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第4話
六時を回ると、次々と客が入ってくる。
アレンジメントに気付いて、褒めてくれる客が多い。でも、茅洋が作ってくれたアレンジメントには、誰も言わなかった。
カウンターに飾ってあるのに、気付かないなんてことはないと思うのだが……しびれをきらしてカウンター席についた常連の客に聞いてみる。
「花、綺麗でしょう?」カウンターに置いた茅洋が作ったアレンジメントに視線を配って言ってみる。
「ああ、入り口のところに豪華なのを置いてるね。すごく綺麗で、目を奪われたよ」
――……ん? いや、ここにも置いてるんだけど。
普段、花の類は置いていないのだ。いくら、入り口の花が豪華でも、ここにある花のことも、誰か気付くのではないのか? それとも俺が変なのか?
「この青い花は、どうです?」小田桐が、客に言う。客は、頭を横にかしげて「前からある花だよね」と言ったのだ。
「いえ、今日初めて置いたんです……」
「ええ、そうなの? 前からあるくらい馴染んでるよ。花岡くんのそばにいつもあるって感じするんだけど」
「おお、確かに、そう言われてみれば、亮に似合ってるな……さすが茅洋くんだ」
小田桐は、それだけ言うと、別の話しに切り替えた。
客が最近ハマっている推し活の話しを楽しそうに聞いている。
馴染んでいる? この花が? 確かあのとき茅洋は、俺に似合うと思ってとか言っていた……。
嬉しかった。そんなことを言われて、だから買った。
自分を理解してくれているような、勝手にそんな気になったのかも。
八時過ぎ。占い目当ての予約客がやってきた。亮と同じくらいの年齢の女性と男性だ。
テーブル席に案内して、メニュー表を渡す。
占いはすぐに始めていいということなので、オーダーのビールとつまみを持って、席についた。
客の中には、少し酔ったほうがいいからと言って、酔った状態で占いを聞き、覚えていないとクレームを言われたこともある。
占い料金をとっているわけではないので、それに対しては、「また占いますよ」というだけだ。
今回の客は、悩みや相談というより、こちらを試しているような雰囲気に見えた。
女性客が、占いを希望している用件は、「探している人がいる」だそうだ。
そんなもの、興信所に行けよと思うが、そうは言えない。
彼女の生年月日や、手相で、基本的な性格、現在や過去を見ていく。
思い込んだら突き進むタイプで、頑固者。
昔、大きな事故にあったことがあり、外出先では特に慎重になっている。
「探している人との関係は?」
「幼馴染です」
「家族や他の友人には聞いてないんですか?」
「聞いても、引っ越したとしか」
質問をして答えてもらう。もう、こんなのは、占いとはいえないような気がするが。
勘付いたのは、見つかるということと、その人が男性ということだけだった。
「あなたの性格は、諦めが悪い人みたいなので、探し続ければきっと見つかりますよ。その人……男性……ですね」
「はい。いつ見つかりますか?」
少しだけかじったタロットカードをしてみる。
カードは、すでに見つけていると出た。それをそのまま伝えると。
「その子は、近所に住んでいて、栃木が地元なんですけど、小学校の通学班が一緒…………」
と彼女が思い出話しをしている最中に、バン! と勢いよくドアが開いた。
みんなが、ドアの方を向く。亮も素早く席を立ち、ドアを見る。
茅洋が、息をきらしながら、立っていた。
ただごとではない雰囲気に、店にいた一同が息をのむ。
小田桐も、カウンターから出てきた。
亮は、茅洋のもとに寄り「どうした? 何かあったのか?」と声をかけた。
汗でペタリとおでこにはりついている前髪が、束になっていつも見えない目が見えた。おどおどとした目だ。
「失くした……どこかに、落とした……ここで見ませんでしたか?」
茅洋の用事が、失せ物だとわかり、少しほっとする。失くした本人からしたら、大事なことだろうが、静まりかえった店内に詫び、茅洋を落ち着かせてカウンター席に座らせた。
客は、ほっと一息ついて、また元の賑わいに戻る。
亮は、占っていた席に行き、先ほどの客に少し時間をくれと言ったが、その客はまた来るからと言って帰って行った。
水を飲んで一息ついた茅洋の様子を見る。
明らかに落ち込んでいる表情は、迷子の子供を保護してしまったような気がしてしまう。
「落としたものってどんなもの?」
「このくらいの、茶色の、パスケース……です」
手で、四角を作って、説明する。スマホくらいの大きさらしい。
「コンビニ。深澤さんの隣のコンビニエンスストアにあると思うよ」
それを聞いて、席を立った、茅洋の腕をつかんで引き留めた。
邪魔されたことへの戸惑いを表情に出して、茅洋は亮をじっと見る。何か言おうと口を開いたが、何を言ったら言いかわからないようだった。
「待ってろ。店に電話してみるから。あるか聞いてみるよ。メーカーとかブランドとかは?」
茅洋は、おとなしくカウンター席に座りなおすと、首を振った。
コンビニに電話すると、アルバイト店員が出た。説明すると忘れ物ボックスに茶色のパスケースが入っているという。「ありがとう。すぐ取りに行きます」と言って電話を切った。
「マスター、すみません、ちょっと出てきます」
亮は、小田桐に了解をもらって、茅洋とそのコンビニに向かった。
俺は何をやっているのだろう。
コンビニで引き取るくらい、一人で行けるだろうに。子供じゃないんだ。
こんなに焦るほどの大事なものを失くしてしまった茅洋を……ほおっておけなかった。
コンビニの若いアルバイト店員から茶色いパスケースを受けとり、中身を確認する。
茅洋は、ほっとしたようにニッコリと微笑み、頭を下げた。
外はまとわりつくような暑さでうんざりするが、人助けをしたという達成感みたいなものを感じて気分は良かった。
「良かったな」と言うと、パスケースを両手で包み、「ありがとうございます」と破顔する。
汗で、前髪がぴたりと別れていて、顔が良く見えた。
茅洋は、整った中々のイケメンだった。
そんな笑顔が作れるのかと、不意を突かれた。
暑いからだよな。そうだ。暑いからだ。
顔が熱くなっているのを感じながら、七月の暑さのせいだと思い込むことにした。
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