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第34話 神殿にて
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意識が闇に沈む。
うつらうつらと現実と夢を行き来しながら、ふと思った。
――あれ、自分は……何をしていたんだっけ。
「――あー! また負けた…! くそ、レベル上げ足りなかったかあ」
優太が悲鳴を上げてコントローラーを手放すと、隣に座っていた姉が謎に得意げに笑った。
「『蒼ロイ』はBLゲーだけど、戦闘にも気合い入ってっからね。やっぱそこも良いのよねえ」
「レベル上げに装備に、スキル……もうRPGじゃん!」
テレビ画面には、ゲームオーバーの文字と倒れている攻略対象たちの姿。
「レンルートだと、アクアと二人で倒せるよ。しかも、他の攻略キャラよりもリヴァイアサン倒しやすいし」
優太は目をぱちぱちとさせて、姉を見上げた。
「え、レンって攻略ルートあるの? 悪役令息なのに?」
姉はぐふふ、と笑う。
「あんた、絶対レンルート好きだよ。まあ、他の攻略ルート全クリしないと出現しないけど」
「そうなんだ。……でも、レン、レンかあ……」
優太はレンを思い出す。
悪役令息。ビジュアルは良いが、いかんせん主人公に執拗に絡んでくるし、邪魔してくるし、短気だし、すぐにバトルになるしで、あまり良い印象がない。
何より、優太が苦手ないじめっ子体質なのがちょっといただけなかった。
「レンルートまでプレイしたら、絶対レン推しになるから!」
「へえ」
「絶対興味ないでしょ!」
優太の薄い反応に姉が口を尖らせる。
(今のところ推しキャラっぽい推しキャラはいないんだよなぁ。……シャチがいたら即推しなのに)
優太はため息を吐き、あらためてゲームオーバーの画面を見つめた。
「でも、リヴァイアサンどうやって倒そうかなあ」
「全然話聞いてないし……。うーん、リヴァイアサンはね、まず闇のオーラを剥がすのを最優先かな」
「闇のオーラ?」
優太が首を傾げると、姉が頷く。
「そう。闇のオーラを纏ったままだと、防御力も攻撃力もばかみたいに高いから、まずそれを剥がすの」
「どうやって?」
すると、姉はムフフと笑った。
「それはね――」
その瞬間、ふと姉の輪郭がぼやけた。
体が内側から温まるような心地で、ふと意識が浮上した。
目を開くと、目の前には白と黒の髪。そして、金の瞳がある。
「……オル」
かすれた言葉で名前を呼ぶと、オルキウスが薄く笑った。
頭を優しく撫でられる。
「気分はどうだ?」
「あ……さっきより、全然マシ……」
ひどく懐かしい夢を見ていたような気がする。
どんな夢かはあまり覚えていないが、何か大切なことだったような気もする。
体の痛みはだいぶ良くなっている。
脇腹にそろりと手をやる。鎧には穴が開いていたが、その下にはもとの腹筋があった。
「あれ……傷」
「応急処置だが、傷は塞いだ。……まだ、中は回復しきっていないが」
「マジか。すご……」
(オル、やっぱすげえな……)
感心していると、金の瞳が伏せられた。
「……失った血は戻らない」
オルキウスに、ぎゅっと抱きしめられる。
レンは薄く笑った。
「オル……ありがとな」
あらためて周囲を見回す。
二人がいるのは海底神殿だった。石造りの地下広間にいる。
時折、地響きのような音と共に、かすかに振動が伝わってくる。
レンは目を伏せた。
「悪い。……負けた」
オルキウスはしばらく黙って、頷いた。
「相手が悪かった」
リヴァイアサンを思い出す。ぎらつく巨大な赤黒い目。山のような巨体。
――あれは、生き物なんかじゃない。〝災害〟だ。
レンは、ぐっと唇を噛んだ。
あのおぞましい目を思い出すと、かたかたと指先が震える。
行かなきゃ。
そう思うのに、体に力が入らない。
――怖い。
レンとして生きてきて、初めての感情だった。
「レン」
その時、オルキウスの静かな声が聞こえた。
ふと見上げると、レンを抱き寄せているオルキウスの静かな金の瞳があった。
その目は、こんな状況だというのに、どこまでも凪いでいた。
オルキウスはしばらくレンを見つめた。
そして、優しくその手を握った。
「……一緒に、逃げるか」
「…………え?」
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