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第27話 信じる。そして、まさかの
「……あ」
レンはしばらく放心して、それからようやく声を絞り出した。
「……信じる」
自分でも驚くほど素直に、その言葉が口から零れた。
オルキウスは何も言わない。
金の瞳が細められる。
ぐい、と肩を引き寄せられた。
額があわさる。
さら、とオルキウスの黒と白の髪が肌に触れる。
「約束だ」
「……おう」
小さく頷く。
オルキウスが目を伏せる。
「……もうすぐだ」
「え……?」
ぽつりとこぼされた言葉に、思わず首を傾げる。
オルキウスは曖昧に笑って首を振った。
「……いや、なんでもない」
薄く笑うその顔を、レンはぼんやりと見つめた。
『もうすぐ 』。
その言葉の意味を知るのは、もう少し先のことだった。
◆
「レン。一緒にお昼食べよ」
昼休みの鐘が鳴ると駆け寄ってくるアクアに、レンは躊躇した。
周囲の視線が集まる。
「いや……」
「大丈夫。……ほら、行こ」
断ろうとするが、アクアはレンの手を取る。
(やっぱ、アクアってすげえ肝座ってるよな……)
周囲の視線には気がついているはずだ。
それなのに、何もないかのように笑う。
「今日は新しい料理作ってみたから、感想ききたいんだ」
レンはぐっと唇を噛んだ。
「……おう」
ゲームのことは考えたくない。
それでも、『蒼ロイ』のレンがアクアを好きになった理由が、少しわかった気がした。
屋上で二人で昼を過ごす。
それは、もう恒例になった時間だった。
他愛もない話で笑い合うこともあれば、時折ふと真剣な話になることもある。
家庭環境の話だったり、昔にあった嫌な出来事だったり。
そんな時、アクアはレンのことをなんとも言えない顔で見つめてきた。
「……あのさ」
アクアが弁当をつつきながら口を開く。
「レンって、自分の力が人と違うって感じたりする? ……あ、その、強いとか弱いとか、そう言うんじゃなくて、もっと根本的なこと」
「……」
レンは箸を止めた。
「……おう」
脳裏に浮かんだのは、怯える家族たちの目だった。
「……僕さ。実は……人魚、だって言ったら……どう思う?」
その言葉に、レンは思わず顔を上げた。
長い前髪からのぞくアクアの桃色の目は、不安気に揺れている。
レンは息を詰めた。
そして、口端をにっと持ち上げた。
「かっけえじゃん」
まっすぐにその目を見て言う。
アクアの目が大きく見開かれた。
「伝説の古代種だよな。すげえよ」
「え、信じてくれるの……?」
レンはアクアの顔を見る。
その桃色の瞳は、初めて会った日と変わらず、まっすぐだった。
「だってお前、嘘つかねえじゃん」
ゲームとは違って、実はアクアは人魚ではない、なんてこともあるかもしれない。
でも、そんなこと考えもしなかった。
アクアはいつだってまっすぐだったから。
「……っ」
目の前の顔が、ほんのりと赤らんでいく。
アクアは何か言おうとして口を開き、結局ふっと笑った。
その笑顔は、どこか泣きそうだった。
「……レン」
「ん?」
「……タコさんウインナーちょうだい」
アクアはレンの弁当に箸を伸ばしてくる。
「あっ! それラスいち!」
「えへへ」
そう言って笑うアクアはレンの目を見ない。
黒い髪からのぞく耳が赤く染まっていた。
(…………あれ?)
レンは何かいつもと様子の違うアクアに、内心首を傾げた。
――いや、そんなわけはないか。
「……ありがと」
タコさんウインナーを食べたアクアは小さく呟いてから、
「レン。今日さ。……一緒にダンジョン行かない?」
視線をうろうろと彷徨わせながら、そっと訊ねてきた。
「ん?」
レンは一瞬考えた。
今日はオルキウスとの約束もない。
「いいぜ。どこ行く?」
「あ、あ……えっと、どうしよ」
「んだよ、考えてなかったんかよ」
「うっ……」
じゃあどこへ行こうかと考えていると、ふとアクアの耳が目に入った。
まだ赤い。
(んんん??)
「……なんか、アクア耳赤くね?」
「ひゃっ!? え!? あ、暑いだけ!」
思わず訊ねると、大袈裟なくらいアクアの体がびくりと震えた。
(あれ、なんか……)
ものすごくデジャヴを感じる。
つい最近、こんなことがあったような。
うーん、と考え込む。
(どこで見たんだっけ……。
赤くなって、慌てて……)
――『耳、赤いな』
耳の奥に低く心地よい声が蘇る。
はたと気がついた。
――『い、いや別にそんなことねえし!』
「あ……」
レンは思わずアクアを見る。
アクアは熱そうにぱたぱたと自分の顔を手で仰いでいる。
(ま、マジか……!?)
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