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第41話 心
「お、オル……! ちょ、ま、まて……っ」
いつの間にかバスローブもほとんど脱がされていて、レンは慌ててオルキウスの胸を押し返す。
「……なんだ」
オルキウスがレンの赤い目をじっと見つめる。
「別に嫌じゃないだろ」
「い、嫌じゃないけど……っ! ……お、俺が……〝上〟なんだよな?」
沈黙が降りた。
「……は?」
「……え?」
目を瞬かせると、オルキウスが盛大にため息を吐く。
「た、ため息でっか!」
「はあ……。いや、そういうところも好きだ」
「な、なんだよ!」
くつくつと笑い始めたオルキウスに、ぎゅっと抱きしめられる。
「お前は俺を抱きたいのか?」
なんだか恥ずかしい思いになって唇を尖らせていると、オルキウスが耳元で囁いてきた。
「だ、抱きたいっていうか……ゲームでは多分俺がアクアを抱いてたっていうか……」
ほとんど独り言のようにごにょごにょ言っていると、オルキウスがはっと顔を上げた。
「アクアを抱いた?」
鋭く光る金色の目は、瞳孔が開いている。
慌ててぶんぶんと首を振った。
「抱いてない! なんでもねえ!」
「……本当だな?」
じろりと目を覗き込まれる。頷くが、しばらくオルキウスはレンの赤い瞳をじっと見つめていた。
「……本当みたいだな」
やがて、ふうと息を吐いて目を閉じた。次に目を開けたら、いつも通りのオルキウスに戻っている。
(こ、こええ……なんだ、今の)
嫉妬してくれたのだろうか。
「……」
レンはオルキウスの頭を撫でた。オルキウスが目を見開く。
「……急に、なんだ」
「いや、なんか……オルが可愛く見えて」
「はあ?」
オルキウスはわずかに眉を寄せたまま、されるがまま頭を撫でられていた。
「……お前にこうされていると、シャチになっている時みたいだな」
「うん? ああ、確かに」
ぼそりとオルキウスが呟き、レンは頷いた。
最近はシャチになったオルキウスを、いつも撫でている。
ふと、レンは気になったことを訊ねた。
「てかさ、オル。なんかたまに……心、読んでたりするか?」
その瞬間、しんと寝室が静まり返った。
アクアを抱いたかと訊いてきた時、オルキウスはしばらくレンの目を見て、そして納得したような顔をした。
――今までも、そういう場面は何度かあった。
ただ、勘が鋭いだけなのかとも思ったが、どうもそうじゃない気がする。もっと、異質なものに感じた。
「……」
オルキウスは何も答えない。
わずかに金色の瞳が揺れた。
「……なぜ、そう思う」
「なんとなく? え、マジなんか?」
レンはきょとんと首を傾げた。
オルキウスはじっとレンを見つめていたが、やがてため息を吐いた。
「……野生の勘ってやつか」
恐ろしいな、と苦笑するオルキウス。
「生まれた時から、相手の目を見ると感情が読める。……嘘をついてるかどうかもわかる」
「え! すげえ!!」
レンは瞳を輝かせた。
「超能力じゃん! てか読心術? かっけえ!」
アホみたいに感心しているレンに、オルキウスはふっと笑う。
「お前は……怖いとは思わないのか?」
「え、なんで」
「……俺の前では嘘がつけないんだぞ」
オルキウスは金の瞳を伏せた。
「おう。……え? 別に俺オルに嘘つかねえよ?」
首を傾げる。
確かに、まだゲームの転生など言えていないことはある。だけど、オルキウスに嘘はつかない。
オルキウスは少し沈黙した後、吹き出した。
「……そうか」
ぎゅっと抱きしめられて、転がる。
「ぎゃ!」
悲鳴を上げると、オルキウスに唇を奪われた。
「ん、ぅ」
(……そんな嬉しかったんか?)
突然スイッチが入ったらしいオルキウスに、激しく口付けをされる。
レンも必死に口付けに応えているうちに、ぞくぞくと背筋が震えてきて、だんだんと体の奥が熱を帯びてきた。
「……ぁ、はぁっ……」
ようやく口付けから解放された時には頭がぼんやりとして、視界がぼやけていた。
「……レン。いいか?」
耳たぶを甘噛みされながら囁かれるが、息が上がって答えられない。
ぐったりとしていると、レンを見下ろしたオルキウスが小さく笑う気配がした。
「読心するまでもないな」
そう言って、腰に手を這わせられた。
「あう……」
すり、とオルキウスの親指が腰骨をゆっくりと撫でる。
「こんなに誰かを欲しいと思ったのは初めてだ」
そう言ったオルキウスの手が太ももに移る。つ、となぞるように撫でられて、思わず体が震えた。
「……お前が俺に言えないことがあっても良い。俺の腕の中にいれば、それで良い」
言えないこと。
どきりとした。転生のこと、ゲームのことが頭によぎる。
「お、オル。俺……いつか、ちゃんと、全部話すから……」
気がついたら、そう言っていた。オルキウスはやわらかく笑う。そのまま目尻に口付けられた。
ふと、腰に熱い感触を覚えた。
顔が一気に熱くなる。
……きっと、自分も同じだ。
そう思うとどこかに隠れたくなったが、それ以上に胸を占めるのは羞恥心じゃなかった。
「お、オル……」
「ん?」
オルキウスの厚い胸板が目に入る。レンはおずおずとその左胸に目を伸ばした。
「もっと……触って良いか」
しっとりと温かな感触と共に、どくんどくんと、速い鼓動が伝わってくる。
オルキウスも自分と同じように余裕がなくなっているのかもしれない。
そう思うと、嬉しくなった。
「もう触ってるだろ。……俺も、触って良いか」
小さく笑ったオルキウスに、頬を撫でられる。
こくりと頷くと、金の目が温度を上げた。
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