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第40話 男になります
◆
レンはオルキウスの持つ私邸にやってきていた。
使用人は必要最低限しかいない。
王都の裏の海辺にひっそりと佇むそこは、雰囲気が良くてなんだか緊張してしまう。
(てか展開はや!?)
レンはごくりと喉を鳴らした。
(え、これって、もしかして、もしかしなくても、そういうことだよな!?)
額から汗が流れる。
レンは目を皿のように見開いて、じっと自分の握りしめた拳を見つめた。
今、レンは寝室らしき、なにやらいい雰囲気の部屋へ通され、ベッドに座っている。呆然としながらシャワーを浴びて、バスローブに着替えた後だ。
オルキウスがシャワーを浴びている音が聞こえてくる。
心臓がドッドッと大きく高鳴り、今にも口から飛び出そうだ。
(ちょ、え!? ど、どうする……!? いや、どうするも何も、覚悟決めろ! 俺!)
ぐるぐると考えて、はたと気がついた。
(て、てか、どっちが〝上〟だ……!?)
その瞬間、頭の中に雷が落ちた。
目をかっと見開く。
よく考えれば、もっと前に気づくべき問題だった。
――なぜ今まで考えていなかった。
(『蒼ロイ』では俺が上だった……! 直接的な描写はなかったけど、ピロートーク的に絶対そうだった)
レンはごくりと喉を鳴らした。
すっと天井を仰ぎ見て、目を閉じる。
イメージトレーニングをする。
「……」
すぐに動悸がしてきて、中止した。
「ど、どうすれば……。ここまできて、オルに恥をかかせる訳には……」
レンは両手で頭を抱え、そのままベッドへ突っ伏した。
泣きたい気持ちになった。
しかし、オルキウスの優しい金の目を思い出す。
「……」
すう、と深呼吸して、レンはぐっと顔を上げた。
(レン・ホワイトファング。〝男〟になります……!)
レンは腹を括った。
その表情は、リヴァイアサンへ挑む直前のように凛々しく引き締まっていた。
「待たせたな」
「はひぃ!?」
その瞬間、がちゃりとシャワールームから戻ってきたオルキウスがドアを開けた。
思い切りびくりと体が跳ねたレンは、舌を噛んでしまう。
「……っ!」
痛みに口元を抑えていると、不審な表情をされた。
「……何してるんだ?」
「……いや、何も」
レンは涙目になりながら視線を逸らした。
「なんだ、舌噛んだのか」
「お、おう……。よくわかったな」
「お前ほどわかりやすい男はいない」
呆れたように笑いながら、オルキウスが近づいてくる。
(て、てか、体……!)
上半身は裸だった。
鍛え抜かれた肩や胸が目に飛び込んでくる。
(か、かっこよすぎるだろ……!?)
シャチの姿の時は可愛いのに、人間の時は格好いいなんて、反則だ。
(そういや可愛いシャチも、実はほとんど筋肉の塊だったな……)
そんなことを思っていると、オルキウスが隣に座ってきた。
ギシリ……とベッドが軋む。
「舌、痛いか?」
問いかけられて、ぎこちなく頷く。
「う、うん」
「見せてみろ」
(……見せてみろ?)
そう思った次の瞬間、オルキウスの指が口に潜り込んできた。
「あえ……!?」
長い指にそっと舌を支えられる。
自然と、べ、と舌を差し出す格好になってしまい、レンは頭が爆発しそうになった。
「……確かに、赤くなっているな」
やわやわと舌を撫でられている気がして、心臓がとび跳ねた。
「お、おる……」
舌を掴まれたまま、涙目でオルキウスを見上げる。
なぜかオルキウスはしばらく黙り込んで、レンを見つめていた。
オルキウスの指先が、舌からギザ歯へゆっくり移る。
「あう……?」
思わずびくりとして目を閉じる。
(な、なんだこの状況……っ!)
おそるおそるオルキウスを見上げると、目が合う。
その目の奥に、熱を感じてどきりとした。
オルキウスの顔が近づいてきて、優しく口付けをされる。
「んっ……」
すぐにオルキウスの舌が潜り込んできて、口付けが深くなる。
オルキウスの舌がゆっくりと重なり、レンは頭がぼうっとして息も絶え絶えになった。
どさ、と音がして、気がつけばベッドに押し倒されていた。
「んぇ……?」
違和感を覚える。
そして、ハッとした。
(あれ、俺が〝上〟じゃねえの……!?)
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