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第24話 海底神殿と天井画

◆  ――現在。  レンたちは海底神殿の巨大な床扉の前にいた。  オルキウスが海底神殿の扉に鍵を近づけると、鍵はひとりでに鍵穴の方へ向かっていった。  そして、扉が重々しい音を立てて開く。  オルキウスが入ろうとして、ぴたりと足を止めた。 「海獣化しないと入れないようだ」  レンはアクアを振り返った。  アクアは――海獣化ができない。  けれど、レンはアクアだけは唯一人型でも入れることを知っている。 「僕なら大丈夫です」  案の定、アクアはまっすぐな瞳で頷いた。  オルキウスが少し眉を持ち上げ、頷く。  レンはその様子に少し引っ掛かりを覚えた。  (なんか、オル、あんまびっくりしてねえな……)  海獣化しないと入れない場所に、アクアは人型でも大丈夫だと言った。  普通はもっと疑問を抱きそうなのに、オルキウスはさほど驚きもせずに受け入れている。  (なんか、こういうとこたまにあるんだよな……)  首を傾げながら、レンは海獣化するために魔力を集中させた。  自分の中にいる、もう一人の自分。  黒くて大きな穴を想像する。そこには巨大なホホジロザメの姿がある。  そして――そこに体ごと飛び込む。  その瞬間、体から魔力が解放されていき、水泡に包まれていく。  ぐぐぐ、と体が膨らみ、輪郭が海と溶けていく。  水泡が収まり、目を開く。  下を見ると、巨大な鮫の影が神殿の床に落ちている。  レンは、開いた床扉をじっと見つめた。  暗く、底の見えない扉の向こうへ進むのを、なぜか躊躇した。    自分が先に行った方が良い。  それはわかっている。  この先に何が待っているのかも、ゲームで知っている。  それなのに、なぜか尾ひれが動かなかった。 「レン」  その時。  巨大なシャチの姿をしたオルキウスに、優しく鼻先でつつかれた。 「……大丈夫だ」 「オル……」  寄り添うようにオルキウスが体を寄せてくる。  強張っていた尾ひれから、ふっと力が抜けた。 「……ありがとな」  小さくつぶやく。  そして、まっすぐに扉の深淵を見据えた。 「行くか」  アクアも黙って頷いた。  レンは大きく尾ひれを動かしながら、扉の向こうに泳いだ。    しばらく泳ぐと、かすかに光が見えてくる。  その光はだんだんと大きくなっていき、やがてレンたちはそこへ辿り着いた。  そこは大きな地下広間だった。  しかし、何もない。  その時、アクアの桃色の瞳が淡く輝き始めた。  レンは隣のシャチを見る。  海獣姿では表情は読めない。    (始まった――)  地下広間がゴゴゴ、と地響きを立てる。  中央の床石が崩れ、地面から何かが押しあがってくる。  やがて、広間の中央には大きな女神像と、台座が現れた。  『――よくぞ来ました』  どこからか、柔らかな女性の声が聞こえる。  この世界には女性がほとんど存在しない。  だからこそ、この女神像だけは優太だった頃から妙に印象に残っていた。  女神像の声が響いた瞬間、その場にいた全員の海獣化が自然と解けた。 「なんだ、これは……!」  後方では、同行していたノワールヴル家の従者たちも息を呑んでいる。  オルキウスは静かに女神像を見上げている。  一方、アクアはぐっと胸の前で拳を握り、女神像をまっすぐに見つめていた。  ――『時は、満ちました。古き者よ。後は絆を示すだけ』。 「絆……?」  後ろで誰かが疑問の声を上げる。  (愛の証だ……)  レンはぐっと唇を噛んだ。  本来なら、ここでアクアは攻略対象と強い愛の絆を示し、女神に認めてもらう。  しかし、好感度が足りない場合は追い返されてしまう。  (この女神像は、人魚にしか反応しない)  ここで女神像に認めてもらわなければ――リヴァイアサンを倒すキーアイテム、『愛の指輪』がもらえない。  ――『絆を』。  そう言う女神像に、アクアがそっと近づく。  好感度が条件を満たしていれば、攻略対象の体に光が宿り、アクアとの絆が示される。    レンはぐっと拳を握った。  その場にいた誰の体にも光は宿らなかった。  ――『絆を携え、再びここへ来なさい』  女神像はそう言い、もう何の声も聞こえなくなってしまった。  (やっぱり、ダメか……)  レンは悔しい気持ちで顔を歪めた。  ゲームとは違う展開になるのでは、とどこかで淡い期待をしていた。  でも、そうはならなかった。  (やっぱ、好感度足んねえか……)  レンは深くため息を吐いて、ぼんやりと天井を見上げた。  次の瞬間、赤い目が大きく見開かれる。 「な、なんか天井に描かれてんぞ!」  ――そこには、巨大な天井絵があった。  うねる波の中で、龍に似た巨大な怪物がとぐろを巻いている。  禍々しい目が、正面に立つ人魚を睨み据えていた。  人魚の後ろにはクジラやシャチたちが大勢いる。    そして――怪物の後ろには、大きく口を開け、牙を向いた巨大な鮫がいた。  鮫は、怪物と並び立っているようにも見える。 「……っ」  レンは息を飲んだ。  思わず、一歩後ずさる。    巨大な鮫が――どうしても、自分と無関係には思えなかった。  

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