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第34話 神殿にて

 ◆  意識が闇に沈む。  うつらうつらと現実と夢を行き来しながら、ふと思った。  ――あれ、自分は……何をしていたんだっけ。   「――あー! また負けた…! くそ、レベル上げ足りなかったかあ」  優太が悲鳴を上げてコントローラーを手放すと、隣に座っていた姉が謎に得意げに笑った。 「『蒼ロイ』はBLゲーだけど、戦闘にも気合い入ってっからね。やっぱそこも良いのよねえ」 「レベル上げに装備に、スキル……もうRPGじゃん!」  テレビ画面には、ゲームオーバーの文字と倒れている攻略対象たちの姿。 「レンルートだと、アクアと二人で倒せるよ。しかも、他の攻略キャラよりもリヴァイアサン倒しやすいし」  優太は目をぱちぱちとさせて、姉を見上げた。 「え、レンって攻略ルートあるの? 悪役令息なのに?」  姉はぐふふ、と笑う。 「あんた、絶対レンルート好きだよ。まあ、他の攻略ルート全クリしないと出現しないけど」 「そうなんだ。……でも、レン、レンかあ……」  優太はレンを思い出す。  悪役令息。ビジュアルは良いが、いかんせん主人公に執拗に絡んでくるし、邪魔してくるし、短気だし、すぐにバトルになるしで、あまり良い印象がない。  何より、優太が苦手ないじめっ子体質なのがちょっといただけなかった。 「レンルートまでプレイしたら、絶対レン推しになるから!」 「へえ」 「絶対興味ないでしょ!」  優太の薄い反応に姉が口を尖らせる。  (今のところ推しキャラっぽい推しキャラはいないんだよなぁ。……シャチがいたら即推しなのに)  優太はため息を吐き、あらためてゲームオーバーの画面を見つめた。 「でも、リヴァイアサンどうやって倒そうかなあ」 「全然話聞いてないし……。うーん、リヴァイアサンはね、まず闇のオーラを剥がすのを最優先かな」 「闇のオーラ?」  優太が首を傾げると、姉が頷く。 「そう。闇のオーラを纏ったままだと、防御力も攻撃力もばかみたいに高いから、まずそれを剥がすの」 「どうやって?」  すると、姉はムフフと笑った。 「それはね――」  その瞬間、ふと姉の輪郭がぼやけた。  体が内側から温まるような心地で、ふと意識が浮上した。    目を開くと、目の前には白と黒の髪。そして、金の瞳がある。 「……オル」  かすれた言葉で名前を呼ぶと、オルキウスが薄く笑った。  頭を優しく撫でられる。 「気分はどうだ?」 「あ……さっきより、全然マシ……」  ひどく懐かしい夢を見ていたような気がする。  どんな夢かはあまり覚えていないが、何か大切なことだったような気もする。  体の痛みはだいぶ良くなっている。  脇腹にそろりと手をやる。鎧には穴が開いていたが、その下にはもとの腹筋があった。 「あれ……傷」 「応急処置だが、傷は塞いだ。……まだ、中は回復しきっていないが」 「マジか。すご……」  (オル、やっぱすげえな……)  感心していると、金の瞳が伏せられた。   「……失った血は戻らない」  オルキウスに、ぎゅっと抱きしめられる。  レンは薄く笑った。 「オル……ありがとな」  あらためて周囲を見回す。  二人がいるのは海底神殿だった。石造りの地下広間にいる。  時折、地響きのような音と共に、かすかに振動が伝わってくる。  レンは目を伏せた。 「悪い。……負けた」  オルキウスはしばらく黙って、頷いた。 「相手が悪かった」  リヴァイアサンを思い出す。ぎらつく巨大な赤黒い目。山のような巨体。  ――あれは、生き物なんかじゃない。〝災害〟だ。  レンは、ぐっと唇を噛んだ。  あのおぞましい目を思い出すと、かたかたと指先が震える。  行かなきゃ。  そう思うのに、体に力が入らない。  ――怖い。  レンとして生きてきて、初めての感情だった。 「レン」  その時、オルキウスの静かな声が聞こえた。  ふと見上げると、レンを抱き寄せているオルキウスの静かな金の瞳があった。  その目は、こんな状況だというのに、どこまでも凪いでいた。  オルキウスはしばらくレンを見つめた。  そして、優しくその手を握った。   「……一緒に、逃げるか」 「…………え?」

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