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第32話 出陣
その後、魔導士長が数人の魔導士たちと共に巨大な転移門を築き始めた。
「ねえねえ、レン。敬語、使えたんだね」
こそっとフィンが小声で話しかけてくる。レンはふんと鼻を鳴らした。
「バカにすんな。当たり前だ」
「ちょっとかっこよく見えちゃった。その装備もかっこいいね。ただの鎧じゃなさそう……何の素材なの?」
ルカに訊かれて、レンは素直に答えた。
「深海王とか倒した素材だ」
「へ? ……や、やっぱりすごい」
レンの装備はゲーム内では最強の防具とされたものだ。白銀の鎧に、紅玉の装飾が施されている。
「レンは、元からかっこいいよ」
アクアがそっと会話に入ってきた。レンと目が合うと、ふっと笑う。
「……最強で、自慢の友達だ」
そう言うアクアを、レンはやっぱり眩しい気持ちで見つめる。
「アクアは、誰より強い心を持ってる。……俺には、真似できねえ」
そう言って、レンはアクアをまっすぐに見つめ返した。アクアは嬉しそうに笑みを深める。
「レン」
聞き慣れた声がしてそっちを向くと、オルキウスがいた。
「オル」
黒鉄の鎧姿のオルキウスは直視ができないほど格好いい。
レンはとたんに胸の奥が熱くなった。
「お前は、何があっても俺が守る」
そう言うオルキウスに、レンはぐっと唇を噛んだ。
嬉しい。嬉しくて、たまらない。
――だからこそ、リヴァイアサンを必ず倒さなくてはならない。
アクアと絆を結ぶことができれば、アクアは人魚として覚醒して、きっとリヴァイアサンは封印できただろう。
それでも。
……心は最初から、オルキウスしか選べなかった。
「オル」
金の瞳をじっと見つめる。
――もう、アクアと絆を結ぶ未来はない。
だから、人魚として覚醒することもないだろう。
(ごめん、アクア。ごめん、みんな)
――リヴァイアサンは俺が倒す。
レンは意を決して、完成した光輝く転移門に足を踏み出した。
◆
レンたちがいなくなった転移門を見つめながら、王がぽつりと呟いた。
「……やはり、ノワールヴルの若坊が言う通りの男だったな」
宰相が頷く。
「ええ。私もこの目で見るまでは信じ難かったのですが……本当にお変わりになられたようですな」
王は静かに目を細めた。
「ユートランティアにとって、やつの存在が吉となるよう、祈ろうぞ」
「……ええ」
宰相は頷く。王たちは転移門をまっすぐに見つめた。
◆
レンたちは、リヴァイアサンのいる地点から少し離れた海中へ転移した。
目の前には、果てしなく続く海の軍勢。
海獣化したシロナガスクジラやシャチが隊列を組んで海を泳ぎ、その背には白銀の鎧をまとった騎士たちが並んでいる。
イルカやサメ、ゾウアザラシたちにも騎乗用のハーネスが装着され、兵士たちは静かに出陣の時を待っていた。
圧倒的な光景に、レンは思わず息を飲んだ。
――本当に、世界の命運が懸かった戦いなんだ。
その時、横から声をかけられた。
「よお」
見ると、騎乗用のハーネスを付けてもらっている青年の姿があった。
灰色の髪に、鋭く光る橙色の目。
見たことのない顔だ。
「あんたも、ホホジロザメなんだろ?」
そう言ってにやりと笑う口元からはギザ歯がちらりとのぞいた。
レンは目を丸くした。
「お前、ホホジロザメか」
「ああ」
ユートランティア王国では百年ぶりのホホジロザメがレンだった。
ホホジロザメはめったに生まれない希少種で、自分以外の同種を見たのは、初めてだった。
「東海連邦のユノイだ」
そう言って手を差し出される。浅黒い肌で、ユートランティア国民にはあまり見ない色だった。
「同種を見るのは初めてだ。サメ同士、仲良くやろうぜ」
そう言うユノイは得意そうに口端を釣り上げる。ハーネスが装着し終わった瞬間、海獣化し始めた。
水泡から大きなホホジロザメの姿が現れる。
「おお……」
レンは感嘆の声を上げた。自分じゃホホジロザメの姿は見れなかったから、新鮮だ。
(やっぱ、ホホジロザメかっけえ〜……! さすが白い死神……!)
ホホジロザメの別名を思い出し、その格好良さにじんと痺れる。
そうしていると、レンのもとにもハーネスを持った兵士が近づいてきた。
大型海獣人は騎士を乗せ、戦場を駆ける。レンも例外ではない。
非常事態とはいえ、誰かを背に乗せるのは初めてだ。
普段なら、海獣化した姿に触れられるのは恋人か家族だけ。
兵士が手際よくハーネスを締めていくたび、レンはどこか落ち着かない気持ちになった。
ハーネスを装着し終えると、レンは小さく息を吸った。
少しだけ緊張しながら、海獣化する。
水泡が一気に弾けた。
海底を覆うほどの巨大な影が落ちる。
「でっ……!?」
隣を泳ぐユノイが目を見開いた。
ユノイは隣に突如現れた超大型の同種に思わず恐怖を覚える。
(で、でかすぎる……! 俺の倍はあるぞ……!?)
ユノイは目の前の巨大なサメを見つめた。
(本当に、こいつは俺と同じホホジロザメか……!?)
水中で、巨大な白い死神の赤い目がぎらりと光った。
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