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第26話 もう誤魔化せない

 翌日。  レンはオルキウスと久しぶりにピクニックに来ていた。 「やっぱきれいだなあ」  ぽかんとだらしなく口を開けたまま、レンは目の前の絶景を眺める。  深海庭園は、今日も幻想的で美しい。  光る珊瑚礁。暗い海の中、星のように光を反射する小魚の群れ。  ため息を吐く。  オルキウスがレジャーシートへ腰を下ろした。  レンも隣へ座ろうとして――はっと動きを止めた。    (ち、ちけえ……っ!)  近い。近すぎる。  レジャーシートは一般的なサイズだ。しかし、高身長の男同士が座るとなると話は別だ。  以前、ずっとここで二人でくっついて座っていたことに、レンは信じられない気持ちになる。  (なんで昔の俺は平気だったんだ……!?) 「どうした?」  レジャーシートを前にして固まってしまったレンに、オルキウスが首を傾げる。 「あ、いや……っ」  しどろもどろになっていると、そんなレンの顔をじっと見つめたオルキウスが、目尻をふっとやわらかくした。 「来いよ」  ぐっと腕を引かれて体を崩す。  気づけば、レンの肩はオルキウスの胸にぶつかっていた。 「……っ!!」  慌てて体を離す。  顔が熱くて沸騰しそうだ。  オルキウスが目を細める。 「……耳、赤いな」  そう言って、面白そうに顔を寄せてくる。 「い、いや別にそんなことねえし!」  (な、なんだこれ……!)  オルキウスの肩をぐい、と押し返しながら、レンは荒れ狂う胸の鼓動にパニックになった。  (ピクニックってこんな感じだったっけ……!?) 「べ、弁当食おうぜ!!」  半ばヤケクソになってアイテムバッグから弁当箱を取り出す。 「おら!」  どん、とオルキウスと自分の間に挟むように弁当箱を置く。  シャチ柄の風呂敷に包まれた大きな弁当箱。  オルキウスはしばらく黙って弁当箱を見つめた。 「な、なんだよ」 「……今日も早起きしたのか?」 「おう!」 「……愛されてるな、俺」 「は……は!?」  聞き捨てならないセリフに、勢い良くオルキウスを見る。 「お前って本当にシャチ好きだよな」 「あ……ああ、シャチか。お、おう」    予想したこととは違い、レンはやけにどぎまぎとしながらほっと体から力を抜いた。    気を取り直して、風呂敷を解く。 「今日は……ちょっと変えてみた」  そう言うレンの視線の先には、シャチと――サメの柄をしたおにぎりが二つ、隣り合って並んでいた。    今まで、シャチのキャラ弁しか作ってこなかった。  でも、今日はなんとなく、サメも足したいと思った。  他には、定番のタコさんウインナーやからあげ、磯辺揚げなどのおかずと野菜が入っている。  オルキウスはしばらく何も言わなかった。  おそるおそる隣をみると、オルキウスもレンを見る。  金の瞳と目があって、心臓がひときわ大きく跳ねた。  オルキウスはふっと笑った。 「……可愛いな」 「だ、だろ?」  レンは慌てて弁当箱を見る。 「サメも結構うまくできたんだ」 「……そうだな」  レンは誤魔化すように、早口で料理の説明を始めた。  その間も、触れ合う肩や足がじんじんと疼く感じがして、レンはなぜか悲鳴をあげたくなった。  なんとか弁当を食べ終わって、レンは体育座りをしながらぼうっと絶景を眺めた。  ――前にここに来てから、ずいぶんといろいろなことがあった。  アクアが編入してきて、勢いで生徒会に入って。  アクアの好感度を上げようとするけど、なぜか全然うまくいかなくて。  で、そのうちここにいる人たちはゲームのキャラクターじゃなくて、生きてることに気がついて。  いつのまにか、生徒会が居心地良くなって。  アクアとも友達になれて。    オルキウスとも、こうして当たり前みたいに一緒にいるようになって。  そして――。  レンは目を閉じる。  海底神殿の巨大なサメの絵。  学園に流れるレンの噂。  鉛を飲み込んだように、胸が重苦しくなった。  ――やっぱり、自分は断罪されるのだろうか。  こんな穏やかな時間も、もう終わるのかもしれない。  ――あの時、アクアを攻略する道を捨てたのは間違いだったのだろうか。    断罪回避のためだけに、アクアの気持ちを利用しない。  そう、心に誓ったのは事実だ。  だけど――。 『死にたくない』  その言葉だけが胸の奥で何度も響く。  レンは閉じた足に顔を埋めた。そして、そっとオルキウスを覗き見る。  オルキウスは静かに光る珊瑚礁を見つめている。  そのぼんやりと照らされる男らしい横顔に、きゅっと胸の奥が疼く。 「レン」  不意に名前を呼ばれて、どきりとした。 「な、なんだ?」  慌てて顔を上げると、オルキウスにじっと見つめられる。  その顔はいつになく真剣な顔だった。 「……お前が何者でも」  金の瞳には、ただまっすぐにレンだけが映っている。  オルキウスは静かに言った。 「俺はお前を信じている」    レンは大きく目を見開いて、息を飲んだ。 「……っ」  オルキウスをじっと見つめる。  オルキウスも、レンだけを見ていた。  目が逸らせない。  心臓が早鐘のように鳴り出す。  息が苦しい。  (うるせぇ……)  耳の奥で直接鳴るような、大きな心臓の音。  鈍いレンも、認めざるを得なかった。 「だから、俺のことも信じろ。……レン」  そう囁くオルキウスの目に、自分の顔が映っている。  ……もう誤魔化せない。  ――オルが、好きだ。    

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