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第31話 お任せください

◆      学園から帰ったレンが屋敷のドアを開けると、伝令や使用人たちが慌ただしく行き交っていた。  忙しそうにしている使用人たちに、レンは今が非常事態だということを実感する。 「レン様」  駆け寄ってくる使用人に上着を預け、レンはまっすぐに二階の突き当たりにある当主執務室の扉へ向かった。 「入るぜ」    ノックもせずに扉を開ける。  父――ジョウは机いっぱいに広げられた海図を見下ろしていた。  部屋には長兄と次兄も集まっている。  レンが入った瞬間、兄たちがじろりと視線を向けてきた。  レンは三人が囲む海図を一瞥した。  魔力で可視化された駒が動いているのが見える。軍隊の位置や戦術の確認をしているのだろう。  レンは父親のもとへずかずかと大股で歩み寄った。  机にバン、と片手をつく。 「親父。……ありったけの回復薬をくれ」  その時、ようやくジョウがレンを見上げた。  隻眼の赤い目にレンが映る。  その目を、レンはまっすぐに見つめた。  ジョウはしばらく黙り、それからふっと目を伏せた。 「……全部持っていけ」  その言葉に、一瞬目を見開く。  そして、レンはふと薄く笑った。      レンはホワイトファング家ではなく、『王海の牙』として王家の招集を待っている状態だ。  その間、できることは――一つしかない。 「おらああーー!!」  ダンジョンにひたすら潜った。  モンスターを千切っては投げ、蹴散らしては進む。ひたすら強くなることだけに集中した。  優太としての記憶を取り戻す前は、戦うことが好きだった。力を思うままにふるって暴れまくった。  だけど、記憶を取り戻してからは必要以上に戦うことはしなかった。  でも、今は違う。  強くなるためなら、どこまでも戦える。 「まだまだああーー!!」  九つの首を持つ巨大な水蛇を叩き潰し、深海王の咆哮を拳一つで黙らせる。  倒した相手を必要以上に痛めつけたりしない。  さっさと次の獲物へ向かう。  優太だった頃の前世の知識を総動員し、ついに最強の武器と防具を揃えて――ついでに『王海の牙』の分まで強力な武器も揃えて――レンが海から上がった時には、東の海がわずかに白み始めていた。  そして、その瞬間、レンの元へ一羽の光る海鳥がやってきた。  (きた……)  王家からの招集に、レンはぐっと拳を握った。  光る海鳥がレンの肩へ降り立つ。  海鳥の胸元に、王家の紋章が淡く輝いていた。    レンがその翼に指先を触れた瞬間、海鳥が眩い光となって弾けた。    足元に巨大な魔法陣が広がる。転移魔法だ。  そう理解した次の瞬間、景色が一変した。    視界が真っ白な光に包まれたかと思うと――次に目を開けた時には、巨大な広間にいた。 「レン、おっそーい」  目の前にはフィンたちがいた。  真っ白な(よろい)を纏い、腕を組んでいるアルシオン。  青い鎧姿で腰に手を当て、レンを見るフィン。  アイテムバッグを提げた軽装備のルカ。  緊張したような面持ちの、ルカとそろいの軽装備をしたアクア。  そして――黒鉄(くろがね)の鎧姿のオルキウス。オルキウスはレンと目が合うと、金の目を細めて薄く微笑んだ。 (ビ、ビジュ良すぎだろ……!)  レンは思わず状況も忘れて、一瞬オルキウスに見惚れた。 「全員揃ったな」  その時。  威厳のある低い声がして、そちらを向くと『王海の牙』の先に、アルシオンによく似た真っ白な鎧をまとった偉丈夫がいた。  白銀の髪と深い青の瞳。鎧の細部には金の装飾が施されていた。   後ろには黒衣の宰相、白い鎧をまとった老将軍、剣に手を添えた近衛騎士団長、そして法衣姿の宮廷魔導士長が控えていた。  ハッとした。  みんなが膝をつき、首を垂れる。レンも慌てて(ひざまず)いた。 「楽にせよ、若騎士たちよ」  そう言われて顔を上げると、国王は目を細めた。 「まず初めに、私からそなたたちに感謝を伝えさせて欲しい。……若人のそなたたちを巻き込んでしまい、誠にすまない」  頭を下げた国王に、レンは目を丸くした。その場にいた誰もが息を飲む。 「あ、頭を上げてください!」 「父上……」  慌てて手を振り、ガシャガシャと鎧の音を立てるフィンと、目を見開いて国王を見つめるアルシオン。 「本来なら学業に専念し、未来を築く時期である。しかし、リヴァイアサンの目覚めを我らが阻止できなかったために、そなたらの力も頼らざるをえなんだ」   静かな眼差しは海のようで、そこには確かに人情が感じられる。   ゲームでは立ち絵すら存在しなかった王。だが目の前に立つその人物には、自然と膝を折りたくなるだけの威厳があった。 「――ホワイトファングのレンよ」  突然名指しされて、レンは思わず肩が小さく跳ねた。 「は、はい」 「……危険な任ではある。だが、この国を救うため、そなたの力を貸してほしい」  レンは胸に手を当て、深く一礼した。 「……お任せください」  王の手が肩を叩く。  力強いその手に、不思議と背中を押された気がした。  

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