふっと思わず口角を上げた。
フィンが触手を避けながら嬉しそうに声を上げる。
「もお〜! 遅いよ! 遅刻だからね! 後で絶対罰ゲーム!」
ルカがほっとしたように体から力を抜く。
「良かったぁ……」
モンスターがぴくりと反応した。
そして、触手を一斉に引っ込めたかと思うと、その巨体を持ち上げた。
――ブシュー!
再び黒い墨が大量に吐き出される。
「わー! またぁ!? しつこい!」
「なんにも見えない……っ」
フィンとルカが悲鳴を上げた時。
ゴウッ! と激流と共に何かが突っ切って行った。
「――アルシオン。防御壁を張ってくれ」
闇の中、低い声が聞こえた。
「……っ」
アルシオンは即座に自身のできる最大の防御壁を展開した。
「……見えねえならよ――」
バチバチ、と弾けるような音と共に、墨の闇の中で黄金色の光が閃く。
その様子はまるで雷雲がゴロゴロと光っているようだった。
「――全部まとめて、吹っ飛ばしちまえば良いんだよ!」
吠えたレンの怒号と共に、アルシオンたちの目の前が一瞬、真っ白に光り輝いた。
一拍遅れて、ドオオォン! と凄まじい轟音がとどろく。
はっと目を開けた時には、墨はすっかり晴れていた。
そして消し炭と化した一帯。その中央で、巨大なイカが焦げつき、ぐるぐると目を回している。
そのイカの目の前に、戦闘形態に変化したレンが立っていた。
「お、おそろしい……」
「強すぎる……!」
「海の悪魔だ……」
マンタ隊員たちが動揺したようにざわつく。
アルシオンの脳裏に、王家の一部で囁かれていた噂が過った。
――『ホワイトファング家のホホジロザメは、海の悪魔だ』
「――派手にやるなあ」
後ろからオルキウスがアクアを連れてやってきた。
オルキウスは金の瞳でまっすぐにレンの背中を見つめる。
アクアはきらきらと目を輝かせた。
「強い……!」
次の瞬間。
むんず、とレンがイカの触手を掴んだ。
「え?」
アクアがまばたきをする。
――ぶちり。
「ひ、ひいい」
どこからか悲鳴が上がった。
レンがイカの触手を次々にひきちぎっていく。
ちぎられた巨大な触手が、放り投げられて土煙を立てながら海底に落ちていく。
「ぎゃー! えなに急にめっちゃ怖い!」
「わ、わあ……スプラッタ……!」
「……」
フィンがぞっとしたように悲鳴をあげ、ルカがちょっと興奮したような声を上げる。アルシオンは静かに天を仰いだ。
「……八、九、十」
なぜかレンはちぎった触手を全部数え終わった後、嬉しそうに振り返ってきた。
「――マジでちゃんと十本ある!」
少年のように笑う。
しかしその顔は返り血で汚れている。
ギザ歯が鋭く光った。
「ぎゃー!!」
フィンが悲鳴を上げる。
生徒会役員たちがほとんど全員ドン引きしている中、なぜかオルキウスだけはやたらと笑顔で嬉しそうだった。
その後。レンは先頭を切ってダンジョンをがんがん突き進んで行った。
レンは攻撃力はずば抜けているが、防御力や持久力は低い。だから長時間ダンジョンにいるのは実はあまり得意ではない。
しかし。
「あっちに敵がいるよ! あ、そこ弱点! あ、それ当たると毒っぽいから気をつけて!」
フィンが的確な索敵と情報共有をし。
「みんな、大丈夫? 継続回復かけとくね」
ルカが全体に強力な回復魔法をかけ。
「アクア、俺から離れるな。……おい、あんまり突っ走るなよ」
アルシオンがアクアを守りながら強固な防御壁を張る。
「レン。安心して進め」
そして、オルキウスはレンが取りこぼしたモンスターたちを丁寧に残さず潰していく。
(なんか……やべえ)
自分はずっと最強だと思って――そう言い聞かせて、レンは生きてきた。
――『暴れ鮫』。
――海の嫌われ者。
自分は強くないといけない。
だから、誰よりもモンスターを蹴散らしてきた。
戦闘は楽しかった。
モンスターを屠っている間だけ、わずらわしい嫌な気持ちから解放された。
一人でも良かった。仲間なんていらないと思っていた。
だけど。
これまでの人生の中で。
今が一番、無敵で――。
(すげぇ楽しい……!)
「――おい、お前ら無事か?」
振り返って訊くと、アクアが頷く。
「全然平気です」
「……そっか」
レンは思わず口角を上げる。
アクアは嬉しそうに少しはにかんだ。
「無事なんだけど血浴びすぎてきもい! 早くシャワー浴びたいー!」
ごろごろと海底を転がるフィンは無視した。
――そして。
生徒会役員『王海の牙』は、新ダンジョンをわずか一日で攻略した。
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